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All Chapters of この男、毒花の如く: Chapter 241 - Chapter 247

247 Chapters

第240話

周歓と阮棠が肩を並べて軍営へと歩を進め、門口に差し掛かったその時、一つの人影が猛烈な勢いでこちらへ突進してきた。 孟小桃はとうの昔から背伸びをして門の辺りを見回していたが、阮棠の姿を認めた途端に目頭を熱くし、一目散に駆け寄るとその腕にぎゅっとしがみついた。 「お頭!やっと帰ってきた!今までどこに行ってたんだよ。ずっと会いたかったんだぞ」 阮棠は突然抱きつかれて一瞬たじろいだが、すぐに手を伸ばしてその背中をぽんぽんと叩いた。指先が少年の腰回りのぷよぷよとした肉に触れると、思わず片眉を上げた。「俺は平気だ。それより、小桃……」 そう言って言葉を区切ると、わざと険しい顔を作ってみせる。 孟小桃は不安げな眼差しを向けた。「ど……どうしたんだよ」 「最近、少しばかり怠けていたんじゃないか?この体つき、以前よりも随分と丸くなっている。随分と気楽な日々を送っていたようだな、ん?」 言い終わるか終わらないかのうちに、阮棠は孟小桃の腰のくすぐったい部分を素早くつねった。 孟小桃はくすぐったさに飛び上がり、顔を真っ赤にしてしきりに手を振った。 「そんなことない!お頭がいなかった間も、俺は毎日剣の稽古をして馬歩の鍛錬を欠かさなかったんだ。雨の日も風の日も、一日だって休まなかったぞ」 阮棠は横目で周歓を見やり、からかうような口調で言った。「ほう、怠けてはいないと?なら、周歓のろくでなしが悪いんだな。毎日美味い肉や魚ばかり食わせて、お前を太らせたってわけだ、そうだろう?」 周歓は途端に目を丸くした。「それも俺のせいになるのか」 ところが孟小桃はすぐさま阮棠の言葉に乗り、頬を
last updateLast Updated : 2026-08-15
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第241話

周歓は仕方なく寝台のそばまで歩み寄った。沈驚月は裸の背をこちらに向けており、その肩には目を背けたくなるほど痛々しい血の穴がぽっかりと開いている。内心ぞっとしながら、阮棠の放ったあの一剣は、つくづく容赦のないものだったのだと思い知らされた。だが、結局のところ、身から出た錆、自業自得というほかない。沈驚月は下唇を噛み、低い声で言った。「薬なら自分で塗れる。お前の助けなんて要らない。出て行ってくれ」周歓は、この期に及んでもまだ強がっているのかと思い、負けじと言い返した。「誰が助けに来たって?俺はただ、あんたが死んでるか生きてるか見に来ただけだ。そんなに元気そうなら、安心したよ」そう言いながら、周歓は手を伸ばして沈驚月の肩を叩こうとした。だが、沈驚月はつれない態度で身をよじり、周歓の手は気まずそうに宙を切った。周歓は面白くなさそうに手を引っ込め、冷ややかに笑った。「そうだったな。あんたはいつも堂々としていて、他人の哀れみや同情なんて必要としないんだった。いいだろう、この薬は自分で塗れ。背中の傷にどうやって薬を塗るのか、見せてもらおうじゃないか」沈驚月の顔には、耐え難い屈辱が浮かんだ。周歓が本当に薬を目の前へ放り投げたのを見て、その顔色はさらに青ざめる。彼は何も言わず薬瓶をひったくり、薬の粉を手のひらへ出した。片手を背中へ回したものの、どうやっても傷口には届かない。ようやく傷口に届いたかと思えば、今度はうっかり薬をこぼしてしまい、寝台や床のあちこちへ散らばってしまった。沈驚月はいたたまれないほどの気まずさに苛まれながらも、あくまで無言を貫いた。震える手で再び薬の粉を手のひらに取り、血にまみれた傷口へ何度も手を伸ばし続ける。その間、周歓は冷ややかな顔で傍らに立ち、腕を組んだまま成り行きを見守っていた。沈驚月が三度目の塗布に失敗し、あろうことか薬瓶まで床に落としてしまったところで、周歓はついに見ていられなくなった。歩み寄って薬瓶を拾い上げてみると、中の薬はすっかりこぼれ落ち、瓶の中はすでに空っぽだった。周歓は鼻で笑うと、きびすを返して天幕を出た。天幕を出た途端、背後からガチャンと何かが砕ける音が聞こえた。どうやら沈驚月が何かを床へ叩きつけたらしい。きっと中で癇癪を起こしているのだろうと思ったが、構う気にもなれず、そのまま軍医のもとへ向かっ
last updateLast Updated : 2026-08-17
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第242話

