Semua Bab 愛と彼女は、もうここにない: Bab 21 - Bab 24

24 Bab

第21話

啓司は柚葉と生徒たちの後を追い、野外スケッチの場所へ向かった。春の郊外は、花々が咲き乱れ、緑の草原がどこまでも広がり、息をのむほどの美しさだった。生徒たちは鳥のように芝生の上を駆け回り、笑い声を弾ませながら描く題材を探している。柚葉はその中を行き来し、自然の観察や風景の切り取り方を根気よく教えて回っていた。啓司の視線は、ずっと彼女を追い続けていた。まだ許されていない。態度も冷たいままだ。それでも、こうして毎日姿を見られ、声を聞けるだけで、彼にとっては十分だった。たまに柚葉の視線がこちらをかすめると、啓司は慌てて背筋を伸ばし、穏やかな笑みを返す。だが、彼女はすぐに目を逸らした。遠くの山並みの描き方を生徒に説明し終えると、柚葉は次の生徒のもとへ向かう。足元の突き出た石に気づかず、つまずいた瞬間――体が前へ倒れ込んだ。「柚葉!」啓司は叫び、血の気が引く思いで駆け出す。だが、数歩踏み出したその時、稲妻のように横から駆け寄る影があった。その男は素早く柚葉の身体を抱きとめ、自分の体を盾にして地面への衝撃を防いだ。「柚葉、大丈夫か?怪我はないか?」男の声にははっきりとした気遣いがにじむ。柚葉は顔を上げ、その人を認めてぱっと表情を明るくした。「晴臣!戻ってきたのね?」啓司は追いつき、彼女が無事なことに胸をなで下ろす。だが同時に、その呼び方を耳にした瞬間、心臓が強く締めつけられた。目の前の若く端正な顔――こいつが、柚葉に好意を寄せているという朝倉晴臣(あさくら はるおみ)か。しかも柚葉はまだ彼の腕の中にいた。互いに距離を取ろうともしないまま、彼女は心の底から嬉しそうに笑っている。この数日、啓司には一度も見せなかった笑顔を。啓司の拳に力がこもり、嫉妬の熱が胸を焼く。彼は衝動のまま、晴臣を乱暴に突き飛ばした。「お前……俺の妻に触るな!」不意を突かれた晴臣は、よろめいて後方の石に後頭部を打ちつけ、鈍い音が響く。「晴臣!」柚葉は顔色を変え、慌てて彼のもとにかけ寄った。髪の隙間から血が後ろ首へと伝い落ちる。晴臣は後頭部を押さえ、わずかに青ざめた顔で、それでも柚葉を安心させるように微笑んだ。「……大丈夫、心配いらない」柚葉は顔を上げ、怒りを宿した瞳で啓司を睨みつけ
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第22話

「……具合はどう?すごく痛くない?」柚葉の問いかけに、晴臣は柔らかな眼差しを向けた。「心配いらない。痛くなんてないよ」「じゃあ、宿舎まで送るわ」柚葉は彼を支え、そのまま啓司を完全に無視して医務室を出た。啓司はその場に立ち尽くす。胸の奥に、得体の知れない不安が押し寄せた。――柚葉と晴臣の関係は、思っているよりずっと近いのかもしれない。彼女が晴臣を見るその目は、かつて自分に向けられていたものと同じだった。まさか……もう気持ちは別の男に向いているのか?いや、そんなはずはない。自分と柚葉は幼なじみで、二十年以上の年月を共にしてきた。そんな絆が、そう簡単に消えるはずがない。きっとこれは自分を罰するための芝居だ――そうに違いない。そう自分に言い聞かせ、啓司はゆっくりと椅子に腰を下ろした。それでも、心のざわめきは収まらなかった。――その頃。柚葉は晴臣を宿舎まで送り届けると、申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい……私のせいで怪我をさせてしまって」「君のせいじゃない。謝ることなんてない」晴臣は気にした様子もなく笑みを見せ、逆に彼女を慰める。「大した怪我じゃないから、あまり気にするな」柚葉はなおも気がとがめているようだった。「じゃあ……今夜は私が料理するわ。簡単な食事だけど、付き合ってくれる?」晴臣の瞳がふっと明るくなった。「ああ、ぜひ。お言葉に甘えさせてもらうよ」――夕暮れ。学校の厨房で、柚葉は忙しそうに立ち働いていた。そこへしばらくして晴臣が姿を現す。何も言わず、手際よく野菜を下ごしらえし始めた。「ちょっと、そんなことしなくていいわ。一人でできるから」柚葉は慌てて止めるが、晴臣は淡く笑って言った。「これくらい、大したことじゃない」柚葉は手を止め、彼の手から野菜を取った。「だめよ。あなたは怪我人なんだから。それに今日は私がご馳走するって言ったの、客人に働かせるなんてありえないでしょ」「構わないさ。一緒にやれば、早く食べられるだろ?」晴臣は譲らない。結局、柚葉は根負けして、彼のするままに任せた。やがて外はすっかり暗くなり、料理が仕上がる。厨房の裏庭には枝ぶりの見事な大木があり、その下にテーブルを出して料理を並べた。食事を終える
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第23話

