All Chapters of 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ: Chapter 71 - Chapter 80

亜夕美はその日の午後、ゴールドエンターテインメントに行き、契約書にサインした。「ノルマの金額は50億に引き下げたわ。あなたが以前に出した条件もそのまま通した。契約を結んだ以上、これからは会社のために馬車馬のように働くことね」オフィスで由紀子はそう言った。ゴールドエンターテインメントでは由紀子が筋金入りの「搾取の女帝」だというのは有名な話で、自分がマネージメントするタレントが家でダラダラしているのを見逃すようなタイプではなかった。由紀子は若い彼氏とチャットを楽しみしつつ、机の引き出しから一枚の書類を取り出した。「これはあなたの復帰プランよ。持ち帰って目を通しておいて。陸田穣監督のドラマは来

由紀子は慌ててスマホを脇に放り投げ、テーブルの上を片付けた。ふと顔を上げると、亜夕美の胸元にキスマークの跡があるのを見つけ、顔が一気に険しくなった。亜夕美の顔立ちはあまりにも男を惹きつけてしまう。だからこそ、さっき男たちを部屋に入れるときにちゃんと念を押したはずだった――『酒を飲ませるだけ、手は出すな』と。なのに、結局は言うことを聞かないヤツがいたということか。由紀子が何とかキスマークを消せないか画策していると、否応なしに亜夕美の顔を正面から見つめることになった。女の自分でも思わず息を呑むような美しさだった。亜夕美が一世を風靡していた頃、由紀子は海外で研修を受けていて、将来は帰国して佐武

彼女はあっさりと電話を切った。将臣とこれ以上無駄話をするつもりは毛頭ない。布団をめくって洗面所に向かおうとしたが、ふと動きを止め、ふと見下ろした自分の身体――身にまとった柔らかなシルクのパジャマに、しばらく言葉を失った。――一方その頃。由紀子はオフィスで新たに契約した芸能人を盛大に叱り飛ばしていたが、そこへ亜夕美から電話がかかってくる。由紀子は急に後ろめたさを覚え、目の前の人物を手で追い払ってから、通話ボタンを押した。「どうしたの～？昨日はよく眠れた？」由紀子のやりすぎなくらいの馴れ馴れしいテンションに一瞬ひっかかりながらも、亜夕美は「これは、何かあったんだな」と心の中で思う。「由

田中先生は気まずそうに亜夕美を見て、「亜夕美さんは……怒ったりしませんよね？」と恐る恐る尋ねる。亜夕美は我に返り、これまで何度か、田中先生がわざわざ別の場所で朝食を食べて、きれいに洗った弁当箱だけを返してくることを不思議に思っていたのを思い出した。まさか、誰かさんが亜夕美の手料理に目がくらんで、田中先生を利用していたとは、夢にも思っていなかった。亜夕美は気にする様子もなく手を振って言った。「じゃあ、今度から先生に朝食を届けるときは、もう一人分作りますね。あ、でもこれからちょっと仕事が忙しくなりそうだから、毎日は無理かもですけど」静樹が尋ねた。「マネージャーが仕事を入れたのか？」「ええ

亜夕美はふっと笑って言った。「行きましょう、収録に」亜夕美は布施貴司という人物について詳しいわけではなかった。当時、彼のために口を利いたのも、若気の至りで、同じく若い人が他人が犯したミスの責任を押し付けられているのを見過ごせなかったからにすぎない。貴司が口に出すまでは、そんなことがあったのも忘れていたくらいだ。だが、貴司は、会って早々亜夕美の傷口を何度も突いてきた。どう考えても大きな心を持った人間とは言い難い。多くの人は成功すると、自分の過去の惨めな姿を知っている人から自然と距離を取りたがる。亜夕美は、まさに貴司にとって「遠ざけたい過去」を知る存在なのだ。――せめて彼が言ったように、あ