Semua Bab 唇を濡らす冷めない熱: Bab 41 - Bab 50

63 Bab

見せない、その胸中 8

「それで、結局何のために私をこの部屋に連れてきたんです? そもそも梨ヶ瀬《なしがせ》さんは私に、怪我一つ無いって気づいてたんですよね」 まさか私の注意力が足りないとか言う類の、お説教が始まるとか? それなら資料室で済ませてもらいたかったわね、こっちは私の部署から少し離れてるし。 一人でブツブツと、そんな事を考えてたら……「もし君がさっきので、ショックを受けてたら休ませなきゃって思って」「……え?」 さっきのって、閉じ込められたことよね。梨ヶ瀬さんは私がそれで、精神的なダメージを受けてないかと心配してくれたの? えっと、貴方ってそんな過保護な人でしたっけ?「……そう考えてたけど、全然必要なかったよね。横井《よこい》さんそういうとこ、意外と図太そうだし?」 にっこり笑顔でそういう梨ヶ瀬さん、自分が嫌味を言うのはOKなんですか? さっきのは前言撤回、彼の場合は過保護なんかじゃなくただの気紛れに違いない。「ええ、梨ヶ瀬さんの性根の歪み方には負けますけど。お互い様ですよね?」「そうだね、でもそれって意外と相性良さそうだと思わない?」 何でそうなるんです、いくらなんでもこじつけが酷すぎませんか? この人の頭の中がどうなってるのか、本当に理解出来ない気がする。「私は全く思いませんね。では、先に部署に戻らせていただきます」 言われっぱなしでいるつもりはない、そう言われたらこう返すだけ。そしてまた梨ヶ瀬さんの本気か冗談か分からない遠回しな言葉を聞き流して、彼を置いてけぼりにして仕事場に戻る。 それでも、助けに来てくれた時の梨ヶ瀬さんは普段よりカッコよく見えたのは、彼には絶対黙っておくことにしようと思った。「ああ、横井さん無事だったんだね? さっきは梨ヶ瀬が血相を変えて走って行くから、君に何かあったのかと思って……」 梨ヶ瀬さんから離れ、部署に戻る途中で鷹尾《たかお》さんに出会う。 鷹尾さんが私のことを梨ヶ瀬さんに知らせてくれたおかげで、資料室の件が大事にならずに済んだのよね。彼には一言お礼を言わなければと思っていたので、ここで会えたのは都合が良くて。「はい、鷹尾さんのおかげで助かりました。閉じ込められてすぐ梨ヶ瀬さんが来てくれたので、私も怖い思いをせずに済んだんです」 そう言うと、感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。梨ヶ瀬さんには素直な行動は
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-06
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見せない、その胸中 9

「今度きちんとお礼をさせていただくので、その時は受け取ってくださいね?」 そう言ってニコリと微笑んで見せると、鷹尾《たかお》さんはすぐに何かを思いついたような顔をして。 そのまま私の両手を掴んだかと思うと……「あの、鷹尾さん?」 そもそも鷹尾さんは、高身長の梨ヶ瀬さんよりもさらに体格が良い。流石にこんな力強く掴まれると、手を取り返すことが出来ないんですけど?「じゃあ、今すぐにお願いします! 俺たちと横井《よこい》さん達、この二組で遊園地のダブルデートを企画してください!」「……はい?」 俺たち、とはどの『俺たち』のことでしょうか? 私ともう一人、それが間違いなく彼の想い人である眞杉《ますぎ》さんだという事は分かるんだけど。 本音を言えば知りたくない、でもそれを聞かなければ始まらない。「つまり……俺と眞杉さん、梨ヶ瀬《なしがせ》と横井さんで一緒に遊園地に行ってほしいんだ。眞杉さんも、横井さんと一緒なら来てくれるかもしれないし。マジで頼むよ! 君が来ればあの梨ヶ瀬に借りも作れて、一石二鳥なんだ」「は、はいぃぃぃ~?」 一気に言われてこっちの情報処理が間に合わない。私は眞杉さんを誘う役目のはずなのに、それでどうして梨ヶ瀬さんに借りが作れるというのか? しかもダブルデートと言う事は、私の相手は梨ヶ瀬さんってことになるのよね? さっきまでの彼とのやり取りを思い出し、一気に気が重くなって。 「それって、断っちゃだめですか……?」 非常に申し訳ないとは思っているが、出来ればこれ以上梨ヶ瀬さんとの接点を増やしたくない。遊園地に行って、今より二人の距離を縮めたいとも思わないし…… 鷹尾さんと眞杉さんの進展に協力するとは言ったものの、自分と梨ヶ瀬さんのことは放っておいてもらいたいし。「そんなこと言わないでよ。協力してくれるって言ったよね、今さっきお礼してくれるって言ったよね? だったらお願い、この俺に眞杉さんと遊園地デートのチャンスを!!」「ええぇぇ~っ!?」 鷹尾さんに必死の形相で頼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-06
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隠さない、その喜び 1

