白く焼けたアスファルトが陽炎に揺らめいている。耳の奥で飽和した蝉時雨が、脳の芯までをじわりと痺らせていた。汗で肌に張り付くワイシャツの感触が、意識の表面を絶えず削っていく。夏。この季節が、どうしようもなく嫌いだった。思考も身体も、何もかもが熱に溶けて弛緩していく。その気怠さの象徴のように、教室の窓の外、一つの山塊が横たわっていた。神鳴山。ここ、霞沢県にありながら、まるでその美しい名前を嘲笑うかのように、不吉な響きを持つ山。夏草の深い緑に覆われているはずの山肌が、遠目には黒々と淀んで見える。まるで、この世ならざるものが滲み出した巨大な染みだ。地元では有名なその山が、畏敬の念をもって語られることはない。かつては人を守る神がいた、と古書にはあるらしい。陳腐な御伽噺だ。今、あの山は人を**“招く”**。行方不明者の報せが流れるたび、町の人々は誰も口にはせずとも、あの黒い山のことを思った。「おーい、輝流ぅ!」背後から聞こえた間の抜けた声に、思考が現実へと引き戻される。鬼龍院智哉だった。「……なんだよ」「また随分と気怠そうだな、相変わらず」「気怠そう、じゃない。気怠いんだ。俺はもともとこういう性質だろ」「ちがいねぇ!」太陽みたいに笑って、智哉はそんな俺を肯定する。その屈託のなさが、少しだけ眩しかった。「でさ! 輝流! 今日の約束……覚えてるよな!」「ああ。山に行くんだよな?」俺の言葉に、智哉は子犬のように何度も頷いた。「そうそう! どうだ? 来れそうか?」来れそうか、か。退屈がゆっくりと静脈に流れ込み、身体を内側から蝕んでいくような毎日。禁じられた遊びは、大人たちに見つかれば面倒な説教が待っている。だが、そんなものは、この色褪せた日常から抜け出す理由を打ち消すほどの重さを持たない。「いいぜ。お前こそ、逃げんなよ?」挑発するように口角を上げると、智哉は「こいつー!」なんて言いながら、椅子に座る俺の首に腕を回してきた。その手首を掴み、軽く捻り|上《あ
Terakhir Diperbarui : 2025-08-20 Baca selengkapnya