Lahat ng Kabanata ng 縁が結ぶ影 〜神解きの標〜: Kabanata 51 - Kabanata 55

55 Kabanata

第五十二話:紅色の御守り

再び、その冷たい手が、俺の首を締め上げてきた。一度ならず、二度までも。俺の意識は、今度こそ、深い闇の底へと沈んでいくように感じられた。薄れていく意識の中、ごぼり、と喉が嫌な音を立てる。(……ここまで、か……)雪峰に続き、俺もここで……。脳裏に、穂乃果の不安そうな顔が浮かんだ、その瞬間だった。胸元が、灼けるように熱い。突然、心臓の真上あたりから、太陽が生まれたかのような、凄まじい熱が発生した。それは、ただの熱ではない。生命力そのものとでも言うべき、力強く、そして、どこまでも優しい温かさだった。カァンッ、と。頭蓋の内側で、澄み切った鐘の音が響き渡る。同時に、俺の身体から、真紅の光が爆発した。光は、俺の身体を中心に、薄い障壁のように展開する。それは、俺を締め上げていた老婆の腕を弾き飛ばし、凄まじい勢いでその本体を後方へと吹き飛ばした。「がっ……! げほっ、ごほっ……! はぁっ……はぁ……!」何が起きたのか、分からない。地面に叩きつけられた衝撃で、ようやく肺に空気が流れ込み、俺は激しく咳き込んだ。朦朧とする意識で顔を上げる。数メートル先で、老婆が地面に突っ伏し、もがくように身体を動かしているのが見えた。俺が、やったのか……? いや、違う。俺には、こんな力は……。そう思い、無意識に、熱の発生源である胸元へと手を伸ばす。そして、気づいた。「……これ、か」首から提げた、悠斗さんから譲り受けた勾玉。それが、自ら光を放つ恒星のように、鮮やかな紅い光を脈打たせていた。まるで、俺を守るために覚醒した、もう一つの心臓のように。その時、体勢を立て直した老婆が、再び俺へと向かってきた。憎悪に歪んだ顔は、先ほどよりもさらに凄まみを増している。だが、老婆が俺から三歩ほどの距離まで踏み込んだ、その瞬間。再び、勾玉から、紅い気の波紋が弾けるように放たれた。それは、目に見えない壁となり、突進してきた老婆の動きを、ぴたり、と防ぐ。『ギ……ッ……!』老婆は、見えない壁に阻まれ、それ以上一歩も前に進めない。まるで、檻に囚われた獣のように、虚空を何度も掻きむしり、その怒りをぶつけてくる。口が、声にならない形でおぞましく開閉し、その灼けつくような憎悪が、脳に直接ねじ込まれてきた。『ユルサナィィィ……ナゼ……ジャマヲ……スル……ッッ!!!』俺は、ま
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第五十三話:死よりも辛いこと

憎悪に歪んでいたはずの顔から、全ての力が抜け落ち、ただ、ぼろぼろと大粒の涙を流している。 その涙は、顔にこびりついた血と腐肉の汚れを洗い流し、幾筋もの、透明な軌跡を描いていた。 あれほど燃え盛っていた瞳の憎しみの炎は、完全に身を潜め、そこには、底なしの悲しみだけが、静かに揺らめいている。 やがて、そのひび割れた唇から、壊れた怨嗟ではない、本当の声が、嗚咽と共に漏れ始めた。 それは、何百年もの間、誰にも聞かれることのなかった、魂の叫びだった。 『なんで……なんで……儂は…儂らは…捨てられなければならなかったのか…』 その声は、もはや化け物のものではなかった。ただの、弱々しい老婆の声だ。 『儂らの犠牲によって……村が町へ発展したのは……分かります……』 『じゃが……生きている人たちは……儂たちという犠牲者を忘れてしまった……』 『どうして……!どうして……!儂らは……供養してくれれば……こんな怒りに囚われずに済んだのに……』 堰を切ったように溢れ出した言葉は、やがて、声にならない慟哭へと変わり、山姥はその場に崩れ落ちるように膝をついた。 (この人たちは……姥捨てそのものを、仕方ないと受け入れていたのか……。ただ、忘れられることが……供養されないことが、これほどの怒りに……) 俺は、静かに山姥の前まで歩み寄り、彼女と同じように、その場に膝をついた。 そして、泥にまみれ、骨張ったその手を、俺は両手で、そっと握った。 氷のように冷たい手に、俺の体温が、ゆっくりと伝わっていく。 「あなたたちを……忘れたのは、俺たち生きてる人間の罪だ。恨む気持ちは……少し分かる」 「動けなくなったら、捨てられるなんて辛かったよな……」 俺の言葉に、山姥は顔を覆い、さらに激しく泣きじゃくった。 『うぅぅぅぅぅ……!!!!!』 「だからさ、俺があなたたちの事を、町のみんなが思い出せるようにする」 俺は、握った手に、さらに強く力を込めた。 「時間はかかるけど……俺が、この町を変えるから、信じて欲しい」 しばらく泣き続けた後、山姥は、震える声で、俺に問いかけた。 その瞳は、初めて、俺という人間を、まっすぐに見ていた。 『お前さんは……儂たちの気持ちが分かるのか……?』 「完全に分かるわけじゃない…なんたっ
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第五十四話:黒い木箱

