七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した의 모든 챕터: 챕터 1201 - 챕터 1210

1235 챕터

第1201話

「それが、近藤ミキっていう女優さんなんです。しかも、集めてた男の子たち、全員二十歳そこそこのピチピチな若い子ばっかりで!」芸能界に疎い張本社長は、「へえ」と興味なさそうにグラスを傾けた。――その瞬間。パキィッ!!鋭い破裂音が部屋に響いた。澪士の右手に握られていた分厚いクリスタルグラスが、粉々に砕け散っていたのだ。鋭利なガラスの破片が指の腹に深く食い込み、滲み出した赤い血が琥珀色の酒と混ざり合う。それが真っ白なテーブルクロスに滴り落ち、不気味な暗い染みを作った。「きゃっ!?」|隣にいた女が短い悲鳴を上げ、慌てておしぼりに手を伸ばした。「に、二階堂社長!動かないでください、今私が……!」「……触るな」澪士は無造作に彼女の手を払いのけた。決して乱暴な動作ではなかったが、そこには一切の拒絶を許さない、背筋が凍るような冷気が満ちていた。彼は胸ポケットからシルクのハンカチを抜き取ると、指先にこびりついた血と酒を、ひどくゆっくりとした動作で拭き取り始めた。視線すら上げない。まるで、たった今素手でグラスを握り潰したのが自分ではないかのように。やがて、指先から鋭い痛みが遅れて脳に届いたとき、澪士はほんのわずかに――周囲には気づかれないほど微かに、眉根を寄せた。「に、二階堂社長……大丈夫ですか?」さすがの張本社長も血の気を引かせて固まっていた。「……ええ、大したことはありません」澪士は静かに立ち上がった。仕立ての良いスラックスの折り目が、ナイフのように鋭く影を落とす。先ほどの、ほんの一瞬だけ見せたどす黒い失態は、すでに深淵のような瞳の奥へと完全に押し込められていた。彼の声はいつも通り平坦で、口元には慣れた笑みすら張り付いている。「少し、急用を思い出しまして。……お先に失礼します」隣のVIPルームのドアはわずかに開いたままで、中から若く、媚びるような男たちの声が漏れ聞こえてきた。「ミキ先輩、クランクインしたら絶対俺のこと贔屓してくださいね。分からないことだらけなんで、手取り足取り教えてくださいよ」澪士の瞳が、さらに昏く沈み込む。ガラスの破片が食い込んだ指先の傷が、じくり、と熱を持って疼いた。一方、その頃。若手俳優たちのあまりの熱量に、ミキはすっかり圧倒されていた。元々そ
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第1202話

暗闇の中、ミキは目を丸くした。驚きのあまり、酔いなど一瞬で吹き飛んでしまった。「ちょっと、待って……っ」理性を失いかけている彼をどうにか正気に戻そうと、ミキは必死に声を絞り出した。しかし、澪士の呼吸はさらに荒く、切羽詰まったものに変わる。「……もう、散々待った。これ以上は、待てない」ミキは完全に混乱していた。待った?何を?この人は一体何を言っているの?澪士はわずかに顔を傾け、緊張で微かに震えるミキの首筋へと鼻先を擦り寄せた。灼熱の吐息が肌を焼き、たまらず首をすくめる。次の瞬間、脈打つ頸動脈に唇を落としながら、彼は掠れた、ひどく脆い声で言った。「……あいつと完全に縁を切る気がないなら、いっそ俺が『間男』になっても構わない」ミキは全身を強張らせた。その言葉が、まるで時限爆弾のように耳元で炸裂したからだ。「……ま、おとこって、何を……」最後まで言い終わる前に、澪士の手が彼女の顎をぐいっと上向かせ、そのまま乱暴に唇を塞いできた。「んっ……!?」抗議の言葉は、熱い舌に強引にこじ開けられ、すべて飲み込まれてしまう。唇の隙間から、甘く、くぐもった声だけが微かに漏れた。息をする隙すら与えられないほどの、深く、激しい口づけ。澪士はまるで飢えた獣のように、彼女の唇を貪り、執拗に舌を絡ませ、どこまでも深く侵入してくる。二人とも完全に息が続かなくなるまで、その長く濃厚なキスは終わらなかった。ようやく唇が離れた後も、澪士は彼女の額に自分の額を押し当てたまま、荒い息を吐き出していた。赤く腫れ上がったミキの唇に、彼の熱い呼気がかかる。その声はひどく掠れていて、隠しきれない独占欲でドロドロに濁っていた。「だから……他の男になんか、ちょっかい出すな」「……いいな?」ミキの頭の中は、ショート寸前だった。必死に、たった今起きた出来事を処理しようとフル回転する。彼はいきなり意味不明なことを言い出し。さらには、強引にキスをしてきて。『間男でも構わない』とまで言った。……絶対に、酔っ払っている。でなければ、普段あれほど冷静で理性的な彼が、こんな醜態を晒すはずがないのだ。知り合ってから今まで、彼がここまで取り乱した姿など一度も見たことがない。もしかして……小説みたいに、誰かに媚薬でも盛
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第1203話

