「すまない」司野は腕に力を込め、素羽をいっそう強く抱き寄せた。素羽の瞳が、かすかに揺れた。鼻腔をくすぐるのは、微かでありながら確かな残り香。それは、美宜の体から漂っていた匂いと同じだった。――ご苦労なことね。あちこち飛び回って。しばらく経っても、腕の中の素羽は反応を見せなかった。司野は彼女が起きていることを察し、その体を自分の方へと向けさせた。「目を開けろ」素羽は動かない。司野は彼女の腰を軽く掴み、「起きているのは分かっている」と低く促した。「……」眠ったふりを貫くこともできず、素羽は重い瞼を押し上げた。司野は独白するように語り始めた。「美宜が手首を切って、大量に出血した。俺が行かなければ、彼女は死んでいた。一つの命なんだ。理解してほしい」「ええ、理解しているわ」素羽は短く答えた。司野は言葉に詰まった。あまりにあっさりと応じられ、かえって次の言葉を失ったのだ。「……本当に、理解してるのか?」素羽は淡々と言った。「理解できないと言えば、あなたは私の心が狭いとか、冷酷だと言うでしょう。でも、こうして理解していると言えば、嘘をついていると疑う。なら、どう答えるのが正解なの?理解していると言うべき?それとも、理解できないと?」「俺は、お前の本心が聞きたい」「ええ、本心よ。私はあなたをよく理解しているわ。美宜が死ぬということは、実質、二つの命が失われるということでしょう。あなたが彼女を助けに行ったこと、理解しているわよ」それは、司野が望んでいたはずの答えだった。だが、なぜか胸の奥に、不快なざわめきが広がった。「今回の埋め合わせは、次に必ずする」「いいえ、結構よ」素羽は即座に拒んだ。――もう、自分には思い残すことなどなかったから。「……怒っているのか?」「いいえ。コンペに参加するから、時間が取れないだけよ」「なら、コンペが終わってから、また行こう」「その時になったら考えましょう」素羽は、腰に回された彼の腕へと視線を落とした。「起きたいの。離してくれる?」戻ってくる前、司野は、素羽が激しく泣き叫ぶか、ヒステリックに詰め寄ってくるものと思っていた。まさか、これほど穏やかな態度で迎えられるとは、想像もしていなかった。本来なら望んでいた結果のはずなのに、いざそうなって
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