「なん……ですって……?」 かろうじて、声が漏れた。 目の前の老婆が、今、何と言った? 俺の思考が、目の前の現実についていけない。 『……儂らはあの娘を殺してはおらぬ』 『あの娘の亡骸へ憑依し、百貌様へ取られないようにしたつもりだったが、結局、あの娘は百貌様へ奪われてしまった』 ……憑依、したのは……百貌様から、守るため……? 頭の中で、あの夜の記憶が、全く違う意味を持って再生される。 俺の首を締め上げた、あの異常な力。あれは、俺を殺すためではなく、雪峰の亡骸を「渡さない」という、必死の抵抗だったのか? 『……儂の中の誰かにも、あのくらいの孫がいたからの…その名残りか、理性が無い状態でも、あの娘を守ろうとしたようじゃ』 その言葉に、胸を抉られるような、どうしようもない悲しみがこみ上げてきた。 この人たちは、化け物なんかじゃない。ただの、孫を想う、祖母だったのか。 じゃあ、雪峰を殺したのは……百貌様ということか? 俺の思考が、ようやく一つの結論にたどり着く。そうだ、元凶は山の神だ。この人たちも、雪峰も、全て……。 「じゃあ…百貌様が…!」 だが、その結論すらも、老婆は、静かに否定した。 『……それも、ちと違う。今の百貌様はな、猛毒を呑んだお方じゃ。毒に狂い、もはや善悪の区別もつかぬ』 猛毒……? 『あの娘を殺したのは、百貌様ではない。……百貌様が、その身のうちに抱え込んでしまった、猛毒そのもの……あの黒い木箱から漏れ出した、おぞましい呪いじゃよ』 俺の思考は、今度こそ、完全に停止した。 山姥が、犯人じゃない。 山の神も、直接の犯人じゃない。 雪峰を殺したのは、神をも狂わせる、「黒い木箱の呪い」? 黒い木箱…って、なんだ? 俺は、一体、何と戦おうとしているんだ……? 「……その、黒い木箱っていうのは……一体、何なんですか?」 俺は、震える声で、全ての元凶について尋ねた。 『儂らが姥捨てに合う、数十年前。まだ儂らが子供だった頃に、鳴神村から、神へと捧げられたものじゃと聞いた』 鳴神村……確か今の神鳴町の、過去の名前。 『じゃが、その当時に残されていた手記によれば……それを捧げてから、神は狂った、とされておる』 ──神が、狂った。 その言葉が、雷のよう
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第五十五話:燈子に起きた悲劇