だが、地面に崩れ落ちるより早く、澪士の腕が再び彼女の腰を強く抱き留めた。服の生地越しに伝わってくる彼の掌の熱が、火傷しそうなほど熱い。ミキはどうにか呼吸を整え、自らの足で立ち上がった。「……彼らに、挨拶してくるわ」いくらなんでも、共演者たちを放り出して無断で帰るわけにはいかない。しかし、ミキをあの若きオスたちの群れに戻すことなど、今の澪士が許すはずもなかった。「俺の秘書に処理させる」彼女が自分以外の男に愛想を振りまくことすら、今の彼には我慢ならないのだ。「え、じゃあ私は……?」「俺と一緒に来るんだ」有無を言わさぬ口調でミキの手首を掴むと、彼は個室のドアを開け、強引に彼女を引っ張って歩き出した。「ちょっと待って、バッグがまだ部屋に……!」「それも秘書に回収させる」ミキはそのまま店から連れ出され、待機していた彼の車に押し込まれた。ルームミラー越しに後部座席を見た専属運転手は、一瞬だけ目を瞬かせた。ああ、近藤さんか。……なるほど、なら社長のこの異常なご乱心も納得だ。運転手はすべてを悟り、何事もなかったかのように前を向き直った。やがて秘書がミキのバッグを届けに来ると、車は静かに夜の街へと走り出した。深夜の幹線道路はガラ空きにもかかわらず、車はひどくゆっくりと、信じられないほどの安全運転で進んでいく。先日、澪士に「車を飛ばしすぎだ」と理不尽に八つ当たりされた運転手なりの、涙ぐましい配慮だった。しかし、後部座席に流れる空気はひどく気まずいものだった。暗闇という隠れ蓑を失った今、ミキは緊張でどうにかなってしまいそうだった。当然、隣に座る澪士も普段の完璧な姿からは程遠い。ジャケットは羽織っておらず、ダークグレーのシャツ一枚の姿だが――その胸元には、くっきりと無数のシワが刻まれていた。先ほど暗い個室で、ミキが緊張と快感のあまり、無意識に彼の胸ぐらを強く掴んでしまった痕跡だった。ミキは膝の上で指をせわしなく絡ませながら、ショートした頭を必死に整理しようとしていた。彼が夜遊びに慣れていることは知っていた。だが、まさか『他人の妻との不倫ゲーム』にまで手を出すほど性癖がこじれているとは思いもしなかった。なるほど、彼がよく自嘲気味に「俺は決していい人間じゃない」と言っていたのは、こう
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第1204話

特に、あのひどく雄めいた眼差し。あれはまるで、暗闇の中から自身の獲物をじっくりと品定めする『飢えた狼』の目、そのものだった――この甘いはずのケーキを、ミキは文字通り『生きた心地がしない』まま味わった。頭の中はフル回転で、「どうすれば、この飢えた狼の牙から無事に逃げ切れるのか」という脱出ルートの計算ばかりを弾き出している。やがてミキが最後の一口を飲み込んだのを見届けると、澪士はテーブルを軽く指先で叩きながら、ひどくゆっくりとした口調で言った。「……もう遅い。上の部屋に戻って休め」ミキはあまりの緊張から、その『休め』という言葉を、『俺と一緒に部屋に戻って休もう』という誘いだと完全に勘違いしてしまった。「ま、まだ全然早いから!私、結構夜更かしするタイプだし!」とにかく時間稼ぎをしなければと、彼女はすっとんきょうな声で即座に否定した。澪士は彼女のその見え透いた勘違いをあっさりと見透かし、喉の奥を鳴らして低く笑った。その笑い声には、意地悪で意味深な響きがたっぷりと含まれていた。彼はわずかに上体を乗り出し、テーブルの縁に肘をつく。そして、逃げ場をなくすようにミキの顔を真っ直ぐにロックオンした。「……そうか」彼はわざとらしく言葉を区切り、瞳の奥に薄い笑みを浮かべた。「それなら……このまま、ここで『別のこと』でもして遊ぶか?」「いいいいいいえ結構ですっ!」ミキは何かの呪いを振り払うかのように、ブンブンと猛烈な勢いで首を横に振った。耳元の後れ毛がバサバサと揺れる。「急に……すっごく遅い時間だって気がしてきたから、帰ります!」澪士の口元の笑みが、さらに深くなった。「なら、さっさと戻れ。エレベーターホールまで送る」「……え?」ミキはピタリと動きを止め、怪訝な顔で彼を見た。えっ……?部屋まで、ついてくる気じゃないの……?「なんだ? 一緒に上に行けなくて、そんなに残念か?」澪士がわざとからかうように目を細める。「ぜっんぜん!!あなたの完全な目の錯覚よ!」ミキは真っ赤になって高速で否定すると、ひったくるようにバッグを掴み、逃げるようにエレベーターホールへと競歩で向かった。澪士は言葉通り、本当にエレベーターの前まで彼女を見送っただけで、それ以上ついてこようとはしなかった。ただ、閉ま
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第1205話

