花咲は今回、帰ってきたことをほとんど誰にも知らせていなかった。だが、昔の仲間たちが「お帰り会をしよう」としきりに誘ってきた。結局、押し切られるようにして顔を出すことにした。何年もの歳月が過ぎても、顔ぶれは昔と変わらない。けれど、そこにある物語はすでにすっかり入れ替わっていた。家業を継いだ者、子どもを授かった者、病を抱えるようになった者――中でも、最も口にのぼったのは、花咲と遼のことだった。何しろ、かつてこの二人は周りから理想のカップルと羨まれる存在だった。「たとえ世界が終わろうとも、この二人は決して別れない」――そんな言葉まで囁かれていたほどだ。それなのに、結局、別れてしまった。しかも、こんなにも不名誉な形で。昔なじみの友人が上機嫌で、花咲に次々と酒を勧めてくる。すっかり酔いが回り、頭がぼんやりしてきた頃、もうこれ以上はと手を振ろうとしたその瞬間。彼女の手にあったグラスが、不意に誰かに奪われた。耳に飛び込んできたのは、懐かしくも遠い声だった。「代わりに俺が飲むよ。こいつ、胃が弱いから飲むと辛くなる」花咲の体が一瞬こわばり、疑わしげな視線が真っ先に隣の友人へ向く。すると友人は、慌てて手を振りながら言った。「私、彼を呼んでないわよ……」遼は手にした酒を一気にあおると、すぐさま激しく咳き込みはじめた。やつれたその姿は、もともと整った温和な顔立ちを、今ではどこか病弱で頼りない印象へと変えている。咳き込むたびに身体ごと小刻みに震え、立っているのもやっとといった様子だった。花咲は、彼の手に残ったグラスを冷ややかに一瞥すると、何事もなかったかのように自分のグラスを新しいものに替えた。遼は酒を飲み干したあと、所在なげに彼女を見つめ、その瞳には落ち着かない色と、隠しきれない寂しさが浮かんでいた。やがて、見かねた誰かが場を取り持ち、遼を反対側の席へと連れて行った。北と南、互いに干渉しない距離。友人はなおも弁解を続けた。「本当に私じゃないのよ。彼には一言も知らせてないし……きっと、誰か気の利かない奴が、結城家に取り入ろうとしてわざわざ呼んだんだわ。花咲、怒らないで。あとでその空気の読めない奴、私がしっかり叱ってくるから」友人が拳を握るのを、花咲はそっと押さえ、微笑んだ。「いいの
Read more