司野は顔を上げると、冷え切った視線で亘を射抜いた。言葉にはしなかったが、その目は「何をくだらないことを言っている」とでも言いたげだった。その視線を受けても、亘は腹を立てるどころか肩をすくめ、冗談とも本気ともつかない口調で言う。「まあ、そのひねくれた性格じゃ、誰かに恨まれてても自分じゃ気づかないだろうな」司野はこれ以上皮肉を聞く気にもなれず、苛立ちをにじませた。「まだ何かあるのか?」亘は答えず、逆に問いかける。「もう五年だぞ。まだ、あの人のことを吹っ切れないのか?」「あの人」が誰を指しているのかは、二人とも分かっていた。広いオフィスは、針一本落ちる音さえ響きそうなほど静まり返る。司野の表情はぴくりとも動かず、その深い眼差しからは、今何を思い、何を感じているのか、まるで読み取ることができなかった。亘はデスクの上に置かれた写真立てへ目を向けた。そこに写る素羽を見つめ、かつて家族三人が寄り添って笑い合っていた日々を思い出す。そして写真立てにそっと手を伸ばし、それを伏せながら静かに言った。「もう十分だ。そろそろ諦めろよ」素羽は、とっくに新しい人生を歩き始めている。彼だけが過去に縛られ続けても、何も変わらない。ただ、自分で自分を苦しめるだけだ。司野は眉をひそめると、伏せられた写真立てを元に戻し、不機嫌そうに言い放った。「用がないなら帰れ」亘の「諦めろ」という言葉を、司野が受け入れる気などまるでないことは明らかだった。その態度を見て、亘ももう何も言わなかった。親友として伝えるべきことは、とっくに伝えた。過去を手放さず、新しい一歩を踏み出そうとしないのは、司野自身の選択なのだから。やがて広いオフィスには、司野だけが取り残された。彼は写真の中の素羽を見つめたまま、静かに物思いに沈む。昔の自分なら、過去に縋り続ける人間を弱いと笑っていただろう。人は前を向いて生きるべきだ。過去に囚われ続けるのは、敗者の自己憐憫であり、現実から逃げているだけだと。司野はこれまで、そんな生き方を鼻で笑い、自分には無縁だと思っていた。だが、まさか自分自身が、素羽のことになると、かつて最も軽蔑していた人間になってしまうとは思いもしなかった。彼はもう、素羽への想いから抜け出せなくなっていた。もし
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