「鷹尾《たかお》からダブルデートを頼まれたんだって? つまり横井《よこい》さんのデートの相手は俺だよ、よくOKしたね」 今日の仕事をしっかりと終えて、私が帰る時間にピッタリと合わせてくる。余計なとこまで有能な、梨ヶ瀬《なしがせ》さんと二人で駅まで歩いている途中で。 鷹尾さんとの話が済んで部署に戻ると、そこにはもう梨ヶ瀬さんが帰ってきていて。部署の社員を自身の周りに集めて、何か真剣な表情で話をしていた。 ……あれから嫌がらせはピタリと止んで、良かったんだけど。「断れる状況じゃなかったですからね、鷹尾さんも意外と手強いですし。梨ヶ瀬さんも無理せず断ってはいかがですか?」「うん、何の冗談? こんなチャンスを俺が潰すわけないでしょ、もしかして横井さんのそれって照れ隠し?」 忘れていたいのにこうして梨ヶ瀬さんが話題にするから、嫌でも彼との遊園地を想像してしまう。 もういっそ眞杉《ますぎ》さんをかっ攫って、どこかに逃げてしまおうか……なんて考えたくなる。 いつも以上に鬱陶しい梨ヶ瀬さんの言葉に、どっと疲れてしまって。どんな耳をしてると、これが照れ隠しに聞こえるんですかね!?「相変わらずのプラス思考で、本当に羨ましい。そういう梨ヶ瀬さんは、今回の話に喜ばれてるようでなによりです」 思い切り嫌味で返してやった。これで少しはスッキリするかと思ったのだけど……「うん、鷹尾が気を利かせてくれて本当にラッキー。こうして横井さんとデートが出来るんだし、嬉しくて当然だよね」「なっ……!?」 いきなり何を言い出すのよこの男は! 今まで中途半端に、気のあるふりしかしなかったくせに。そんな事を言葉にするなんて、それは反則でしょう?「や、やめてくださいよ、そういうの! 対応に困ります」 普段の梨ヶ瀬さんも、苦手なタイプではあるけど。こんな風に、普段言わなそうなことを言葉にしてくる彼には慣れてなくて。 捻くれてるくせに、こんな時にだけ素直にならないでよ。いつも仮面被ってるくせに、私にだけ素顔を見せようとしないで。 そう言いたいのに……「へえ、横井さんにはこういう攻略法が良さそう。勝手に駆け引きしていた俺は、最初から間違ってたんだな」 そういうのばかり目敏く気付かないで! 駆け引きされても、されなくても私は攻略される気なんてありませんから。 理由は分からないけれど
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-07
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隠さない、その喜び 2

