自販機の白い光だけが、夜の端に浮かんでいた。 周囲には民家の明かりもほとんどない。田んぼの向こうから湿った風が吹き、泥の匂いと、草の青臭さを運んでくる。さっきまで排水路に腕を突っ込んでいたせいで、指先にはまだ冷たい感触が残っていた。 俺たちは、その自販機の前で待っていた。 秋崎叶が、現れるはずの場所で。 指輪を見つけてから、およそ二十分。 けれど、彼女は来なかった。 「……おかしいな」 俺はスマホの画面で時刻を確認する。 二十時四十分。 辺りはすっかり暗い。廃線跡へ続く道も、田んぼの水面も、夜に沈んで輪郭を失っている。自販機の明かりだけが不自然に白く、その周囲だけが現実から切り取られたように浮かんでいた。 「来ない」 ぽつりと呟くと、隣で智哉が両腕をさすった。 「お、俺としては複雑な心境だぜ……! こんなにも来てほしいのと来てほしくない心境が合体するなんてよ……」 「そ、そうだね……」 穂乃果も困ったように笑った。頬にはまだ泥の跡が残っている。けれど、その目は自販機の光の外側をじっと見ていた。 「私も、その気持ちは分かるよ? でも……あの日記とか、叶さんのお母さんの想いを見ちゃったからかな。少しだけ……ううん、結構、来てほしい方に傾いてるかも」 言いながら、穂乃果は自分でも戸惑うように眉を下げた。 怖いのだろう。 智哉も、穂乃果も。 それは正常な反応だと思う。 俺には、その感覚がやっぱりうまく掴めなかった。 来てほしい。 来なければ困る。 叶にこの指輪を返さなければ、ここまで来た意味がない。 俺の中にあるのは、ただそれだけだった。 俺は手の中にあるハンカチへ視線を落とす。そこには、泥を軽く落とした指輪が包んであった。完全に綺麗になったわけじゃない。それでも、銀色の輪は確かに光を返している。 叶が失くしたもの。 二十年も、彼女をこの場所に縛りつけていたもの。 「……おかしいな」 もう一度、同じ言葉が口から出た。 すると智哉が、ちらりと俺を見る。 「とりあえずさ、見つけたんだし、今日じゃなくてもいいんじゃね?」 「だ、だめだよ!」 穂乃果がすぐに首を振った。 「それこそ、指輪を盗んだと思われたら大変なことになるかも……」 「たしかに……?」 智哉は
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