「へ? あ、の……お姉さん?」 あまりに綺麗で身体が勝手に動いたのかもしれない、私は青年の頬に思わず手を伸ばしかける。特殊なメイクだったのか、まだ少しだけ頬にはり付いているのが気になったから。 ただ、それだけだったのに…… 伸ばしたその手は隣からスッと出てきた腕によって阻止される。それが梨ヶ瀬《なしがせ》さんの腕だと気付いて彼の方を見ると、今まで見たことも無い鋭い眼差しが私に向けられていた。「なしがせ、さん? どうして……」「横井《よこい》さんこそ、それは何の真似? 見惚れただけじゃなく、自分から触りに行くほど彼が気に入ったの?」 もの凄く怒ってる。いつもよりも低いその声に、気付けないほど私だって鈍くない。 だけどそれは、私が梨ヶ瀬さんの特別な相手であれば納得出来ることであって。 少なくとも私達の今の関係は、そうではないはずだ。「気に入って何が悪いんです? そんなことまで、いちいち上司に許可を取る必要がありますか」 ピリピリとした空気が私たちの間に流れる。素直にごめんなさいといえばこうならないと分かってるのに、そう出来ないのが私。 だって私はまだ梨ヶ瀬さんの恋人じゃない、これから先もそうなるか分からない。 ……なのにどうして、こんなに梨ヶ瀬さんに嫉妬されたことが嬉しいのか? 本当に自分の馬鹿さ加減にイライラさせられる、この人に恋なんてしたくないのに。「まあまあまあまあ! ちょっと落ち着いてくださいよ、二人共! まず先に、お姉さんの怪我の手当てをさせて下さい」 私と梨ヶ瀬さんの間に割って入ってきた男性に止められて、私と彼は睨み合いを止める。 それでもまだ納得出来たわけではないので、傷の手当は美形のお兄さんに頼もうとした。 だけどそんな事を梨ヶ瀬さんが納得するはずもなく、どす黒い笑顔で彼から薬箱を取り上げ私の前に跪く。 そんな風にされると王子様みたいで、ちょっとムカつく。「沁みたらごめんね、一応優しくするけど」 そう言うわりには随分楽しそうですね、ここでさっきの仕返しでもする気ですか? 脱脂綿を消毒液で浸しピンセットで摘まんで、私の膝へと触れる。思ったより傷が深かったのか、結構痛い。「これ以上痛くしたら、この足で蹴りますから」「そうやってると女王様みたいだね、横井さん」 何とでも言ってください、梨ヶ瀬さんが好きでこうしてる
Last Updated : 2025-11-01 Read more