Semua Bab 唇を濡らす冷めない熱: Bab 11 - Bab 20

63 Bab

曇らない、その微笑 4

 ゆっくりと後ろを振り向いて少し後ろまで確認すると、確かに建物に半分隠れたような状態で緑のパーカーの男性が見えた。 ここまでついて来ているところを見ると、本当にターゲットは私なのかもしれない。いったいなぜ私なんかを……?「ね、そこに見えるでしょ? 横井《よこい》さん、今日は俺と帰った方が安全だと思わない?」 なんてさも親切そうに言いますけどね、こうなった一番の原因って何だと思ってます?「だいたい、梨ヶ瀬《なしがせ》さんが余計な事ばかりするからっ! それに……今まで何もしてこなかったから、きっと今日も大丈夫ですよ!」 いつからこんな風に見られていたのかは知らない、だけど勝手に憶病な男性に違いないと決めつけていた。そんな私の手首を梨ヶ瀬さんは強く掴み引っ張ると顔を近づけて……「ねえ、麗奈《れな》は本当にそんな甘いこと考えてんの? 俺はむしろ、今までよく何も起こらなかったと考えるべきところだと思うけど?」 顔が近すぎるし、なんて怖い事を言うのよ! そう言い返したいのに、彼の表情は決して冗談を言っているようには見えない。もし本当に今日一人で帰れば、何か起きないとは言い切れない……? それを想像すると背筋にゾクッと冷たい感触を感じ、額に嫌な汗が浮かんできてしまう。さすがに、今日一人で帰る勇気は萎んでしまったかもしれない。「あの、やっぱり家まで送ってもらってもいいですか……?」 まさか自分からこの人を頼らなければならなくなるなんて、そう思いはするものの。 もう梨ヶ瀬さんの事が苦手だとか、そういう事を言っていられるような状況でもない。ここは素直にお願いした方が自身の為にもなる、自分にそう言い聞かせて梨ヶ瀬さんに頭を下げた。「それが賢明な判断だと思うね。俺もここで帰されたら、ストーカーと一緒に君について行くしかなくなるところだったし?」「余計に怖いので、絶対に止めて下さい!」 本当にろくでもない事を考える上司だ。そう思っているのに…… 私に向けられるその微笑みは、作り物のように見えるけれど決して曇らない。その事に少しだけホッとして
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-06
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曇らない、その微笑 5

「それにしてもよく分かりましたね? あの男性が私の事を見ているだなんて。自分が誰かに狙われる要素があるとは、あまり思えないんですけど……」 アパートまでの道のりがそんなに遠いわけではないけれど。わざわざ送ってくれてる梨ヶ瀬《なしがせ》さんと無言で歩くのも申し訳なくて、なんとなく気になっていたことを聞いてみる。 今日この会社に赴任してきたばかりの梨ヶ瀬さんが、どうしてそんな事に気付くことが出来たのか。「横井《よこい》さんが狙われる要素云々に関してはまた今度にして……あの男の視線に気付くのは、そんなに難しい事ではなかったよ」「それは、どうしてです?」 だって私は梨ヶ瀬さんに言われるまで、全く気が付いてもいなかった。それくらい、その男性とは立っていた場所も離れていたし。 こうして梨ヶ瀬さんに知らされなければ、これからも気付かなかったかもしれない。「僕が横井さんをこの電車で見つけたのは本当にたまたまだけど、あの男はきっとそうじゃない。横井さんに気付いた僕が近付いた時、彼は過剰に反応していたから」「それって、どんな?」 その事にも私はちっとも気付かなかった、予想外の梨ヶ瀬さんの登場によって頭がいっぱいで。「まあ、彼の勝手な嫉妬なんだろうけど。身体を震わせて、凄い目で僕らを睨んでいたからね。だから今日は、きっと最後までついて来るんだろうなって」 ……つまり? 今の状況になっているのは、全て梨ヶ瀬さんの所為だという事ですよね。「そんな睨まないでくれる? 横井さんの言いたいことは分かるけど、こうしてちゃんと君を送り届けてるんだから」 確かにそれはそうだけど、今一つ梨ヶ瀬さんの事は信用できない気がする。私の中の何かが簡単に彼を信じてしまわないで、と私に伝えてくるようで。「それが本当に、純粋な気持ちによる行動ならば良いんですけどね。どうしても、何かしらの裏があるような気がして」「信用無いなあ、これでも君の上司なのに」 わざとらしい、自分で信用されないような言動をとっているくせに。いくら私だってそれに気づかないほど鈍感じゃない、ただこの人が何を考えてそうしているのかが分からないだけ。 夜道でもこの辺りは明るい。人口の光に照らされても、この人はとても綺麗な顔をしてる。 正直なところ隣を歩くのは少し気が引ける、せめて主任のように美人ならば……「言ってる
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-07
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曇らない、その微笑 6