「攻略法って……恋愛もゲームみたいな感覚ですか、梨ヶ瀬《なしがせ》さんは」 しっかりと『モテる男は違いますね』という、嫌味も付けて言ってみる。もしそうだとしても、この人ならほとんどのゲームを楽々クリアーしてしまうのだろう。 ……私は、簡単にそのうちの一つにはなりたくない。 過去の恋愛は引きずらないタイプだと思うけど、だからといって綺麗な恋愛ばかりしてきたわけでもなく。繰り返し何度も言われた、お決まりの別れの言葉に傷つかないわけじゃないから。 普段はわりとミーハーなフリもしてるけど、本当は恋愛に消極的になっている。だから梨ヶ瀬さんのように、本音が読めない男性との恋愛なんて正直なところ考えられないの。「確かに横井《よこい》さんの言う通りだったかもしれないね、少し前までは。でも今は違うから」 さっきまで余裕のある笑顔だったくせに、こんな時だけ真面目な顔になる。へらへら笑っていてくれれば『嘘ばかり』と撥ね付けられるのに。 私は他の人とは違うんだ。自分はこの人の特別だ、なんて勘違いさせないでよ。梨ヶ瀬さんにはもっと貴方に似合いそうな、可愛い女の子がたくさんいるじゃない。「そうゆうセリフも言い慣れてそうですね、梨ヶ瀬さん。そうやって相手をその気にだけさせちゃって、それからどうしてるんですか?」 梨ヶ瀬さんからの誘惑を躱そうとすると、とんでもなく嫌味な言葉ばかりが出てくる。こんな人に好かれるわけない、揶揄われてるだけだと卑屈になってしまうから。 そんな私に彼は少し驚いた顔をしたけど、真っ直ぐこちらを見つめてきて……「……あのね、横井さん。確かに俺は恋愛の駆け引きを楽しんではきたけど、付き合いは真剣だったつもりだし相手を大事にしてきた。その場だけで、女の子を弄んできたつもりはないよ?」 そんなこと言われなくても、本当は分かってる。梨ヶ瀬さんは実はとても真剣に、目の前にいる人の事を考えてくれる人だから。 ……ちゃんと分かってても、どうしても受け入れられない。この人を嫌いなわけではなく、それ以外の別の何かで。 こういう恋愛だって他人のことならいくらでも応援出来るのに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-07
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隠さない、その喜び 3

「そう、ちょっとだけ我慢してて。もしかしたら気付かないで、そのまま出ていくかもしれないし」 梨ヶ瀬《なしがせ》さんは私の方を見ようともしない、真剣にストーカーの動向を窺っているようで。黙って見ていると彼の背中はかなり広い、それに守られてるって感じでそれが妙に擽ったい。 ……あーあ。 本当にどうすればいいんだろ。どんどんこの人の事を嫌いになれなくなっていく。苦手だ、相性が悪いと誤魔化せる間はそう長くないのかも。 「こういうの、カッコいい人がするとやはり違いますね。なんというか……」 「ちょっとくらいは、トキめいてくれたりする?」 すぐ調子に乗った発言をするのも梨ヶ瀬さんらしい。こうやって本気なのか分からなかったり真面目だったり。 気付いた時には、しっかりと彼に振り回されちゃってるし。 「今はストーカーに集中してください、真剣に!」 「……先に言い出したのは横井《よこい》さんの方なのにね?」 でも、もうしばらくはこのままの関係でいたい。まだ、私には恋なんてする勇気は無いから。 「残念、気付かれちゃったかな」 ふう、と困ったように溜息を吐いた梨ヶ瀬さん。 場所を変えさっきよりも二人の距離を詰めたせいで、彼の吐息が微かに耳にかかる。 それ、苦手だからやめて欲しいんだけど…… 「じゃあ隠れても仕方ないですね、もう離れてもらえますか?」 丁度良いと思って梨ヶ瀬さんから離れようとすると、すぐに腕を掴まれる。意外と強い力で掴まれていて、そのまま動こうとすることも出来ない。 「何なんです? 別にちょっとくらい離れても問題ないでしょう?」 「そうじゃない。アイツ、様子がおかしい。それに……」 ストーカーの男性を見ると、確かにその表情はおかしかったら。今にも泣きそうな苦しそうな……そんな目でこちらを見て いる。 それに彼もそばに立っている若い女性が、一生懸命に男性に話しかけている様子が窺えた。 「……何でしょうか、あの二人って?」 「さあね、でも次の降車駅で分かるんだろうね」 窓の外は見慣れた景色、いつの間にか電車は私たちの最寄り駅へ。電車の扉が開くと男女はそそくさと車両から降りて行った。 その様子を見ていた私も少し緊張しながら、梨ヶ瀬さんと一緒に外に出た。 いつも通り改札を抜けて帰路に着こう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-08
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隠さない、その喜び 4