沈驚月は、周歓が突然乱暴な真似をするとは思いもよらず、驚きの声を上げながら必死にもがいて叫んだ。 「放せ!」 だが、周歓はいっそのこと両足を広げ、沈驚月の上に跨った。 片手で沈驚月の両手を背中へねじり上げて押さえ込み、もう片方の手で薬瓶を掴むと、歯で栓を噛み開け、薬の粉を沈驚月の傷口へ容赦なくぶちまけた。 沈驚月は激痛に悲鳴を上げ、周歓の下で激しくもがいた。その体は小刻みに震えている。 彼は怒りで顔面を蒼白にし、歯ぎしりしながら罵った。 「周歓!お前、私怨を晴らす気だな!」 「自業自得だ!」 周歓は薬の粉を沈驚月の傷口へ擦り込んだが、彼が下で絶え間なくもがくものだから、すっかり息を切らし、ようやく薬を塗り終えた。 続いて沈驚月を仰向けにひっくり返すと、今度はもう一瓶の金創薬を胸の傷口へ一気に流し込み、同じように擦り込んだ。 沈驚月は手足が痺れるほどの痛みに、とうに身動きも取れなくなっていた。額には細かな汗がにじみ、下唇は今にも噛み切られそうなほど強く噛み締められている。 周歓も沈驚月を押さえつけるためにありったけの馬鹿力を振り絞り、息を切らしながら言った。 「やっと痛みが分かったか?これでもまだ強がるか、見せてもらおうじゃねえか」 それでも沈驚月は一切声を上げず、ただ大粒の涙を瞳いっぱいに溜めていた。 顔を背けた瞬間、こらえきれなくなった涙が目尻を伝って滑り落ちる。 周歓はぶつぶつと悪態をつきながら麻布を掴み、沈驚月の傷口に押し当てると、えっちらおっちらと彼の体に布を巻きつけていった。 沈驚月も、この
last updateLast Updated : 2026-08-18
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第243話

天香楼の個室では、暖かな黄色い蝋燭の火が卓上に並ぶ色とりどりの料理を照らし、いっそう食欲をそそっていた。 孟小桃は品書きの看板料理を講釈でも垂れるように次々と注文し、今は甲斐甲斐しく阮棠の皿へ料理を取り分けながら、小鳥のようにぺちゃくちゃと喋り続けている。 「お頭、早くこれ食べてみて!この豚足の醤油煮、ほろほろになるまで煮込んであって、すっごく美味しいんだから!足りなかったら、また頼めばいいしね」 阮棠は慌ててその手を押さえた。 「もう十分だ。これだけの料理、どう考えても食べきれない。これ以上頼んだら無駄になる」 「何を心配してんのさ!楽がいるじゃないか」 孟小桃はそう言いながら、ふと阮棠に顔を寄せ、少し声をひそめて探るように尋ねた。 「そういえばお頭、楽と仲直りしたの?」 湯呑みを握っていた阮棠の指先が、ぴたりと止まった。 彼は顔を上げて孟小桃を見つめると、答える代わりに問い返した。 「お前は、俺があいつを許すべきだと思うか」 孟小桃は翡翠海老の炒め物を口いっぱいに頬張り、両頬を膨らませたままもぐもぐと咀嚼した。やがてごくんと飲み込むと、少し恨めしそうに唇を尖らせながらも、すぐにまた笑みを浮かべた。 「俺がお頭の代わりに決められるわけないじゃん。 でもさ、ずっと楽の傍にいて分かったことがあるんだ。あいつ、普段はいい加減に見えるけど、いざって時は誰よりも頼りになるんだよ。 この前だって、楚行雲様が楽と嵇無隅殿を陥れようとした時、あいつときたら逆に嵇無隅殿と一芝居打って、相手の計略を逆手に取ったんだから! ただ……俺
last updateLast Updated : 2026-08-19
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第244話

