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All Chapters of 唇を濡らす冷めない熱: Chapter 111 - Chapter 120

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信じない、そんな愛 7

「いいのか、麗奈《れな》。俺の話を聞いておかないと、きっと後で後悔するぞ?」「後悔する理由がこれっぽっちも見当たらないし、今はこの人といる時間を優先したいの。もしもまた会うことがあれば、その時に気が向いたら話くらいは聞いてあげるわ」 冷い態度でそう言い返せば、隣で伊藤《いとう》さんが吹き出しそうなのを堪えて肩を震わせている。 目の前で顔を真っ赤にしている男性をその場に残して、私たちは真っ直ぐ歩いて目的の改札口も通り過ぎていく。今の状況ですぐ傍の改札口で別れれば、あの男がまた絡んでくる可能性もある。 伊藤さんも私も一言も話さなかったけれど、お互いに当然というように駅から離れたカラオケボックスの中へと入っていった。「ふっ……はははははは! 見たか、あの男の顔!? この世の終わりみたいな表情をしてたぞ、よほど麗奈に相手にされなかった事がショックだったんだろうな」「私にそうするように視線で合図してきたくせに、伊藤さんも相当に性格悪いですよね?」 カラオケボックスの個室で笑い転げている伊藤さん、彼は多分あの状況を楽しんでいたに違いない。私の心配をしているかもしれないと思ったが、もしかしたら気のせいだったのかも。 まあ……この人がとても性悪だということは、随分と前から分かっていたからいいのだけど。「そうか? 俺はああいう思い上がった男を見ると、どうしようもなく虫酸が走るんでね。まあ、あの男に対して麗奈が可哀想だと思ったのなら謝るけれど?」「可哀想なんて思うわけないって、伊藤さんは分かってるくせに。それに……それって貴方自身にも当てはまるってことなんじゃないんですか?」 全く反省の色など見せないくせに、そう言ってくる伊藤さんをそのままにしておくほど私は優しくない。だって以前に彼は、私の親友の紗綾《さや》に同じようなことをしたのだから。「……だからこそ、だ。本人は大事なものが何なのか全く分かってない、そのくせ自分は愛されて当然だと思ってるなんて。そんな奴にはしっかりと痛い思いでもさせて、現実を見せてやるのも親切だろう?」 伊藤さんには私の元カレが、過去の自分自身と重なって見えてしまうのだろう。そのために余計に腹も立つし、何とも言えない感情を抱えるのかもしれない。 きっと伊藤さんが許せないと思っているのは、過去の自分の言動でもあるって事なんでしょうけれど
last updateLast Updated : 2025-11-21
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信じない、そんな愛 8

 それでも今も紗綾《さや》への想いを捨てきれない彼の複雑な心境は、私には全部理解することは出来そうにない。 他の女性と遊んで別れておきながら、想いを捨てる事が出来ず。それでも彼女が別の男性と幸せになることを望んで、それが辛くないはずがないのに…… 含みを込めた私の言葉も、伊藤《いとう》さんは笑って聞いているだけで……「面倒なことばかりを呼び寄せる麗奈《れな》に言われたくはないな。ところで今回の事、梨ヶ瀬《なしがせ》さんに話す気はあるんだろうな?」「えっ、話さなきゃ……ダメですかね?」 私的にはこれは自分の問題だし、わざわざ梨ヶ瀬さんに話すつもりはなかった。だけど伊藤さんには、それも見抜かれていたようで。 彼の表情がいつもよりも少し険しくなる、この人はそんな顔も出来るのかと思うほどには。「その時になって怒られてもいいんなら、俺はどうこう言うつもりはないけど? あー、でも梨ヶ瀬さんが本気で怒ったらきっと面倒だろうなあ」「そうやって棒読みの台詞で、チクチクと私を脅すの止めてもらえません? こういう時くらい、普通に心配だから相談しろって言えないんですか?」 どうしてこう、私の周りにはややこしい男ばかりが集まってくるのか本当に分からない。そう考えると、大きなため息がこぼれるのも仕方ないことだった。「麗奈は普段お節介ばかり焼いてるんだ、時には焼かれる方にもなればいい」「紗綾の時に御堂《みどう》さんを連れてきたこと、まだ根に持ってるんですか? 伊藤さんは面倒な性格な上にしつこいんですねえ」 どうも私たちは相手の事を思っていても、それを素直に伝えることが苦手なようだ。彼が本当は私を気遣ってくれていることもちゃんと分かってるのに、捻くれた言葉でしか伝えられない事ばかりで。 それなのに……「そんなの、心配してるに決まってるだろう。こう言えば麗奈は、ちゃんと梨ヶ瀬さんに今日の事を相談してくれるのか?」「……うわ、ずっるい」 いつもの伊藤さんなら、絶対にそんな事を言葉にしたりしないのに。彼の真剣な表情に、私の方がなんとなく負けた気分を味わうことになる。
last updateLast Updated : 2025-11-21
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信じない、そんな愛 9