「もう勝手にしてください!」 さすがに上司からお願いと言われては断る事も出来ず、私は前だけを向いて少しでも早く家に帰ろうと足を進める。そんな私に気を悪くすることも無く、梨ヶ瀬《なしがせ》さんは笑顔のままでその隣を歩いてるのだけれど。「まあ、横井《よこい》さんが駄目だと言っても俺は最初からそのつもりだけどね」 つまり私を口で丸め込むことくらい簡単だという事なんでしょうね、確かに梨ヶ瀬さんならそうなのかもしれないけれど。 ……やっぱり私は、この人の事が凄く苦手だわ。 アパートについて二階への階段を上れば、後ろから梨ヶ瀬さんもしっかりとついて来る。この人は口にしたことは絶対に実行してみせるタイプなのだろう。 一番奥の部屋の扉の前、自分の鞄から鍵を出したところで梨ヶ瀬さんを振り返る。「もう部屋まで着きましたから、帰ってもらって大丈夫ですよ」 心の中で早く帰ってくれと願いながら、なるべく失礼にならないように頭を下げてみせる。これ以上しつこくされてしまうと、あの男性と梨ヶ瀬さんのどっちがストーカーだか分からなくなりそうだし。 それなのに、この人は……「駄目、ちゃんと中まで入って鍵をかけて? そうしてくれなきゃ帰ってあげない」 普通は部下に対して、そんな脅し方はしないと思うんですけど? 梨ヶ瀬さんがこう言ったからには、私が部屋に入り鍵をかけるのを確認しなければ気が済まないに違いない。私はもう大きな溜息を隠すことも無く、取り出した鍵で玄関のドアを開けた。 ドアを開ければそこは私だけの城、何より落ち着く空間が広がっている。今まで数少ない友人しか招き入れた事の無い大事な場所だ。 私はすぐに部屋に入り、扉を梨ヶ瀬さんの顔が確認できるギリギリまで閉める。せめて気を付けて帰ってください、くらいは言おうと思ったのに……「残念、もう少しで横井さんのプライベートな空間を覗けるかと思ったのに」 もう……この人とあの緑パーカーの男性、本当にどっちがストーカーなんだろう? 自分はちっとも素の顔を見せる気はないくせに、こっちの隠したい部分には遠
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曇らない、その微笑 7