 ――翌日。 俺はまた、神鳴山を訪れていた。 理由はひとつしかない。あの夜、ようやく理性を取り戻し、そして静かに消えていった山姥たちへの手向けだ。 山の斜面にしゃがみ込み、それなりの大きさの石をひとつ、またひとつと積み重ねていく。形ばかりの、粗末な墓だった。けど、何もしないままではいられなかった。せめて、ここに確かにいたのだと、誰かが覚えていたのだと、そう示すものが欲しかった。 傍らに添えた花は、山の空気の中でひっそりと揺れている。俺は麓から汲んできた水をバケツごと持ち上げ、積み上げた石の上へ、静かにかけた。冷たい水が石肌を伝い、土を濃い色に変えていく。 こうでもしなければ、あの人たちはあまりにも報われない。そんな思いが、胸の奥で重たく沈んでいた。「黒い木箱……。あなたたちが言ってたそれを、まずは何とかしないといけなくなったよ」 声に出してみても、事態の異様さは少しも薄れなかった。 黒い木箱は持ち去られた。 そう、あの老婆は言っていた。 この山にわざわざ足を踏み入れるような物好きなんて、そう多くはない。少なくとも、俺が知る限りではほとんどいないはずだ。だとしたら、一体誰が持ち去った? この町の人間なのか。それとも、たまたま外から来た誰かだったのか。 考えれば考えるほど、答えの出ない問いばかりが増えていく。思考がまた、嫌なループへ落ちかけた。 俺は小さく息を吐いて、それを無理やり振り払う。いま考えるべきことは、そこじゃない。そう自分に言い聞かせながら、その場にしゃがみ込み、作ったばかりの墓石へ静かに手を合わせた。「ごめんな。こんなものしか出来なくて」 自分の声が、思っていたよりずっと小さく、弱々しく響く。「でも、あなたたちが少しでも安らかに眠れるように祈るよ」 山は何も答えなかった。 ただ、乾いた風だけが吹き抜けて、供えた花の花弁をかすかに震わせた。 * ――山を降り、鳥居をくぐる。 俺は周囲を素早く見回し、誰にも見られていないことを確かめてから、何食わぬ顔で参道を外れた。 そのまま少し進んだところで、ざわついた人だかりが目に入る。「ま、まさか……山に入ったのか!?」「だから罰が下ったのよ!」「だが、山に入った以上……儂らにも何か起きるやもしれん……」 怯えと興奮がないまぜになった声が、あちこちから飛び交っていた。
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第五十六話:見ただけでも呪われる

 静寂という名の絶望が、俺たちを支配していた。  そっと置いた俺の手の下で、親友の肩が微かに震えている。それだけが、智哉がまだ石になってしまったわけではないことの、唯一の証明だった。  無機質な心電図の電子音だけが、まるで止まってしまった時を無理やり進ませる秒針のように、冷たく、正確に、響き続けている。 「……智哉」  喉に張り付いた声を、なんとか絞り出す。 「燈子に……なにがあったんだ?」  自分の声なのに、どこか遠くで鳴っているように現実感がない。いっそ、このまま悪い夢であってくれと、心のどこかでまだ願っていた。だが、目の前の光景が、ガラスの向こうの親友の妹が、それが叶わぬ祈りだと突きつけてくる。  何が起きたのか、知らなければならない。目を逸らすことは、もう許されない。 「わ、わかんねぇ……」  ようやく聞こえた智哉の声は、ひび割れたガラスみたいにか細く、頼りなかった。虚ろな瞳はガラスの向こう側を彷徨い、どこにも焦点を結ばない。 「わかんない…?  様子が普段と違ったりはしなかったのか?」  言葉の一つ一つを、薄氷を踏むように慎重に選ぶ。今のこいつに、ほんの少しでも追い打ちになるようなことは言いたくなかった。 「ああ……全くいつもと同じ様子だった。朝だって、普通に『行ってきます』って…。……それなのに…っ」  言葉尻が、嗚咽に変わる。再び震えだした肩を、俺はもう一度、強く握りしめた。それ以外に、かけてやれる言葉が見つからない。 (燈子……)  視線をガラスの向こうに戻す。  無数のチューブに繋がれ、痛々しい包帯で巻かれた小さな身体。  数日前、海の家ではしゃいでいた、あの笑顔が脳裏をよぎった。カレーを頬張り、少し焼けた肌で無邪気に笑っていた、かけがえのない思い出。その眩しい記憶が、目の前の残酷な現実とのコントラストで、胸を鋭く抉っていく。  こんなことになるなんて、誰が想像できただろう。  心電図の音だけが、俺たちの間の重苦しい沈黙を埋めていた。  どれほどの時間が経っただろうか。十数分が、まるで数時間にも感じられた、その時だった。  コン、コン。  静寂に慣れた耳に、控えめなノックの音がやけに大きく響いた。  放心状態の智哉は反応しない。俺は壁に寄りかからせていた重い身体を起こし、ぎこちない足取りで扉へと向かった
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