 それ以外にはない! とばかりにハッキリと言われて、徐々に顔に熱が集まってくるのが分かる。なんというか……梨ヶ瀬《なしがせ》さんもそうなのだが、伊藤《いとう》さんもこういう事を臆面もなく言葉に出来るのはどうしてなの?「ああ」とか「うう……」とか、そんな返事しか出来なくなる私を見て伊藤さんは楽しそうにニヤついている。すっごくむかつくのに、どうやっても今は言い返せそうにない。「これ以上は迷惑をかけたくない。麗奈《れな》はそう思っていても、梨ヶ瀬さんが同じ考えとは限らないだろ? むしろ俺を頼るくらいなら自分を頼れって、それはもう満面の笑顔で言ってきそうだけどな」「それは……それで、かなり怖いんですけどね」 うん、確かに有り得るわ。 本当に彼ならば笑顔でそう言ってきそうだ、その魅力的な笑みを素直に喜べる気はしないけれど。普段は穏和な態度で本性をうまく隠している梨ヶ瀬さんだが、その分たまに見せる本来の彼は意外と強引で迫力がある。 それは伊藤さんも、なんとなく気付いているようで……「俺だって今回のことを、いちいち報告するのは気が進まないんだ。結局のところ、梨ヶ瀬さんに睨まれるのは俺なんだからな。本気で争う気はないって言ってるのに、あの人は全然信じてないし」「それってどういうことです? 争うって、梨ヶ瀬さんと伊藤さんでなにか勝負でもしてるんですか?」 ただ疑問を口にしただけなのに、伊藤さんから可哀想なものでも見るような目で見られた。そもそも私を庇ってくれている伊藤さんが、どうして梨ヶ瀬さんに睨まれるのかも意味不明なんだけど。「まあ、これ以上言っても無駄だってことだけはよーく分かった。とにかく今回のことは麗奈から梨ヶ瀬さんに直接相談すること、それだけは必ず守れよ」「うう、やっぱりそうなるんですね……」 何が言っても無駄なのかについては、何の説明もないままで。 伊藤さんはそれだけを私に約束させると、さっさとカラオケのリモコンを操作して曲を入れ始めた。どうやらこの人は、こうしている時間にもしっかり歌うつもりらしい。 それからおよそ二時間、結構二人で盛り上がってしまって。意外にも伊藤さんの歌がやたら上手で何曲もリクエストしたことは、絶対に梨ヶ瀬さんに秘密にしておくようにと言われたのだけれど。 そうして帰りはなんだかんだ言って、アパートの近くまで送ってくれた
last updateLast Updated : 2025-11-22
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消えない、その過去 1