もっと前に枯らしてしまった鉢は、土だけを残した空っぽのまま、窓辺に虚しく並んでいる。まるで、完全に取り返しのつかなくなった彼とミキの関係を嘲笑うかのように。白彦は今日一日、まともに何も口にしていなかった。『雁園』に着くと、キッチンに立ち、自分で豚骨ラーメンを作ろうとした。けれど、どう工夫してもミキが作ってくれたあの温かい味にはならない。電話をかけて、「どうやって作っていたんだ?」と彼女に聞きたかった。だが、スマホを手に取っても、発信ボタンを押す勇気が出ない。出てもらえなかったら。いや、それ以前に着信拒否に入れられていたら。結局、白彦は自分で作った味気ないラーメンを無理やりすすった。ひどく不味くて、喉を通らない。何か飲み物はないかと、冷蔵庫を開ける。長く誰も住んでいないせいで、中身は悲しくなるほど空っぽだった。唯一残っていたのは、ペットボトルのリンゴジュース。ミキが好きだった飲み物だ。「ダイエットにいいの」と笑って、以前は必ず家に常備されていた。だが、彼女がここへ来なくなって久しい。残された最後の一本を手に取ると、とっくに賞味期限が切れていた。——まるで、俺と彼女の夫婦としての縁みたいだ。とうの昔に賞味期限が切れていて、もう二度と味わうことすら許されない。白彦は自嘲気味に笑うと、ジュースを静かに冷蔵庫へ戻し、スマホを取り出した。「……飲みに付き合ってくれ」電話の相手は、友人の健。夜も遅い時間だったが、健は最近の白彦がひどく荒れているのを知っていたため、二つ返事で引き受けてくれた。三十分後。行きつけのバーで落ち合った。合流するなり、白彦は尋常ではないペースで痛飲した。とにかくアルコール度数の高い強い酒ばかりを喉に流し込む。健が止めても、全く聞く耳を持たなかった。「お前、退院したばかりだろ。そんな無茶な飲み方したら、また体壊すぞ」健は呆れたように忠告した。だが、白彦は意に介さない。ただ、泥酔したかった。意識を飛ばしてしまえば、この胸を苛む激痛も少しは和らぐような気がしたのだ。目を閉じれば、ミキの顔ばかりが浮かんでくる。「……俺が今からあいつを追いかけたら、まだチャンスはあると思うか?」すがるような白彦の問いに、健は深くため息をつい
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第1206話

「どうだった? 白彦くんはどこにいるって?」健が何と言ったのかは分からないが、電話を切った娘の顔面が蒼白になっているのを見て、母親の蓉子が尋ねた。璃々子は今にも泣き出しそうな赤い目をして、母親にすがりついた。「お母さん……!白彦兄さん、電話に出てくれない! 私のこと無視してるの!ここ数日、何度かけても出てくれないし、メッセージにも返信がない……! 私、捨てられたのかな……!?」「そんなことないわよ、璃々子。白彦くんはきっと仕事が忙しいだけよ」蓉子は慌てて娘を抱きしめ、背中を撫でた。「今回は違うの……!今までこんなこと、一度だってなかったのに……!」璃々子の心臓は、恐怖で嫌な音を立てていた。「そんなに自分を追い詰めないの。あの人が相沢葵のことを覚えている限り、あなたを見捨てるはずがないじゃない」蓉子は比較的楽観的だったが、璃々子の胸のざわめきは収まらない。焦れば焦るほど、その不安は「ミキ」という存在へのどす黒い憎悪へと変わっていった。「全部……ミキのせいだわ。あの女が帰ってきさえしなければ……!」「そうね! あの女が現れるたびに、白彦くんのあなたへの態度が冷たくなるのよ。いっそ、突然死んでくれればいいのに。そうすれば、財産分与で由木家の金をかすめ取られることもなくなるしね」蓉子が毒づいたその言葉に、璃々子の肩がビクッと跳ねた。——そうだ。ミキが突然死んでくれれば、すべては丸く収まるのだ。......撮影前のアクション合宿が始まると、ミキのスケジュールは途端に忙殺された。役作りのために、学ぶべきことが山のようにあったのだ。今回彼女が演じるのは、一介の女将軍から『女帝』へと登り詰める、圧倒的なヒロイン。当然、馬を駆り、戦場を駆け抜ける大立ち回りのシーンが大量にある。監督は壮大なスケールとリアルな映像美にこだわるタイプで、なんと全編フル・ロケーション撮影。そのため、主要キャストは全員『乗馬』と『弓術』の習得を義務付けられていた。さらにミキは主演の女将軍役として、本格的な『槍術』の型まで叩き込まれるハメに。みっちり三日間の訓練を終えた頃には、腕も脚もバキバキの筋肉痛で、自分の体ではないような悲鳴を上げていた。それでもミキは弱音を一切吐かなかった。どんなにキツくても泥臭く
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第1207話