 これ以上この人の話を聞いてしまうと、こっちが振り回されるだけな気がする。私は梨ヶ瀬《なしがせ》さんにペコリと頭を下げると「ありがとうございました」とだけ言って玄関の扉を閉めてしまった。 最後まで頭を下げたまま、これ以上は彼の顔を見ないようにして。 ドアに寄り掛かって耳を澄ましていると、ここから遠ざかっていく梨ヶ瀬さんの足音が聞こえて。その音がどんどん小さくなっていくのを確認し、それから私はホッと息をつく。 玄関で靴を脱いで棚に鞄を置き、手洗いを済ませてお気に入りのソファーへと腰を下ろした。今日はなんだかんだで、いつもの倍は疲れたかもしれない。 さっさとお風呂を沸かそうとバスルームへ向かうと、鞄に入れたスマホが着信を知らせる。 嫌な予感を感じて鞄からスマホを取り出し、そのディスプレイを確認するとそれは予想とは違う人物で……「もしもし、伊藤《いとう》さん? また私に電話なんてかけてきて、いったい何のようなんです?」『はは……相変わらずだな、横井《よこい》さんは。別に特別な用なんてないよ、ただの暇つぶし』 また、そうやって嘘ばっかり。本当は元恋人である主任の事が、今も気になってるんでしょう? こうやって彼女たちの事を私から聞き出そうとしてるって、ちゃんと気付いてますからね。 この電話の相手である伊藤さんは、私の上司である長松《ながまつ》さんの元恋人で。以前に色々と揉め事を起こし会社を辞め、今は海外で働いているらしい。 ある日突然、この人からメッセージが送られてきたのをきっかけに。こうしてたまに、彼と電話やメッセージで話をしたりしている。 ……それこそ本当にどうでもいいような、中身の無い会話ばかりだけど。『今日は随分と出るのが遅かったな? いつも暇そうにしてるのに』「おあいにく様、私もこう見えて結構忙しい身なんです。話し相手もいない、伊藤さんの相手ばかりはしてあげられないんですよ」 それなりに容姿は整っていて、仕事も出来そうな伊藤さん。日本では結構モテるタイプだったけど、海外ではそうでもないのかしょっちゅう電話がかかってくる。「アンタにそんな心配してもらわなくても、俺の相手をしたがるヤツはいくらでもいる。これは寂しい横井さんのための、ただのボランティアだよ」 こうして話しているうちに気付いたのだが、伊藤さんの素はかなり性格が捻くれてる上に
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曇らない、その微笑 8

「相変わらず、素直じゃない性格をしてますね。本当に長松《ながまつ》主任も、こんな捻くれた人のどこが良かったんだか?」「……」 ほらね? 主任の名前を出した途端、彼は何も話さなくなる。未練なのか後悔なのかは知らないけれど、とても分かりやすい人だと思った。 だからってこれ以上、無駄なおしゃべりに付き合う気も起きなくて。さっさと彼の知りたがっている事を、教えるてあげることにした。「主任は今も、御堂《みどう》さんと何の問題なく暮らしてますよ。そろそろ結婚式の招待状でも来るんじゃないですかねえ?」「……ああ、そうか」 こうして主任たちの現状を教えると、伊藤さんは少し安心したような声でちいさく「サンキュ」と言ってくる。彼なりに二人を引っ掻き回したあの時の事を、今も気にしてるのかもしれない。「じゃあもういいですよね、私疲れてるんで切りますよ?」 どうせ彼の本当の用事はこれだけなんだって分かってる。直接本人たちに聞けないからこうして私を利用する、それだけの間柄だと思ってたのに……「なあ、何かあったのか? アンタの声、いつもより苛ついてる」 あーあ、どうしてよりにもよってこの人に気付かれちゃうのかなあ? 伊藤さん相手に、悩み相談なんてする気はないんだけど。「そんな余計な事にまで気付かなくていいです、伊藤さんのくせに」「なんだよ、その言い方? 図星だからって、俺にまで八つ当たりする気なのか?」 もう、本当に感じ悪い人! 伊藤さんも梨ヶ瀬さんとは違う厄介さがあるので、出来れば相手したくないのに。 そう思って、深いため息をつくと……「どうせなら今、話してみれば? 別に俺には関係ないから、適当に聞いてやるだけだけど」 まさかそんな言葉を伊藤さんから聞くことになるとは思ってなくて、驚いてスマホを落っことしそうになった。 聞いてやるから話せ、なんて本当にこの人は伊藤さん?「あの、何か悪いものでも食べたんですか? 私と話している暇があるなら、早く病院に行った方が……」「……ああ、そうだな。真面目に話を聞こうと思った俺が馬鹿だった、じゃあな」 そう言って伊藤さんは、あっさりと通話を切ってしまった。どうやら本当に心配して、話を聞こうとしてくれたのだろう。 ……意外だわ。あの人にそんな優しい一面があるなんて、思いもしなかった。「でも主任が好きになった人だから
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-08
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必要ない、その心配 1