「えっと……」「いきなり話って何? 貴女は、その男の関係者ってこと?」 私が返事をしかけたところで、いきなり話に割り込んでくる梨ヶ瀬《なしがせ》さん。二人に対していつもよりも優し気な笑顔を見せているが、その瞳は全く笑ってない。 梨ヶ瀬さんは私を自分の少し斜め後ろに立たせるようにして、二人との会話を続ける。「あの、私達……その、横井《よこい》さんに謝りたいと思って」「つまり貴女は、その男が彼女に何をしていたかを知っているってこと?」 謝罪をしたい。つまりそれは、この男性が私をストーカーしていた事実を認めるという事だろうか? だけど、どうしてこの女性まで?「あの、私はこの人の……」「ちょっと待って、ここじゃあ人目に付きすぎる。他人には聞かれない方が良い話でしょ? 近くに静かなカフェがあるから、一旦そこで話そうか」 そう言って女性の話を途中でストップさせると、梨ヶ瀬さんはカフェへの道案内をするようにさっさと歩きだした。 その間も梨ヶ瀬さんは私の手を握って、ストーカの男性から一番離れた場所を歩かせていた。「……それで、さっき言いかけた貴女とその男の関係っていうのは? まさかと思うけど、既婚者だったってことはないよね」 少し大きめのテーブル席、飲み物を注文し終えて私たちは真っ直ぐに向き合ってた。 穴場の店なのか席に座っているのは年配の方が多く。落ち着いたクラシックが流れとても素敵な雰囲気だ。 ……こんなゴタゴタの話し合いじゃなく、誰かとゆっくり来たい場所ね。そんな事をのんきに考えていると。「いえ、彼は独身ですし、私はこの人の……ただの幼馴染です」 そういう割には隣のストーカーの男性の事を気にしているように見える。ただの幼馴染なら、こんな風に一緒に謝りたいと言いになんて来ないでしょうし。 そう思ったのが顔に出てたのだろう、梨ヶ瀬さんが私の考えていたことをそのまま口にした。「なら貴女はどうしてこの男についてきたの? この人がストーカー行為をしていたことを、君は知っていたんだよね?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-08
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隠さない、その喜び 5

 いつの間にか彼が所持していた写真や持ち物などを、彼女は警察に行く為の証拠として持ち帰っていたそうで。「もちろんこんなことで、横井《よこい》さんの不安がなくなるとは思いません。相当怖い思いもして、気持ち悪さもあったはず。ですから……」 真剣な表情で話をする女性は、ちゃんと私の気持ちも考えてくれていて。それでも、やはり男性の未来が相当に心配なのだと分かる。 弟みたいなものといいながらも、彼女はずっと男性の手を握ってるし。 彼女の気持ちは痛いほど伝わってくるが、いま本当に大事なのは……「こんな風に、幼馴染の女性にばかりに謝ってもらってていいんですか? 私にストーカー行為をしたのは、この人じゃなく貴方ですよね?」 私にきちんと謝罪するべきなのは幼馴染の女性でなく、犯人であるこの人だ。それは私も梨ヶ瀬《なしがせ》さんも、絶対に譲れないことのはず。 彼が成人しているのならば善悪の区別も、やってはいけない行為も……人に迷惑をかけた時に取るべき行動も、ちゃんと分かってるはずでしょう? それなのに自分は幼馴染に隠れたまま、すべて変わってもらうなんてありえない。「それは、その……俺も反省して……」「そんな話し方じゃ聞こえませんよ、ちゃんと私の目を見て謝れますよね?」 いま誰かに庇ってもらってこの場をやり過ごしたとしても、本人が二度とやらないと思ってくれなくては意味がない。 きちんと被害にあった私と向き合ってほしいのだ。そんな思いが伝わったのか、彼はその場で立ち上がり、深く頭を下げて……「本当にすみませんでした! 自分の感情をコントロール出来ず、横井さんにとても迷惑をかけてしました」 今度はハッキリと聞こえる声で謝ってくれて。隣の女性も、ホッとした顔で男性の片腕を撫でている。 これでもういいでしょう、こうして傍で支えてくれる人がいるからきっと大丈夫。 私はそう思ってたのに、ここで梨ヶ瀬さんが待ったをかける。「ねえ。さっき話してた証拠になる写真や持ち物って、今も持ってきているの?」「え? はい、鞄の中に入れてきてます。ですが……」 梨ヶ瀬さんの言葉に少し女性は戸惑っていたが、彼が「出して」とだけ言うと鞄から私の隠し撮り写真や小物を出してテーブルに並べた。 その数々を両手で集めて、さっさと鞄に仕舞うと梨ヶ瀬さんは……「これは念のためこっちで預から
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-09
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隠さない、その喜び 6

