「こっちです、主任〜! ああ、本当にもう! なかなか来てくれないから、何度そっちに飛んで行こうかと思ったか!」 空港のターミナルで主任を捕まえると、久しぶりだと思い切り彼女に抱きついてみせる。隣に立っている主任の婚約者である御堂《みどう》さんが、冷めた目で見ていても全く気にしない。 ふふん、むしろ羨ましいでしょう? と言わんばかりに長松《ながまつ》主任に撫でてもらって、それはもう良い気分に浸っていた。「横井《よこい》さんも元気そうね、安心したわ。私も思い切って本社に移動を決めてしまって、仕事も貴女にたくさん引き継いだから……」「紗綾《さや》は気にしなくて大丈夫だろう。横井さんがここまで元気なら、きっと新しい上司とも上手くいってるんだろうしな」 ……うっわ〜。 相変わらず優しい主任に癒してもらっていたのに、御堂さんの余計な一言で一気にテンションが下がる。 ああ、休日にまで嫌な顔を思い浮かべてしまったじゃない。 主任に抱き着いていた腕に力を込める、もちろん彼女が苦しいと感じない程度にだけど。「あらあら、今日の横井さんはずいぶんと甘えん坊なのね? 新しい仕事に慣れなくて休みが取れず、遅くなっちゃったからかしら」 ふふふ、と困ったように笑う主任。 前よりずっと笑顔が柔らかくなったのは、やはり御堂さんのおかげなんでしょうけれど。「そろそろ紗綾を離してくれないか、横井さん」 どうやら我慢の限界なのか、私達の間に割って入ってくる御堂さん。立派な大人の男のくせに、そんな事でヤキモチ妬いてていいんですか?「伊藤《いとう》さんの時の恩人である、私にまで嫉妬するとか酷くないですか? そんなに心の狭い人に、私の大事な主任は任せられないんですけど」 さっきの御堂さんの嫌味がまだ後味悪く残ってる気がして、ついつい喧嘩腰になってしまう。それくらい今の私にとって、梨ヶ瀬《なしがせ》さんの存在は悪い意味で大きかった。「あの時の事は勿論、とても感謝している。だがこれから先、横井さんが紗綾に何かしらの特別な感情を抱かないとは言い切れないからな」 ……へえ、そうきましたか。否定はしませんよ、だって私も主任の事が大好きですし? だからといって、恋人である御堂さんにまで妬いたりしませんけどね。 静かに火花を散らし合う私達を見て、主任は慌てて間に入る。「そういえば横井さ
Last Updated : 2025-10-12 Read more