「いいのか、麗奈《れな》。俺の話を聞いておかないと、きっと後で後悔するぞ?」「後悔する理由がこれっぽっちも見当たらないし、今はこの人といる時間を優先したいの。もしもまた会うことがあれば、その時に気が向いたら話くらいは聞いてあげるわ」 冷い態度でそう言い返せば、隣で伊藤《いとう》さんが吹き出しそうなのを堪えて肩を震わせている。 目の前で顔を真っ赤にしている男性をその場に残して、私たちは真っ直ぐ歩いて目的の改札口も通り過ぎていく。今の状況ですぐ傍の改札口で別れれば、あの男がまた絡んでくる可能性もある。 伊藤さんも私も一言も話さなかったけれど、お互いに当然というように駅から離れたカラオケボックスの中へと入っていった。「ふっ……はははははは! 見たか、あの男の顔!? この世の終わりみたいな表情をしてたぞ、よほど麗奈に相手にされなかった事がショックだったんだろうな」「私にそうするように視線で合図してきたくせに、伊藤さんも相当に性格悪いですよね?」 カラオケボックスの個室で笑い転げている伊藤さん、彼は多分あの状況を楽しんでいたに違いない。私の心配をしているかもしれないと思ったが、もしかしたら気のせいだったのかも。 まあ……この人がとても性悪だということは、随分と前から分かっていたからいいのだけど。「そうか? 俺はああいう思い上がった男を見ると、どうしようもなく虫酸が走るんでね。まあ、あの男に対して麗奈が可哀想だと思ったのなら謝るけれど?」「可哀想なんて思うわけないって、伊藤さんは分かってるくせに。それに……それって貴方自身にも当てはまるってことなんじゃないんですか?」 全く反省の色など見せないくせに、そう言ってくる伊藤さんをそのままにしておくほど私は優しくない。だって以前に彼は、私の親友の紗綾《さや》に同じようなことをしたのだから。「……だからこそ、だ。本人は大事なものが何なのか全く分かってない、そのくせ自分は愛されて当然だと思ってるなんて。そんな奴にはしっかりと痛い思いでもさせて、現実を見せてやるのも親切だろう?」 伊藤さんには私の元カレが、過去の自分自身と重なって見えてしまうのだろう。そのために余計に腹も立つし、何とも言えない感情を抱えるのかもしれない。 きっと伊藤さんが許せないと思っているのは、過去の自分の言動でもあるって事なんでしょうけれど
Last Updated : 2025-11-21 Read more