「それじゃあ、俺たちはこれで……あと、これからは電車の時間もなるべく合わないようにして下さいね?」「はい、分かりました」 もう一度頭を下げる男女二人を残し、さっさと会計を済ませ喫茶店を出る。この店に次に来るときはもっとゆったりと過ごしたいな、なんて思いながら。「……その証拠、次があったら本当に使うつもりなんですか?」「当たり前でしょ? 本当は今だって、警察に連れていきたいくらいだよ。横井《よこい》さんがあの男にああ言わなければね」 意外だった。二度やらないための脅しなのかと思っていたのに、彼は本気の目をしていて。梨ヶ瀬《なしがせ》さんは、この出来事にかなり怒りを感じていたらしい。 本当の本当に、梨ヶ瀬さんは私のことを……だったりするのだろうか?「……ところでさ、あの話ってもう終わりだよね? 思ったよりすぐに解決したし」「あの話って?」「横井さんがストーカーされている間は、念のために俺の家に住むって話だけど……」 ああ、言われてみれば。 だけど今、向かっているのも梨ヶ瀬さんの部屋の方向なわけで。さて、これはどうしようかと考えてるとこちらをじっと見ている梨ヶ瀬さんと目が合う。 ……ええと、なんでそんな真剣な眼をして私を見るんですかね、梨ヶ瀬さんは?「そりゃあ、もうストーカーの事は解決しましたし……」 これ以上、梨ヶ瀬さんのところにお世話になる理由はない。確かに、思ってたよりもあっけなく話が済んだけれども。 それでも彼の心配事が一つ減ったのは間違いないのに、どうして梨ヶ瀬さんは不服そうな顔をしているのだろう?「たった一泊しかしてないのに? その昨日だって横井さんは俺の存在を忘れて、一人で熟睡してたじゃないか」「……はい?」 むしろ、一泊で済んだことの何が悪いのか? いや……それはまあ置いとくにしても、昨晩に熟睡した事を責められてる気がするのは何故なのか。「俺、今日はちょっと疲れててさ……」 その遠回しな言い方に嫌な予感がする。いつもよりも爽やかな笑顔の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-09
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隠さない、その喜び 7