「……ふうん。それで伊藤《いとう》さんに、彼氏のフリまでしてもらったんだ? 俺には風邪が治るまで部屋に来るな、とまで言っておきながら」「えっと……そう言うことに、なりますね」 嫌味をたっぷりと含んだ梨ヶ瀬《なしがせ》さんの言葉に、流石にぐうの音も出ない。心配して何度もメッセージをくれた彼には『部屋に来ないで』と言ったのに、隠れて伊藤さんと会っていたのも事実だから。 疾しいことなど何もしていないし、梨ヶ瀬さんとは上司と部下の関係なのだから文句を言われる筋合いなんて無いはずなのに。 何だかんだと梨ヶ瀬さんに絆され、その独占欲を迷惑と感じなくなってる事が本当に厄介だ。「それにしても……麗奈《れな》の周りには、どうしてこう次から次へと厄介な男ばっかりが……」「すみませんね、面倒事を引き寄せてばかりの部下で」 貴方の所為で巻き込まれた女性社員の面倒事もありましたけれどね、と言いたいのをグッと堪えて謝った。あえて部下という言い方をしたのは、小さな反抗でもあったのだけれど。 それを聞き逃さなかった梨ヶ瀬さんの目を細めた微笑みがとても怖いので、今すぐここから逃げ出したいです。「ストーカー男から始まり、何を考えてるのか分からない伊藤さん。その上、ヨリを戻したがってる元カレって……」「あ、いえ。元カレがヨリを戻したがってるのかは、正直なところ分かりませんが。というか私的には、その厄介な男性の中に梨ヶ瀬さんの存在も入ってるんですけどね」 そうやって逃げ腰になりながらもしっかりと釘を刺しておくのは忘れないので、梨ヶ瀬さんに大きな溜息をつかれてしまった。「そう言う冗談は置いておいて、その元カレが君に接近してくる可能性は多いにあるはずだよ。麗奈も用心はすると思うけど、それでも俺としては一人での行動は控えて欲しいかな」「冗談ではないんですけどね。でも気を付けますよ、あの人と関わって良い事は無いと思いますから」 最初は好き合って付き合ったはずなのに、元カレと別れるのにはかなり苦労したのだ。原因の半分は私にあるとしても、彼から受けた仕打ちは今も忘れられない。 こうして過
last updateLast Updated : 2025-11-22
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消えない、その過去 2

 あの頃を思い出したせいか、ケトルを持つ手が震えてしまっている。 あの場であれほど元カレ相手に強気で出られたのは、隣に伊藤《いとう》さんがいたからだ。もしもそれが、自分一人の時だったらきっと―― 最悪のケースを思い浮かべ、それを振り払うように瞼をぎゅっと閉じようとしたその時。「俺がやるから、麗奈《れな》はソファーで待ってて」「え、でも……」 いつの間にかキッチンに入ってきていた梨ヶ瀬《なしがせ》さんが、私からサッとケトルを奪い取って。ここは私の部屋だし、一応お客さまの彼にそんな事をさせるのは気が引けるのだけど。「そんな青白い顔してるんだ。君が何を思い出してるのか、それを知らないフリをする気はないんだよね」「そう、ですか……」 これは後で過去を洗いざらいはかされる事になるんだろうな、と気を重くしつつお気に入りのソファーへと身を沈ませた。「一つだけ気になるんですが、どうして当然のように隣に座るんです? そんな大きなソファーじゃないって、見れば分かりますよね」「傍に座りたいからに決まってるでしょ、いちいち聞かなきゃ麗奈は分からないの?」 ……いいえ、分からないのではなく分かりたくないんです。そうハッキリと言えたら、少しはスッキリするのだろうけれど。余計な一言を口にすれば、熱々のコーヒーカップを持った状態で何をされるか分からないのでとりあえず黙っておく。 身体がくっつく様にピタリと真横に座られて、正直かなり鬱陶しくはあるけれど。「確か、ベタベタされるの嫌いだとか言ってませんでしたっけ? 職場の女の子たちに」「そうだね、何とも思ってない子にベタベタされるのは迷惑だよね」 ……つまり、そうではない子にベタベタするのはOKだとでも? そこに私の意志がちゃんと汲み取られているとは、到底思えないのだけれど。 言っても無駄だと分かっているのに、どうしてこの人はいつもこうなのか。普段は飄々としていて掴みどころが無さそうに見えるのに、時々見せる男の顔は野生の獣のようで。「ああ、でも風呂上がりの君の匂いは流石にヤバいかも? ちょっと理性を保てるかの自信がなくなりそう」「……本当にセクハラで訴えてもいいですか?」 勝手に家に押しかけてきて部屋に上がり込んでおいて、何が「理性を保てる自信がない」だ。私を心配してきてくれてるのでなければ、梨ヶ瀬さんなんてとっ
last updateLast Updated : 2025-11-23
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消えない、その過去 3