周歓は口角をわずかに上げ、苦笑を浮かべた。「ああ、分かってる。お前は確かに……そういう性分じゃない」阮棠は少し間を置いてから、どこか苦々しげな口調で言った。「お前にも俺にも、どうしても譲れない一線がある。無理に一緒にいたところで、お互いを苦しめるだけだ。だったら、いっそ袂を分かったほうがいい。お前はお前の大事を成し遂げろ。俺は……俺の道を探しに行くべきなんだ」周歓の心臓は、まるで何かにきつく鷲掴みにされたかのように、息も詰まるほど激しく痛んだ。彼は口を開き、何かを言おうとした。だが、浮かんでは消える言葉はすべて喉の奥につかえ、ひと言たりとも声にならなかった。阮棠の言う通りだった。二人の間には、あまりにも多くのものが隔たっている。俞浩然の死、沈驚月の存在、そして、それぞれが背負う道義。その一つひとつが、自分と阮棠の間に横たわる深い溝だった。もしかすると、どれほど深い溝であっても、いつかは埋まる日が来るのかもしれない。だが、その日が来るまで、周歓にできることといえば、辛抱強く待ち続けることだけだった。最後に、彼はただ深く頷いた。「分かった。お前がそう決めたなら、俺は……それでいい」それから宿までの道のりで、二人はもう言葉を交わさなかった。孟小桃を宿へ送り届け、寝かしつけた後、周歓は阮棠の後について宿の入り口まで歩いた。そこで阮棠は懐から小さな笛を取り出し、周歓の目の前へ差し出した。その笛は、作りこそ精巧とは言えなかったが、縁は滑らかに磨き上げられていた。持ち主が随分と手間暇をかけて作ったことが、ひと目で分かる。「これをお前にやる」阮棠は低い声で言った。「先日俺が仕留めたハゲワシの尺骨を削り出して、自分の手で作ったものだ。吹けば音が遠くまで届く。これからもし危険な目に遭ったら、これを吹け。俺がどこにいようと、聞こえさえすれば必ず駆けつける
last updateLast Updated : 2026-08-20
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第245話

まもなくして、二人の男が広間へと案内された。 沈驚月が目を凝らして見ると、一人は眉目秀麗で、ひと目で並々ならぬ風格を感じさせる男だった。もう一人は童顔で、すっきりとした顔立ちをしており、その瞳には生き生きとした精気が宿っている。 童顔の男は懐竹と名乗り、その隣の男は薛氷と名乗った。 沈驚月は表情を変えずに告げた。 「周歓はすでに兵を率いて城を出た。お前たちは一足遅かったな」 「何だと!?」薛氷は驚き、慌てて尋ねた。「彼が発ってからどれくらい経つ?」 「昨日の早朝だ」 薛氷は俯いてしばし考え込むと、懐竹に向かって低い声で言った。 「行こう。周歓を追うぞ」 懐竹は慌てて薛氷の袖を引いた。 「いや、絶対に駄目です!あの人たちは戦に向かったんですよ。危険すぎます。自分から危ないところへ飛び込むような真似はやめてください!」 沈驚月は黙って二人を見つめ、口を挟んだ。 「お前たちは一体、周歓の何者なのだ。周歓に何の用がある?」 薛氷と懐竹は顔を見合わせた。 やがて懐竹がおずおずと口を開く。 「私たちは……周歓の遠縁の親戚でして、その……彼を頼ってここまで来たのです」 沈驚月は思案するように二人を見つめた。 「遠縁の親戚だと?それなら、この汝州城に留まって、大人しく周歓の凱旋を待つがいい」 そう言うなり、沈驚月は二人に反論する隙すら与えなかった。 
last updateLast Updated : 2026-08-21
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第246話

「帝に……手を出すだと?」 沈驚月はハッと息を呑んだ。 脳天を雷で打ち抜かれたような衝撃に見舞われ、慌てて手を離す。 「あ、あなたは……」 男はようやく解放されると、ふらつきながら立ち上がった。 しばらく息を整えてから、ゆっくりと口を開く。 「水を……汲んできてくれないか」 夜の闇の中、沈驚月は目の前の男――薛氷と名乗っていた人物を、信じられない思いで見つめた。 清らかな水で顔の化粧を洗い流し、その素顔をさらした男。 その正体は、あろうことか楚の天子、蕭晗だった。 あの日、青蓮寺で薛氷が蕭晗の前に連れてきた女は、変装の達人だった。 その変装術はまさに神業と呼ぶにふさわしく、瞬く間に蕭晗と薛氷の顔を完全に入れ替えてしまったのだ。 蕭晗はとうに覚悟を決めていた。 それでも、自分と瓜二つの顔が目の前に現れた瞬間には、さすがに度肝を抜かれた。 沈驚月が口を開く。 「……この世に、これほど神がかった変装術が存在するとは。自分の耳で聞き、この目で見なければ、到底信じられなかったでしょう」 蕭晗は苦笑した。 「そなたならなおさらだろう。朕自身でさえ、いまだに実感が湧かぬのだ。 まさか……この変装術に頼って、厳重な警備の敷かれた皇宮から抜け出せるとはな。二十年以上もの間、朕を縛りつけていた、あの牢
last updateLast Updated : 2026-08-22
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