Alle Kapitel von 唇を濡らす冷めない熱: Kapitel 131 – Kapitel 132

132 Kapitel

許さない、あの過ち 8

 それでも繰り返し、頭の中で繰り返されるあの時の光景。何よりも許せないのは、自身の行動によって他人が傷付くと分かっていたのにそれを止められなかった事で。 結局のところ……臆病者の私はどれだけ強がっていても、その事実を知られ梨ヶ瀬《なしがせ》さんに軽蔑されるのを恐れているのだと思う。 だけど今はそんな事をぼんやり考えていられる状況ではなくて、好機とばかりに想いを伝えようとしてくる梨ヶ瀬さんから逃れようと必死になっている。「そうやってすぐに急かすのは止めてください、待てない男は嫌われますよ?」「そう? 俺は結構慎重派だから、ある程度は麗奈《れな》の気持ちが傾くまで待ってたと思うけど。それに……待ちすぎてせっかく来ていたはずのチャンスまで逃してたら間抜けでしょ?」 分かってる、梨ヶ瀬さん相手に口で勝とうとするのが間違いなんだって。この人はちゃんと気付いてるんだもの、私が彼にもう惹かれ始めてしまっている事を。 自分の過去から目を逸らし、それを隠したまま梨ヶ瀬さんの気持ちに応えられればきっと楽なのに。そんな考えが頭を過る自分の汚さに、どうしようもなく情けない気持ちになる。 だいたい……そうやって誤魔化してまで付き合っても、いずれ梨ヶ瀬さんには隠し通せなくなるに決まってるのに。「梨ヶ瀬さんにとってのチャンスが私にはそうではない場合、どう答えるのが正解なんでしょうね?」「はぁ……麗奈は、それを俺に聞くんだ?」 私としては彼の気持ちに応えたいが、それが気持ちの面で難しい事を伝えているつもりだったのだけど。急に梨ヶ瀬さんの表情が微妙なものに変わって、何か変な事を言ってしまったかと戸惑ってしまう。 しかし自分の言葉をよく思い出してみると、誤解されるような発言をしていたことに気付いて。「あのっ、違いますからね!? 私は梨ヶ瀬さんへの断り方を聞いてるわけじゃなくて……」「はあ。それなら良かったよ、もの凄く遠回しにフラれてるのかと思ったから」 気持ちに応じることが出来るかと聞かれても、すぐに『はい』とは言えるわけではない。だけど本心では、このままこの人に心許してしまいたくもあって。 もしも、梨ヶ瀬さんが私の望む言葉をくれるなら? いいえ、きっと今は優しい彼もあの事を知れば私を軽蔑するに違いない。誰かに期待なんて……してはいけないのだから。「梨ヶ瀬さんは遠回し
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許さない、あの過ち 9

 それでも……ほら、結局こう返してくるから何度も期待して良いのではないかと考えてしまう。繰り返し「そう上手くいくはずがない」と思い直すことに、私の方が疲れてしまうくらいには。 これも梨ヶ瀬《なしがせ》さんの作戦のうちなのだろうか? そう疑ったりしている間に、いつまでもムキになっている自分が馬鹿みたいに思えて。 恋愛には一生懸命にはなりませんって涼しい顔してたくせに、本気になるとこんなにしつこい男性だったなんて……そんな事を考えていたら、彼から予想もしなかった言葉を聞かされて。「もしも過去の出来事が理由で俺とは向き合えない、とかなら尚更ね」「……どういう意味ですか?」 もしかしてこの人は知っていたりするの、私の過ちを? いいえ、そんなはずはない。あの事をこれまで誰にも話したことなんてない、こっちに来たばかりの梨ヶ瀬さんがそれを知る方法なんてない。それでも……もしかしてと怖くて手が震える。 どのみち隠し通せないと頭では分かっていたのに、いざこうして突き付けられると怯えてしまう。向けられていた好意が嫌悪に変わる瞬間、私はどう梨ヶ瀬さんと向き合えば良いのだろう? そのまま彼から距離を詰められるがつい焦って後ずさってしまい、逆に手首を掴まれ梨ヶ瀬さんの腕の中に引き寄せられてしまった。「そのままの意味だよ? 麗奈《れな》の過去に何があったのか俺には想像もつかないけど、それを断られる理由にされては困るって事。俺という人間からまで目を逸らしてほしくはないしね」「そんな事を言われても、私は……」 自身の過去を言い訳にしないのならば、それこそこの人の気持ちに応えられない理由などある訳がなくて。こういう計算高く狡猾な部分も理解しているはずなのに、今もまだこうやって振り回されている。 だけど梨ヶ瀬さんからすれば当然の要望とも言える、自分には一切関係ない理由で向き合う事もせずフラれるなんてそれこそ納得出来る訳がないもの。 だったら、私はどうすればいいの? 気持ちも誤魔化せないお互いの距離と、暴かれそうになる自身の隠したい過去に心臓が今までにないほどギュッとなる。 けれども発した声は自分でも驚くほど落ち着いていて、ある意味どこか吹っ切れた感じもした。「……じゃあ、全部受け入れてくれるんですか? 私が梨ヶ瀬さんの今まで築いてきたキャリアも潰しかねない、そんなとんでも
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