今の光雅は、真琴の顔を見るたび、どういうわけか紗友里のことばかりを思い出してしまう。あの夜、彼女との間に起きた出来事が頭をよぎるからだ。だからといって、紗友里との未来を考えているわけでも、責任を取るつもりも毛頭なかった。仕事の指示を受けながら、真琴は光雅の胸中にも何か抱え込んでいるものがあるのではないかと、かすかに察していた。近頃は、身の回りの誰も彼もが何かしらの事情を抱えているように思えてならない。仕事の話を終え、いくつか用件を伝えると、光雅は部屋をあとにした。エレベーターホールまで見送って戻ると、紗友里から無事に帰宅したとメッセージが届く。LINEでしばらくやり取りを交わし、真琴は着替えを手にしてバスルームへ向かった。本人はまだ自覚していないが、渚に薬を盛られ、信行とここまで拗れてしまったにもかかわらず、近頃の真琴の心はひどく穏やかだった。確かな拠り所を感じている。ここ2年のどの時期よりも、静かな安らぎがあった。*翌日、病院。真琴が付き添いに来ないと知るや、信行はもはや入院している気も起きず、頭の包帯を外して早々に退院手続きを済ませてしまった。祐斗に届けさせたスーツとコートに身を包んだものの、信行はそのまま病院を出ようとはせず、廊下の突き当たりにある病室へ足を向けた。成美の病室だ。ドアはわずかに隙間を開けていた。成美はベッドで休むでもなく、入り口に背を向けて窓の前に佇んでいる。いつもの車椅子に腰掛けていた。スラックスのポケットに両手を突っ込んだまま、信行はその物寂しげな背中をしばらく見つめ、それから軽くドアをノックした。窓辺の成美はハッと我に返り、慌てて車椅子の向きを変える。「どうぞ」声をかけながら、脇のティッシュ箱から数枚引き抜き、急いで涙を拭った。泣いていたようだ。病室に姿を見せたのが信行だと気づくと、成美はあからさまに驚いた表情を見せた。だが次の瞬間には、パッと明るい笑みを顔いっぱいに広げて声をかけてくる。「来てくれたの」笑いかけてくる成美の目は、痛々しいほど真っ赤に潤んでいた。赤く腫れた目元と、無理に作った明るい笑顔に、信行の胸がわずかに揺れた。けれど、すぐに平静を取り戻す。病室へ足を踏み入れ、信行は声をかけた。「少しは落ち着いたか
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