ゆっくりと後ろを振り向いて少し後ろまで確認すると、確かに建物に半分隠れたような状態で緑のパーカーの男性が見えた。 ここまでついて来ているところを見ると、本当にターゲットは私なのかもしれない。いったいなぜ私なんかを……?「ね、そこに見えるでしょ? 横井《よこい》さん、今日は俺と帰った方が安全だと思わない?」 なんてさも親切そうに言いますけどね、こうなった一番の原因って何だと思ってます?「だいたい、梨ヶ瀬《なしがせ》さんが余計な事ばかりするからっ! それに……今まで何もしてこなかったから、きっと今日も大丈夫ですよ!」 いつからこんな風に見られていたのかは知らない、だけど勝手に憶病な男性に違いないと決めつけていた。そんな私の手首を梨ヶ瀬さんは強く掴み引っ張ると顔を近づけて……「ねえ、麗奈《れな》は本当にそんな甘いこと考えてんの? 俺はむしろ、今までよく何も起こらなかったと考えるべきところだと思うけど?」 顔が近すぎるし、なんて怖い事を言うのよ! そう言い返したいのに、彼の表情は決して冗談を言っているようには見えない。もし本当に今日一人で帰れば、何か起きないとは言い切れない……? それを想像すると背筋にゾクッと冷たい感触を感じ、額に嫌な汗が浮かんできてしまう。さすがに、今日一人で帰る勇気は萎んでしまったかもしれない。「あの、やっぱり家まで送ってもらってもいいですか……?」 まさか自分からこの人を頼らなければならなくなるなんて、そう思いはするものの。 もう梨ヶ瀬さんの事が苦手だとか、そういう事を言っていられるような状況でもない。ここは素直にお願いした方が自身の為にもなる、自分にそう言い聞かせて梨ヶ瀬さんに頭を下げた。「それが賢明な判断だと思うね。俺もここで帰されたら、ストーカーと一緒に君について行くしかなくなるところだったし?」「余計に怖いので、絶対に止めて下さい!」 本当にろくでもない事を考える上司だ。そう思っているのに…… 私に向けられるその微笑みは、作り物のように見えるけれど決して曇らない。その事に少しだけホッとして
Terakhir Diperbarui : 2025-09-06 Baca selengkapnya