黒川家。翌日の夜八時。薔薇が咲き誇る裏庭にはすでに多くの人々が集まり、賑わいを見せていた。晩餐会が正式に始まる前、客たちはいくつもの輪を作り思い思いに談笑している。話題の中心は、もちろん今日の主役だった。隼人と紗季である。「隼人さんと紗季さん、ご結婚されてもう七年になるのに、今でもあんなに仲睦まじいなんて。記念日までこんなに盛大にお祝いされるなんて、本当に羨ましいわ」「ええ、本当よ。うちの夫なんて、記念日なんて祝ってくれたこと一度もないわよ。せいぜい形ばかりのプレゼントひとつだけ。やっぱり隼人さんは、ハンサムでお金持ちで、それに奥さま思いなのね」「私がずっと羨ましいと思っていたのは、むしろ紗季さんよ。だって見る目があるもの。だからこそ、あの時あんなに一生懸命に追いかけて、ついに隼人さんを射止めたんでしょう?結婚してからは幸せそのものじゃない」彼女たちは口々にそんなふうに語り合っていたが、紗季の車がすでに塀際に停まっていることには気づいていなかった。鮮やかな真紅のドレスに身を包んだ紗季は、車を降りると同時に耳に飛び込んできた噂話に、思わず唇を歪めて自嘲めいた笑みを浮かべた。――羨ましい?私が?夫との結婚が偽りで、初恋の人とはすでに入籍済みだったなんて事実を、死の間際になって初めて知る女を?実の息子にすら好かれず、夢の中でさえ「別の女性を母に」と願われる母親を?「紗季奥さま、そろそろお入りいただけますか」運転手の声に我に返った。紗季は赤い唇をきゅっと結び、ゆっくりと門をくぐった。今日のために特別に施された精緻な化粧。真紅のドレスは裾を引き、腰まで届くゆるやかな巻き髪。まるでポスターに映る女優のように凛と美しく、病に侵されている気配など微塵も感じさせなかった。紗季が姿を現した瞬間、会場は驚きと歓声に包まれ、人々は一斉に彼女へと歩み寄っていった。居間では。隼人が陽向を連れて、親戚たちと挨拶を交わしていた。時折腕時計に視線を落とし、どこか落ち着かない様子を見せる。――本当に紗季は、約束どおり来てくれるのか。この数日、隼人は何も手につかずに美琴の誕生日に誘われても「残業だ」と嘘をつき、陽向に代理を頼んでしまうほどだった。「パパ!ママが来たよ!」陽向が隼人の手を強く引いた。隼人はハッと
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