「別にそういうつもりでは、ただ、伊藤《いとう》さんが話せって煩かったから……」 余計な一言を言ってしまった、と気付いた時にもう遅かった。その次の瞬間には、梨ヶ瀬《なしがせ》さんが片手であっさりと私のカップを奪っていて。 びっくりするくらい顔を近づけられる、本当に互いの唇が触れないギリギリの距離。「はあ、また伊藤さん? 麗奈《れな》は伊藤さんの言うことなら、そうやってなんでも素直に聞くんだ?」「そういうわけでは、ないです。多分」「ふーん……多分、ねえ」 どうしてこう思ったことをそのまま言葉にしてしまうのか。自分に素直といえば聞こえがいいが、ここまでくると本当にただのバカみたいじゃない。 そもそも梨ヶ瀬さんがいけないのだと思う、こんな距離で見つめられてまともな受け答えなど出来るかけがない。本当にこの人は性格がものすごく悪い。「だって、分からないんですよ! どこまで梨ヶ瀬さんを信じていいのか、甘えてもいいのか。貴方みたいに恋の駆け引きなんて、私は上手くないんですから」「そんなの俺だって同じだよ、駆け引きなんてしてるつもりもない。目の前にいる君に必要とされたくて、こっちだって結構必死なんだから」「……え?」 やっぱり狡いんだと思う、梨ヶ瀬さんは。 こういう時だけ本気の熱を灯した視線で私を見つめるから。少年のように拗ねたような顔を見せて、私を冷静でいられなくしてしまう。 梨ヶ瀬さんが私を追い詰めるため必死なように、私も貴方から逃げることで精一杯なのに。きっと彼は、私を逃がす気なんてサラサラない。 それどころか……「ねえ、早く俺のものになってよ。今すぐ俺に、麗奈を守る権利を頂戴?」「い、今はそんな話をしている場合じゃなくてっ! その……元カレの事について話しに来たんですよね、梨ヶ瀬さんは」 私があからさまに話題を変えようとしているのが見え見えで、梨ヶ瀬さんは少し不満そうな顔をしている。 それでもこの話をしない事には何も解決しない事を分かっているためか、しぶしぶ彼も元カレの話を聞くために少し私から離れた。「……それで、元カレとはどれくらい付き合ったの? どんなところに惹かれて、そいつに何度好きだと言った?」「前半はともかく、後半の部分は言う必要ありますか? むしろ、聞いてて何が楽しいのかが分からないんですけど」 元カレにそんなに
last updateLast Updated : 2025-11-23
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消えない、その過去 4

「はぁ、やっぱりそうですよね。本当に、面倒くさい人……」 いつもいつも、何でこう遠回しなのだろう。これが駆け引きではないというのなら逆に何だというのか、私にはもうよく分からない。 でもそれをグチグチ言い始めれば肝心の話が始まらないので、ここはグッと耐えて。「そうですね。付き合った期間は二年ほどで、最初は私からアプローチした形でした。どこが良かったのかと言われるとよく覚えてませんが、甘え上手なところが可愛いなって思っていた気もします」 普段は大人びた元カレが、自分にだけ他の人にはしない甘えた顔を見せてくれる。そんな些細なことに優越感や喜びを感じてた、そうやって私はどんどん彼を甘やかしてしまって。 甘やかされることが当たり前になった彼は、私を恋人ではないなにかと勘違いするようになってしまったのだ。「その元カレに対しては従順だったってこと?」「それとはまた違う気もしますが、元カレにとって都合のいい女という事には間違いなかったと思います」 今の私からは想像出来ないという顔を梨ヶ瀬《なしがせ》さんはしているが、これが事実なので変えようもなく。あの頃の私は元カレの甘えた顔見たさに、何でもいう事を聞いて自分に出来る事なら叶えてあげていた。 ……そうやって私は二年という時間をかけて、彼をどんどんダメな男にしていったのだ。「その男とは、なんで別れたの? 少し歪んでる気もするけれど、麗奈《れな》は本気でその男を好きだったんでしょ?」 当然の疑問だけど、この話が来た時にどうやって誤魔化そうかとギリギリまで悩んでいた。本当のことを話せば、梨ヶ瀬さんは元カレを許さないかもしれない。 そんな気がしたから、でも……「その……私にも悪いところはあったと思うので、怒らないで聞いて欲しいんですけど……」 この言葉が大きな失言だった事にこの時はまだ気づいてなくて、後ろめたさから梨ヶ瀬さんの表情を見ていなかったのもマズかった。 自分では元カレの取った行動が百パーセント正しいと思っているわけではなかったけれど、どうやら梨ヶ瀬さんには私が元カレを庇っているように聞こえてしまったらしく。「その言い方だと、麗奈はまだその男を庇いたいくらいには思いが残ってるのかと疑いたくなるね」「えっ!? いいえ、そういう訳じゃなくて……その、彼はずっと私が悪いんだって言ってたので」 
last updateLast Updated : 2025-11-24
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消えない、その過去 5