柚葉にとって、晴臣は決して何の感情もない相手ではなかった。初めてネヴァールに来た頃、環境に馴染めず、体調を崩すこともしばしばあった。そんなとき、晴臣は細やかに世話を焼き、見返りを求めることもなかった。人を好きになれば、その想いは隠しきれないものだ。それでも彼は、あくまで慎重に距離を保ち、自分の想いが彼女の負担にならぬよう、細心の注意を払っていた。愛情は、どれほど小さくても炎のように灯る――どれほど抑え込もうとしても、柚葉が気づかないはずがない。けれど、彼女はつい、ひとつの痛ましい恋を終えたばかりだった。「一度火傷をすると、二度と同じことはしなくなる」というように、あの深く刻まれた痛みをもう一度味わう勇気はなかった。だからこそ、柚葉は晴臣の想いを意識的に見ないふりをし、何も気づいていないように振る舞ってきた。けれど、人の心は硬く閉ざされたままではいられない。時間を重ねれば、必ず揺らぎが生まれる。夜空に瞬く星を仰ぎながら、ふと一節の言葉が心に浮かぶ。――人生という旅路は長い。一つの停留所での悲しみにとらわれ、歩みを止めてはいけない。次の駅には、もっと美しい景色が待っているかもしれない。挑む勇気を、決して手放してはいけない。「晴臣……人は前を向くしかないわ」柚葉は顔を上げ、微笑みを目に灯す。「――私、あなたを見たわ」晴臣は一瞬きょとんとし、次の瞬間、その瞳が、夜空の星々も霞むほどに輝いた。わずかに震える手で、彼はそっと柚葉の顔を包み込む。まるで世界で最も尊い宝物を抱くように。「柚葉……この言葉を、どれだけ待ち続けたと思う?」押し殺した感情がにじむ声。「ずっと、君が本当に僕を見てくれる日を、心の中で何度も願ってきたんだ」頬に伝わる掌の温もりが、心の奥まで静かに染み込み、やがて小さな波紋を広げた。晴臣はゆっくりと身を傾け、視線を柚葉の瞳から一瞬も外さない。鼻先が触れ合うほどに近づくと、彼の吐息が微かに頬をかすめ、淡い酒の香と彼だけの匂いが混じる。胸の鼓動が一気に早まる。柚葉はそっと瞼を閉じ、長い睫毛がかすかに震えた。静かで甘やかな瞬間――晴臣の唇が、優しく彼女を捕らえる。二人は互いを強く抱きしめ、熱く口づけを交わした。異国の地で、柚葉はようやく心の扉を開いた
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第24話

その後の日々、啓司はほとんど柚葉の前に姿を見せることはなかった。校舎と医務室は目と鼻の先だというのに、二人は一度も顔を合わせないままだった。柚葉は、彼はもう諦めたのかもしれないと思った。ただ、いつネヴァールを去るつもりなのかはわからなかった。日々は淡々と過ぎ、柚葉のネヴァールでのボランティア活動も、いよいよ終わりが近づいていた。今日は最後の日。明日には晴臣と共に新しい国へ向かい、活動を続ける予定だ。柔らかな風が校内を抜け、朗々たる読書の声だけが響く、穏やかな昼下がり。――その時だった。大地が突如として激しく揺れ、何の前触れもなく地震が襲った。平穏だった校舎が、一瞬にして混乱と恐怖に包まれる。教室の机や椅子が激しく揺れ、倒れ、本や文具が床一面に散らばった。生徒たちは悲鳴を上げ、四方へ駆け出し、どうしていいかわからず泣き叫ぶ。大地は狂ったように揺れ続け、まるで見えない巨大な手に校舎全体が掻き回されているかのようだった。柚葉は最初こそ息を呑んだが、すぐに冷静さを取り戻し、生徒たちに外への避難を指示する。地震はあまりにも急で、激しかった。校舎はきしみを上げて揺れ、天井の一部が轟音と共に崩れ落ちる。ちょうど外から戻ってきた晴臣は、この突発的な揺れに出くわすと、迷うことなく崩れかけた校舎へ駆け込んだ。同じ頃、医務室から飛び出してきた啓司も、焦りに駆られて校舎へと走る。入り口で二人は出会い、言葉を交わすことなく、ただ一度視線を交わし、そのまま同時に中へ飛び込んだ。激しく揺れる廊下を進むたび、壁の漆喰が崩れ落ち、天井からはミシミシと軋む音や、バキッと割れるような音が響いた。二人とも、心の中では柚葉を探していた。だが人命がかかっている以上、今は目の前の生徒たちを救うしかない。教室の出口を塞いでいた机や椅子を、二人で力を合わせてどかし、子どもたちを避難させようとしたその瞬間――頭上から、凄まじい音を立てて巨大な石板が崩れ落ちてきた。真下にいたのは、晴臣。啓司は迷わず身を投げ出し、矢のような速さで彼を突き飛ばす。次の瞬間、石板は啓司の背に直撃し、鈍い衝撃音が響いた。晴臣は我に返ると、慌てて啓司のもとへ駆け寄る。啓司の顔は蒼白になり、口から鮮血が勢いよく溢れ出した。「……啓司先生……
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