僕の瞳に映る君の姿。 仄めかしく、淡い色に抱かれている。 僕の手が彼女を求めようとしている。 全ての空間、空気、気温、感情 全てを止めていく。 巻き戻す事も出来ない記憶の中の君を 僕は物語として綴っていく。 第一話 スマホカメラ 僕の通っている高校には彼女がいた。いつも側から笑い合っている周囲を観察している。彼女はここにいるのに、存在しない。 不思議な魅力を持っている。「ヒズミくん、何してるの?」 誰にも声をかけてもらえない。僕の存在は周囲に認知されていないからだ。それでも今日は今までとは違う。新しい日常が顔を出して微笑んでいた。「……え」 彼女の声を知っている。裏庭で隠れて歌っていた姿を何度か見ていた。他の人達は彼女に見向きもしない。 それでも僕にとっては彼女の全てが美しい彫刻品のように思えて仕方ない。 本人に伝える事はないだろう。お互いが自分の姿を隠しながら、カメレオンのように周囲に溶け込んでいくのだから。「どうして僕の名前を……」「ん? 同級生だから知っていて当然じゃないかな」 初めて話す彼女は思った以上にフランク。自分の中で勝手に彼女の人格を決めつけていた事が恥ずかしくてたまらない。 僕は歪んで、真実を見ようとしない。 そうやって現実から内部の自分を引き出されないようにかくれんぼを続けている。「そうだよね。ごめんね」「どうして謝るの? そういう時は笑おうよ。苦しそうな顔よりも、ヒズミくんには笑顔が似合うと思うから」 トクトクと彼女の言葉に心が反応していく。家族にさえも言われた事のない言葉が、僕にとっては眩すぎて、動悸を感じていく。「私はずっと君と話したかったの。いつも私の歌、盗み聞きしてたでしょ」 気づかれていないと思い込んでいた屈折した事実が真実へと書き換えられていく。彼女は教室でいる時とは違う雰囲気を作り出しながら、僕の手を優しく握っていった。「……天童さん」「苗字で呼ばないでほしいな。私の事はライアと呼んで」「ライア」 ライアはクスリと微笑みを零すと、ポケットからスマホを取り出し、カメラの標準を合わせていく。「知ってる? 最近のスマホってカメラ機能、性能高いんだよ」 カシャリ。 微かにスマホから流れてくるのはシャッター音。それが僕に向けられた初めてのラブレターだった。 想
Last Updated : 2025-08-19 Read more