睡蓮が意識を取り戻した。虚ろな瞳で木蓮を見つめたあの瞬間から、病院はさらに慌ただしくなった。本来ならば、睡蓮がこれまで妊婦健診に通っていたクリニックでの出産になるはずだった。しかし、昏睡状態であったこと、そして一刻を争う事態により、県立中央病院での緊急出産となった。 睡蓮の命が戻った喜びも束の間、医師に呼ばれ、木蓮をはじめとする親族が診察室に集められた。「ただ一つ気掛かりなことがあります」と、医師は重い口調で切り出した。パソコンのモニターには、エコー写真と心電図の波形が表示されていた。医師は視線をデスクに落とし、深い溜め息を吐いた。そして、意を決したように顔を上げ、「お腹の赤ちゃんの心拍数が確認出来ません」と告げた。 両親は息を呑み、母親は膝から崩れ落ち、父親は顔を覆って嗚咽を漏らした。その衝撃の告知に、木蓮は声を失った。胸の奥で何かが砕ける音がしたかのようだったが、彼女は目の端で将暉の横顔を見逃さなかった。そこには、ほんの一瞬、安堵の表情が浮かんでいた。 将暉は睡蓮を愛していた。木蓮との結婚は、睡蓮の赤ん坊を守るための形式的なものだったが、彼の心は常に睡蓮にあった。しかし、赤ん坊の存在は彼にとって異次元の出来事だった。木蓮との間にも子供がいる将暉にとって、睡蓮の赤ん坊は複雑な重荷だったのかもしれない。むしろ、邪魔な存在だと感じていた。その微妙な表情が、木蓮の冷めた視線に捉えられた瞬間、彼女の心に新たな棘が刺さった。
Terakhir Diperbarui : 2025-09-20 Baca selengkapnya