「……え? しばらくの間、自分のサポートについてくれる社員をですか? ええ、それはもちろん助かりますけど……」 梨ヶ瀬《なしがせ》さんのサポート? そう言えば御堂《みどう》さんが課長代理としてやってきた時も、先輩が彼のサポートを任されていた。  もしかしたら女子社員の中で希望者がいた……なんてことはないでしょうね? そんな理由で、サポート役が選ばれるなんて思ってはいないけれど。「ええ、そうですか。それなら、はい……きっと彼女なら上手くサポートしてくれると思います、お願いします」 どうやら梨ヶ瀬さんのサポート役はすでに決まっていたようで、彼は機嫌良さそうにスマホをポケットにしまった。 彼女なら上手くサポートしてくれる、か。梨ヶ瀬さんにもそう思える女性社員がいたことが、意外なほどショックだった。「聞いた? サポート役だって、俺も来たばかりだし助かるよ」「そうですね、良かったですね」 ニコニコな梨ヶ瀬さんと逆に、彼の笑顔を見れば見るほどこっちの機嫌は急降下していく。笑顔で誤魔化しているけど、なんでだろう? ただ仕事でこの人にサポート役が付く、たったそれだけの事なのに。 「……意外だな? 横井《よこい》さんは、もっとはっきりと嫌がると思ったのに」 私の顔を不思議そうに見てる梨ヶ瀬さん、もしかして私がヤキモチでも妬いて見せると思ったのだろうか? そんな事あり得ないのに。「何故ですか? 役に立つサポートなんでしょう、嫌がる理由なんてないですよ?」 そうよ、私が不機嫌になる理由なんてない。こんな気持ちはきっと気のせい、だからほら笑ってられる。 はずだったのに……「そう? じゃあ改めてよろしくね、俺のサポート役に決まった横井 麗奈《れな》さん」 は……今、なんて?「……なっ、梨ヶ瀬さんが何か裏工作したんでしょう!?」 その話を聞いてすぐにそう思った、この人ならそのくらい簡単にやってのけそうだもの。 長松《ながまつ》主任の仕事のほとんどを引き継いだとはいえ、まだ経験の浅い私が課長のサポートに選ばれるなんてありえない! それにこんな大事な話を電話でなんて……そう思って疑いの目を梨ヶ瀬さんに向ける。「心配しなくても、来週にはきちんと横井《よこい》さんにも話があるよ。それに裏工作だなんて人聞き悪いな、上司との会話で君が補佐向きだと少ーし話しただ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-11
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隠さない、その喜び 8

「横井《よこい》さん、スマホ鳴ってるよ?」 はいはい、言われなくても分かってます。 いいですね、そうやって梨ヶ瀬《なしがせ》さんは余裕で笑っていられて! イライラしながら鞄からスマホを取り出しディスプレイを確認すると……「し、主任だ!」  慌てて通話ボタンを押してスマホを耳につける。 本社勤務になり離れてしまったけれど、長松《ながまつ》主任とは今でもこまめに連絡を取っていていい関係でいられてる。『もしもし、横井さん? ちょっと、話しておきたいことがあるんだけど』「はい、なんです? 話したいことって、もしかして御堂《みどう》さんとの事だったり……?」 あれから二人は、すでに婚約している。 少し早いが結婚の報告かと、思わずニヤニヤしてしまう。私だって二人の事を応援してたし、結婚式も楽しみにしてる。 ……のだけど。『やあね、まだ違うわよ。それより横井さんは、明日と明後日は空いている? 私と要《かなめ》で、そっちに遊びに行こうかと思ってて』「本当ですか!? 空いてます、例え空いてなくてもこじ開けます! 御堂さんも一緒に休みがとれたんですね、良かった!」 一瞬、スマホを放り投げてしまいそうになった。それくらい、主任と御堂さんに会えるのは嬉しい。 しかも明日と明後日なんて、サプライズでもされた気分!「……御堂、要?」 ぼそりとそう呟く梨ヶ瀬さん。そう言えば御堂さんも梨ヶ瀬さんも、もともと本社から来た人だった。 もしかして、知り合いだったりするのかもしれない。 そう思ったけれど、梨ヶ瀬さんの事は後回し。今は長松主任との話が、一番大事なのだから。「それじゃあ、何時にこっちに着くんです? はい、はい……分かりました、私もその時間には××空港に着くようにします!」『いいのよ、無理しなくても? 私は要と一緒なんだし、横井さんだって忙しいでしょう?』 長松主任はそういうが、私は一分一秒でも早く二人に会いたい。いままで梨ヶ瀬さんの傍にいて、やさぐれた心を癒してほしい。 それに……さっきの件も相談したいしね。「いいえ、大丈夫です。明日、明後日は私との時間を優先させて! と伝えておいてください、御堂さんに。それじゃ!」 まだ何か言いたそうな主任に申し訳ないと思いながら、終了ボタンを押した。 なぜなら私には今すぐにやらなければならないことが出来
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