その後、俺は穂乃果を家まで送り届けた。 本人は最後まで「大丈夫」と言い張っていたが、どう見ても大丈夫ではなかった。歩きながら何度も目を擦っていたし、玄関先で別れる時には、返事の語尾が半分眠りに溶けていた。 それにも関わらず穂乃果は、祖父の書斎から当時の新聞をいくつも引っ張り出してきて、俺に渡してくれた。 「古いから、破かないようにね」 そう念を押す声だけは、妙にしっかりしていた。 そして現在。 俺は自室の机に向かい、借り受けた新聞を一枚ずつ広げている。 貴重な二十年前の新聞だ。紙は黄ばんでいて、端は少し脆くなっている。印刷の色も薄れかけているが、文字はまだ読めた。 古い紙の匂いが、部屋にじわりと広がる。 スマホで検索すれば一瞬で済むようなものとは違う。指先で紙をめくり、日付を追い、見出しを拾っていく作業は、妙に時間がかかった。 俺は一月、二月、三月と、順番に新聞を確認していく。 地方欄。事故。事件。小さな町の行事。商店街の特売。どこかの小学校の運動会。知らない誰かの暮らしの断片が、薄い紙の上にまだ残っている。 確か、あのあたりの地区の名前は――。 「|稲穂町《いなほまち》……だったか」 小さく呟きながら、記事の中にその地名を探す。 今は田んぼばかりの場所だ。けれど、古い記事の中に出てくる稲穂町は、俺が知っている景色とは少し違う。 田園の中を、線路が通っている。 夕方になると、電車の窓から金色に揺れる稲穂が見えたらしい。地元の人間にとっては、ありふれた景色で、同時に少しだけ誇らしい景色だったのだろう。 記事の端に載った小さな写真には、線路脇に広がる田んぼが写っていた。 夕日を反射した水田。 細い線路。 遠くの山。 そこに、今の自販機はない。 当たり前だ。 けれど、そう思った瞬間、昨日の白い光が脳裏に浮かんだ。 女が立っていた場所。 濡れた足音。 指輪を返して、という声。 俺は新聞をめくる手を早めた。 四月、五月、六月。 そして、七月。 地方欄の隅に、その記事はあった。 「……これだ」 見出しは大きくない。 けれど、そこには確かに人身事故の記載がある。 稲穂町。旧線路付近。若い女性が列車にはねられ死亡。 俺は記事の下にある記者名へ視
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