「もしかして、元カレからDVを受けてたの?」「いいえ、そこまでは。ただ、モラハラ……って言うんでしょうか。元カレの言うことを何でも聞いているうちに、いつの間にか彼の言葉が全てみたいになってて」 いつだって正しいのは自分だから、私は彼の言うことを聞かなければならない。相手を想う事はそういうことだ、と何度も言い聞かされて。 甘えるような彼の笑顔もいつの間にか、私に命令をする高圧的な態度へと変化していた。 ……だけど彼をそんな男に変えてしまったのは、きっと私なんだ。 甘やかして思い切り我儘を言って欲しくて、そんな彼の全てを受け止めてるんだって勝手に勘違いしていたから。「そんなに好きだったの、元カレの事が? 君がそこまで抑えつけられて、意見を言えないなんて正直想像出来ないな」「そうかもしれませんね、私もそれなりに梨ヶ瀬《なしがせ》さんにだけは冷たくしてる自覚はあるんで」 元カレの事を好きだったかという問いかけに、私は曖昧に答えた。それほどまでに好きだったかなんて、思い返せば自信が無くて。 ただ誰かに頼られることや必要とされることに、異常なまでに私が執着していただけかもしれない。 その理由は何となく、自分で予想出来るけれど……「ねえ、それは俺の事が最初から嫌いだから? それとも他に、何か特別な理由があるの?」 いつまでも最初の頃の話を出してくる辺り、梨ヶ瀬さんの性格の悪さが窺える。 しかも彼はちゃんと分かって言っている、私が彼に冷たく接する理由が別にあることを。「それを知って、梨ヶ瀬さんはどうするんです?」「もちろん、そんなものは取り除くよね。俺にとっては、麗奈《れな》との進展を邪魔する障害でしかないし?」 簡単に言ってくれるが、そうそう上手くいくのだろうか? 梨ヶ瀬さんなら出来そうな気もするが、意外と強引な荒療治になりそうで怖い。 それでも予想を裏切らない彼の言葉に、なんだか気持ちが楽になっていく気がした。「梨ヶ瀬さんらしい言葉で安心しました。逆にここで引かれるようなら、これ以上は話す気も無かったですし」「それは良かった。もしも麗奈が話してくれなければ、俺もどんな手を使って聞き出そうかと考えていたところだったから」 顔は笑顔なのに目は全然笑ってないですよね、それいい加減やめてくれませんか? そう言いたいのに出来ないのは、彼が本気で私
last updateLast Updated : 2025-11-24
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消えない、その過去 6

