素羽が従順に振る舞うようになってからというもの、司野の束縛も随分と緩んだ。少なくとも身体の自由を奪われることはなくなり、素羽は自身の活動に専念できるようになった。この間にトライアンフの予選を突破した素羽は、きたるべき決勝戦に向けて心血を注いでいた。司野の意のままに操られてしまうのは、ひとえに自分が無名で、社会的地位を持たないからに他ならない。だからこそ、まずは自らの足で立ち、切り札を握らねばならなかった。大会の準備と並行して、素羽は雅史のもとへ足繁く通うようになった。素羽は妙に潔癖で自尊心の高い人間ではない。利用できる縁故があるのなら、それを使わずにいるつもりはなかった。雅史は口では素羽を疎み、高圧的な物言いをするものの、人脈の提供は一切惜しまなかった。それらを使いこなすには、自らの実力を磨き上げねばならない。さもなくば、実力が伴わず名ばかりの状態に陥ってしまう。恩師の顔に泥を塗るわけにはいかない。雅史のもとを辞した直後、司野から着信があった。瑞基グループの本社まで迎えに来いという命令だった。今日は月に一度、須藤の本宅で開かれる食事会の日である。瑞基グループに到着した素羽は、到着の旨をメッセージで送り、車内で待機した。すると司野から「上がってこい」と返信が届く。無駄な抵抗を諦め、素羽はエンジンを切り、車をロックして上階へと向かった。社長室のあるフロア。エレベーターを降りると、秘書課の面々はまだ誰一人として退勤しておらず、皆仕事に追われていた。素羽が足を踏み入れても、誰も気にも留めない。ただ一人を除いては。里沙。かつて美宜の腰巾着として、率先して素羽を侮辱し、貶めてきた女だ。今回も素羽の姿を認めるや、あからさまに不快な表情を浮かべた。美宜がいなくなった今でさえ、わざわざ素羽に歩み寄り、冷笑と罵詈雑言を浴びせてくる。「本当に面の皮が厚いのね。まだ諦めていなかったの?」素羽は無視を決め込んだ。一度魔法が解けてしまえば、相手の欠点ばかりが目に付くものだ。司野の傍にこのような秘書がいるということは、彼自身も物事の是非を判断する能力に欠けている証左に他ならない。里沙が吐き捨てるように呟いた。「うちの社長には奥様がいらっしゃるのよ。それなのに自分から媚を売りに来るなんて……そのうち世間に暴露されても知
Baca selengkapnya