「おはよう、横井《よこい》さん。昨日、僕が帰ってからはゆっくり休めた?」 昨日と変わらない、完璧な作り笑顔で私に近寄り話しかけて来る梨ヶ瀬《なしがせ》さん。その何か含んだようなものの言い方、止めてもらえませんか? 近くにいた数人の女子社員が、梨ヶ瀬さんの言葉に反応しあからさまにヒソヒソ話をしだした。変な噂の的になんて、出来るだけなりたくないのに……「ええ、それはもう。誰かさんが散々脅してくれたおかげで、ビクビクドキドキしながら眠りにつきましたよ」 これは半分は本当の事。いくら私だって自分がストーカーされていると言われれば、それなりに恐怖だって感じるに決まってる。 その後の伊藤《いとう》さんとの会話で、少し気が紛れはしたけれど。結局なかなか寝付けないまま、時間だけが過ぎていった。「まあ、そうだろうね。ほらココのところ、隈になってる」「ちょっ……、止めて下さい」 梨ヶ瀬さんが当然のように私に触れようとするから、つい彼の手を強く払ってしまった。しまった! と思い謝ろうとしたけれど、梨ヶ瀬さんは気にした様子も見せず「ごめんね?」とだけ言ってデスクへと戻っていく。 こっちの意見をまるで聞かずにグイグイ来るかと思えば、こうやってあっさり引いていく時もある。梨ヶ瀬さんの考えている事は、やっぱり私にはちっとも分らない。 デスクに鞄を置いて仕事の準備をしていると、スマホが震えてメッセージの受信を教えてくれる。 画面を確認すると、メッセージの送り主は眞杉《ますぎ》さんで……『すみません、横井さん。少しお話したいことがあるので、昼休みに近くのファミレスに来てもらえますか?』 もしかして昨日のことだろうか? 鷹尾《たかお》さんが席に付いた後、明らかに眞杉さんの態度はおかしかったから。 もしかしたら、その事について私に相談したいのかもしれない。 ……という事は、今日のお昼は梨ヶ瀬さん達と一緒にとらずに済むってこと? 憂鬱なお昼を回避出来そうで、思わずホッとしてしまう。 私はデスクでパソコンの画面と睨めっこしている梨ヶ瀬さんに、なるべく小さな声で話しかける。「あの……昼休みにちょっと予定が入っちゃって。今日は鷹尾さんと梨ヶ瀬さんで、昼食は済ませてくれませんか」「その相手って眞杉さん? それとも、俺の知らない誰かだったりする?」 梨ヶ瀬さんはパソコン画面を
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必要ない、その心配 2

「それは、ちゃんと分かっていますけど……」 今更ながら、簡単に鷹尾《たかお》さん達からの頼みを聞いてしまった事を後悔しそうになる。かなり強引に約束させられたとはいえ、眞杉《ますぎ》さんの気持ちを無視するような事はしたくないのが本音で。「確かに協力はすると言いましたが、それを眞杉さんに無理強いするつもりは無いんです。そんなやり方で、彼女が鷹尾さんに好意を持ってくれるとは思えませんから」「……それは確かに横井《よこい》さんの言う通りだね。じゃあ今日は、眞杉さんの本音を聞き出せるように頑張ってみて?」 そう軽々しく言われて、ちょっとイラっとしてしまう。その結果が鷹尾さんにとって絶望的なものだとしても、この人はそんな笑顔でいられるのかしら?「彼女が話してくれたからと言って、それを梨ヶ瀬《なしがせ》さん達にそのまま伝えるとは限りませんから」「もちろん俺も鷹尾も、そこまで眞杉さんの気持ちを無視するつもりはないよ。ただ……俺はある程度、可能性があると思って彼に協力してるのだけどね」 自分は何でも分かってるって顔をしないで欲しい、ここに昨日来たばかりのくせに。私が梨ヶ瀬さんを苦手だと思うのは、なんとなく人の事を見透かしたようなところが彼にあるからなのかもしれない。 そういうのって、貴方に何が分かるのよ? って、反抗したくなってしまうものだから。「じゃあ私は、可能性が無いほうにかけてもいいですよ? 鷹尾さんには申し訳ないけど、眞杉さんあの時は凄い顔をしてましたから」「……へえ、それは面白そう。じゃあ賭けに勝った方は負けた方に何でも一つ命令出来る、なんてどうかな?」 ちょっと余計な事を言ってしまったかと、この時は思ったのだけれども。この勝負に勝てば余計なちょっかいを出すのはやめて、とはっきり言う事が出来るかもしれない。 それならば、と思った私は……「いいですよ、私が勝ったら梨ヶ瀬さんが言う事を聞く。梨ヶ瀬さんが勝った場合は私が言う事を聞く……これで決まりですね」 そうして私と梨ヶ瀬さんの、よく分からない勝負が始まったのだけれども。その当事者である鷹尾さんに協力するという約束を、綺麗サッパリ忘れたままで。「それで、眞杉さんの話って……あの鷹尾さんの事ですよね?」 眞杉さんと約束していた喫茶店、二人の注文を済ませると同時に私は彼女にずずいと詰め寄って。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-10
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必要ない、その心配 3