 あのですねえ、誰もそこまで許した覚えはありませんけど? 梨ヶ瀬《なしがせ》さんってこういう時、妙に強引になるからちょっと困るのよ。 でもあからさまな拒否は出来なくて、あれこれ悩んでいるうちに距離を詰められて……「ちょっ、近いです。コーヒー零れるし、火傷しちゃいますから」「じゃあ、これはこっちね。今は二人の関係を進展させる方が優先でしょ?」 そう言うと彼は、私の手からコーヒーカップを奪い取ってテーブルに置いてしまう。どんどん話を進めたがる梨ヶ瀬さんと、二人の進展にもう少し時間が欲しい私。 どうして私達は、こうも思いが嚙み合わないのか。「それは梨ヶ瀬さんの一方的な希望でしょう? 私はそんな事、望んでなんか……」「はっきり否定しないのは珍しいね、そんな言い方すれば俺に付け込まれるだけって分かってやってる?」 もちろん分かってる、分かりたくなくても今まで梨ヶ瀬さんのやり方で十分学んできた筈なのに。それなのに、どうしてもハッキリとした拒否が出来なくて。 何だかんだで、私も結構彼の事が特別な意味で気になってしまっているみたいだ。 それにしても二人の距離が近い。いつの間にか梨ヶ瀬さんは、私を包むように優しくその腕を回している。どう考えても恋人同士のように触れ合えるであろうその距離に、焦らない方がどうかしてる。「もう少し、離れたりしませんか?」「しません、俺はずっとこうしたかったから」 間髪入れない予想通りの返事に、私はガックリと項垂れる。物言いは優しいし敵を作らなさそうな穏やかな振りしてるくせに、恋愛に関してはマイペースで強引な梨ヶ瀬さん。 そんな彼の恋愛慣れした様子にちょっとだけ苛つきを感じたりもして、何とも言えない感情を抱えてしまう。 だからこその失言だったのかもしれない。「良いですよね、梨ヶ瀬さんはこういう事に慣れてて。私みたいな恋愛下手なんて、そりゃあ余裕で振り回せちゃいますもんね?」「……それ、どういう意味?」 いつもならば顔は笑顔で目だけ笑っていないというパターンなのに、この時は全く違っていて。真っ直ぐに私を見つめる表情は真剣そのものだから、いつものように皮肉を込めた軽口で誤魔化すことも出来ない。 付き合ってもないのに梨ヶ瀬さんの過去の恋愛に嫉妬しました、なんて恥ずかしくて言える訳ないじゃない。 どれだけ身勝手な感情なんだっ
last updateLast Updated : 2025-11-25
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消えない、その過去 7

「全く、余裕なんて無いって何度言わせれば気が済むの? そういうのは麗奈《れな》が、少しくらい俺の言動に振り回されるようになってから言ってくれる?」「もう十分過ぎるくらい、貴方に振り回されてますもん……」 どうして私が梨ヶ瀬《なしがせ》さんの言動に振り回されてないと言い切れるのか、こっちの方が聞きたいくらいなんですけど。ミーハーなところはあるが恋愛経験は決して多い方ではない、そんな私がどれだけ焦ってるのか気付かない人ではないはずなのに。「……え、それは冗談じゃなくて?」 まさか、本気で言ってるのだろうか? この状況、この距離で何故にそんな冗談を言う必要があるというのか。大体ずっと一方的に好意を押し付けてきたくせに、こっちが少しその気になったら戸惑うってどういう事よ?「梨ヶ瀬さんがどうしても冗談で済ませて欲しいって言うのなら、そうしますけど?」「いや、それは困る。でも、え……嘘?」 その様子がいつもの梨ヶ瀬さんらしくなくて、逆にこっちが悪い事を言った気分にさせられる。「だから、嘘にして欲しいのならそうしますって……んんっ!」 いきなり頬を両手で挟まれて、そのまま乱暴に唇を奪われる。それもけっこう強引で、抵抗する隙を与えないような荒々しい口付け。 いつもの梨ヶ瀬さんらしくない、そう思ったけれどその余裕もすぐに無くなった。「はっ、んっ……っ」 すぐに離れると思っていた唇は私の予想を裏切り、何度も繰り返し重ねられる。息をする暇も与えてくれないキスを何度も落とされ、私はいつの間にか梨ヶ瀬さんにソファーに押し倒される形になっていた。 見上げる彼の瞳は男のものになっていて、目の前の獲物を捕らえるための色気を放っている。私はそんな梨ヶ瀬さんから、目を逸らすことも出来なくて……「それは困るって、俺も言ったでしょ?」「ひゃあっ!」 耳元でそう囁かれて身体が震える、そこが弱いことを知っていてこの人はこんな事をするのか! だけど反応する身体の所為で、私は目に涙を浮かべて弱弱しく彼を睨むことが精いっぱいで。
last updateLast Updated : 2025-11-25
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