誠矢はくりくりとした大きな目をくるりと動かすと、慌てて最強の味方である素羽の胸へ飛び込んだ。「ママ、パパがおかしくなっちゃったよ。怖いよ。おばあちゃんが言ってたもん、頭のおかしいのはうつるんだって。早く逃げよう……」ティラノサウルスのように凶暴な父親と、か弱い子羊を演じる息子。その二人を見比べた素羽は、思わず笑みをこぼし、誠矢を抱き上げた。「ええ、早く逃げましょう」誠矢は白い歯を見せてにっこり笑うと、小さな顔いっぱいに得意げな表情を浮かべ、奏へ思いきり挑発的な視線を送った。「俺が抱くよ」奏は大股で数歩進んで母子に追いつくと、素羽の腕の中から誠矢をひょいと抱き上げた。「だから言っただろ。こいつ重いんだから、抱っこしてたら体に負担がかかるって」「ママ、僕、パパの抱っこなんか嫌だよ。パパにぶたれちゃうもん」誠矢は子豚のように体を丸め、素羽のほうへ身を乗り出して、必死に魔の手から逃れようともがく。奏はそのぷくっとしたお尻を、ぺしんと軽く叩いた。「これ以上騒ぐなら、このまま道端に置いていくぞ。パパはママと二人でご飯を食べに行くからな」誠矢は奏の首にぎゅっとしがみついた。「ふん、ママは僕を置いていったりしないもん」奏は意地悪そうに歯を見せた。「パパがおかしくなったって言ったのはお前だろ。だったら、ちゃんとおかしくならないと割に合わないじゃないか」誠矢は実に世渡り上手な子だった。奏の頬にちゅっと大きなキスをすると、透き通るような瞳を一瞬でキラキラと輝かせた。「パパ、僕、本当にパパのこと大好きだよ。どうして僕のパパってこんなに最高なの?僕、世界で一番幸せな子どもだよ」しかし奏は、その甘い言葉の連続攻撃にもまったく屈せず、ふんと鼻を鳴らした。「もう遅いね。今さらご機嫌取りをしても無駄だよ」誠矢は無邪気な笑顔で言った。「もう外は真っ暗だもんね。じゃあ、また明日の昼間にご機嫌取ってあげるね」「……」この大馬鹿野郎が。これのどこが賢いっていうんだよ。素羽は口元に穏やかな笑みを浮かべ、その眉間にはこれ以上ないほど柔らかな表情が宿っていた。今夜の月は、丸く、そしてひときわ明るかった。---奏の身辺調査は、岩治の手によって驚くほど迅速に進められた。わずか一日ほどで、彼の経歴
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