 仕事を開始して冷静に考えたら、とても馬鹿な賭けをしてしまったと思う。私が協力しなければいけないのは鷹尾《たかお》さんの方なのに、彼と眞杉《ますぎ》さんが上手くいかない方に賭けるなんて。 きっとあの時、梨ヶ瀬《なしがせ》さんは私の事を馬鹿な女だと思ったに違いない。そう考えると、無性に悔しくて……「あの、その話なんですけど。横井《よこい》さんには言っていなかったんですけど、実は私……」「苦手なんでしょう、鷹尾さんの事が。だって彼に対してだけ、眞杉さんはあんな態度だったんだもの」 彼女が続きを話す前に、私が自分の希望を押し付ける。もしこれでそうでなかった場合、私は梨ヶ瀬さんの言う事を一つ聞かなくてはいけなくなる。 ……かなり怖い。梨ヶ瀬さんからどんな命令をされるのか、正直なところ想像がつかなくて。「あの、横井さん? もしかして、横井さんも鷹尾さんの事が……?」「……はい?」 心配そうな目で私をじっと見つめる眞杉さん。でも横井さんも? と聞いてきたと言う事は、つまり…… 自分の発言に気付いたのか、赤い顔をしてもじもじとする眞杉さんを見て絶望を感じた。これ以上わざわざ聞かなくても、私にだって分かるから。 これで梨ヶ瀬さんとの賭けは、自分の負けが決まってしまったのだと。 結局……眞杉さんは地味な自分では、女性社員に人気のある鷹尾さんの隣に相応しくない。そう考えた結果、彼の事を避け続けていただけらしい。 鷹尾さんからの一度目の告白以前から、眞杉さんも彼の事を隠れて見ていたそうで。「そんなの鷹尾さんが気にしてなければ、それでいいんじゃないですか? 彼は今の眞杉さんに、好意を持っているんだから」「そ、そんな訳には行きません! 鷹尾さんに憧れている女子社員が、それで納得する訳ないですし」 ……確かに言われてみれば、私も心当たりがある。 昨日からやたらと私に構いたがるイケメン課長の所為で、オフィスの女子社員にやけに睨まれるようになった。 眞杉さんは分厚い眼鏡をかけているし、長い黒髪は三つ編みでどちらかと言えば地味な女性。彼女と鷹尾さんが一緒に居れば、眞杉さんの方がなにかしらの嫌がらせを受けるかもしれない。「だから、鷹尾さんとは付き合えないって? 眞杉さんは本当にそれで良いんですか?」「だって営業部のエースなんですよ、彼。仕事だって、今も雑用しかさ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-10
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必要ない、その心配 4

「それじゃあ眞杉《ますぎ》さんは、彼に見合うように頑張ろうとか考えたりしませんか? 少なくとも鷹尾《たかお》さんは、眞杉さんに振り向いてもらう為の努力をしてると思うんですけど」「それは、そうなんですけど……」 そりゃあ私だって、眞杉さんの気持ちは何となく分かってる。彼女のように大人しい女性なら、恋愛に消極的になってしまいがちなのも。 だけどこうしてお互いに想い合っているのなら、もっと勇気を持って欲しい……そんな風に応援したくなっちゃうのは、余計なお節介だったりするのかな?「私も出来る限り眞杉さんに協力するって約束しますから。だからね、これから一緒に頑張ってみましょうよ?」 グッとテーブルに上半身を乗り出して、固く握られた彼女のこぶしに自分の手を重ねる。どうか私を信用して欲しい、そんな気持ちをそこに込めて。 「横井《よこい》さん、本当に頼ってもいいんですか? 私……きっと面倒くさいタイプですよ」 それでも少しずつ顔を上げてくれた眞杉さん、彼女に向けて力強く頷いてみせる。こうなったら自分に出来る事を、二人の未来のためにやってやろうじゃないの!「本当にありがとうございます、横井さん。私、鷹尾さんに相応しくなれるように頑張ります」 まだ不安を残したままだけど、少しだけ前向きな表情になってきた眞杉さんが私の両手を強く握ってお礼を言葉を言ってくれた。  ……良かった、本当にそう思っているのに。 そんな私の頭の端で、楽しそうに微笑む梨ヶ瀬《なしがせ》さんが浮かんでは消える。 きっと彼にはこうなる事くらい、全て予想の範囲内だったに違いない。それが一番、自分の胸の中で引っ掛かっていて。 「ああ、もう……あんな馬鹿げた賭けなんて、受けなきゃ良かったのに。なんでこうなっちゃうのかな」「え? 横井さん、今なんて?」「いえ、ただの独り言です。眞杉さんはそんなことより、これからどうするか考えなきゃダメですよ」 ついポロっと口から出てしまったが、梨ヶ瀬さんとの賭けについて眞杉さんに知られるわけにはいかず。別の話で誤魔化してみる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-11
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必要ない、その心配 5

「なんだか凄い顔してね、横井《よこい》さん? どうしたの、って聞いた方がいいのかな?」 昼食を終え黙々と午後の仕事を片付けていたけど、何度も梨ヶ瀬《なしがせ》さんとの賭けを思い出しては頭を抱えていた。自分で言い出しておいて、思い切り自爆したなんて、この人に知られたら恥ずかしさで死ねる。 それなのに梨ヶ瀬さんは、朝と変わらない笑顔で私に話しかけて来る。この人が何を考えているのか、やっぱり全く分からなくて。「女性に酷い顔とか、失礼じゃないですか? それに梨ヶ瀬さんに話をしても、何の解決にもならない事ですから」「……ああ。やっぱり横井さんは、眞杉《ますぎ》さんを放ってはおけなかったんだ。まあ、そんな事になるだろうとは思ってたけど」 やっぱり最初から、この人は分かっていたんだ。この会社には来たばかりのくせに、眞杉さんの隠した気持ちにまで気付くなんて……なんて観察力なのだろう。 初めから勝負が見えていたくせに、この賭けに何食わぬ顔をして乗って来たなんて。「どうせ何もかもお見通しですよね? そうして私だけが一人で、喜んだり焦ったり落ち込んだりしてる」「……否定はしないよ? 君が出した賭けの商品、俺にはかなり魅力的だったしね」 ジロリと恨みがましい目で睨んでも『勝負は勝負だから』と笑って返される。初めから百パーセント勝つんだって分かってる勝負は、そもそも賭けとは言わない気がするけれど。「ああ、そうですか。じゃあ私に命令したい内容は、もう決まってるってことでしょうか?」 梨ヶ瀬さんが勝ちを確信して、仕掛けてきたこの勝負。そんなのインチキだと、突っぱねる事も出来たのかもしれない。 だけどこの賭けを望んだのは、誰でもない私自身だから。決めていた約束を守らないなんて、そんなことを出来る性格でもなかった。 きっと梨ヶ瀬さんの中では、私のそんな性格も計算のうちだったのかもしれないけれど。「そうだね、いくつか候補はあるんだけど……」「命令出来るのは一つだけです、どうぞゆっくり考えててください」 そして綺麗さっぱりと忘れてくれればいいのに。だけどこの人はきっと、そんな失敗をすることは無いんでしょうね。 それにしても……彼の考えている命令の候補を知りたいような、知りたくないような。「それじゃあ、私はお先に失礼しますので」 ちょうど仕事を終えた所でもあったので
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-12
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