個室にいたキャストやスタッフが一斉に立ち上がり、出迎える。中でも一番気合が入っていたのはルナだ。二人の姿が見えるや否や、誰よりも早くすり寄り、甘い声を上げた。「監督、お疲れ様ですぅ。そして……社長様、初めまして」しかし――ミキは入り口に立つその男の顔を見た瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てるのを感じた。嘘でしょ……!?新しい大口のスポンサー。それはなんと、澪士だったのだ。これは単なる偶然?それとも……意図的なもの?ミキには分からない。ただ、胸の奥で何とも言えない不穏なざわめきが広がっていく。あの日、ホテルの部屋の前で澪士に危険な言葉を囁かれて以来、二人は一度も顔を合わせていなかった。連絡も取っていない。もともと頻繁に連絡を取り合う仲でもなかったし、ミキ自身、過酷なアクション訓練に忙殺される中で、あの夜の出来事を記憶の底に押し込めようとしていた。あれはきっと、酔った勢いの戯言だ。真に受けるようなことじゃない。そう自分に言い聞かせていたのに。こうして澪士の姿を視界に捉えた瞬間、封じ込めていた焦燥と動揺が、一気に蘇ってしまった。部屋に入ってきた澪士のもとへ、共演者やスタッフたちが次々と挨拶に向かう。だが、ミキだけは足がすくんだようにその場から動けなかった。澪士は余裕のある優雅な所作で、一人一人に軽く頷いて応えている。だが、その鋭い視線がテーブルの末席をなぞり――ごく自然に、ミキの姿でピタリと止まった。彼は薄く形の良い唇に意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。「……彼女が、今回のヒロインですか」監督が揉み手をするように、満面の笑みで頷いた。「ええ、その通りです!ほらミキくん、二階堂社長にご挨拶を」名指しされては、無視するわけにもいかない。ミキは渋々立ち上がり、努めて事務的な声を出した。「……二階堂社長、初めまして。よろしくお願いいたします」澪士の漆黒の瞳が、ミキの顔をじっと見つめる。ほんの数秒間の沈黙の後、彼はポツリと呟いた。「――随分と、綺麗な顔をしている」決して大きな声ではなかったが、隣の席の人間にははっきりと聞こえるボリュームだった。ドクンッ!!ミキの心臓が激しく跳ね、頬が一気にカッと熱くなる。ただの社交辞令なのか。それ
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第1208話

背中には氷のように冷たい壁。けれど正面からは、彼の狂おしいほど熱い体温が押し付けられている。極端な温度差と、圧倒的なオスの気配に当てられ、ミキの膝から力が抜けそうになる。深く、深く、息継ぎすら許されないほど長い口付け。酸欠で胸が苦しくなり、ミキの目が潤んだ頃、ようやく彼はわずかに唇を離した。彼の高い鼻梁がミキの鼻先に触れ、火傷しそうなほど熱い吐息が唇を掠める。「……どうして、俺を避ける?」低く掠れた声には、不機嫌さと、微かな愉悦が混じっていた。ミキは肩で息をしながら、目尻を赤く染めて彼を睨み返す。無意識に彼のスーツの襟をギュッと握りしめ、言い返そうとした。だが、その瞬間、先ほど彼の隣で媚びを売っていたルナの顔が脳裏を過る。「……別に、避けてなんかない」口から出たのは、自分でも驚くほど拗ねたような、くぐもった声だった。澪士は喉の奥で低く笑うと、濡れたミキの唇の端を親指で優しくなぞった。暗闇の中でもはっきりと分かる、獲物を逃さない捕食者のような深く熱い眼差し。動揺して見つめ返すミキに、彼が再び顔を近づける。また、キスされる……!直感したミキは、咄嗟に顔を背けた。彼の唇がミキの頬を掠め、その熱く重い吐息が、無防備になった彼女の耳元へと降り注ぐ。「……これで『避けてない』って?」からかうような笑い声。「……っ」キスを避けるのと、あなた自身を避けるのは全く別の問題だ。そう反論して彼を突き飛ばそうとした、その時。澪士の唇が、ミキの耳たぶを甘く噛みしめた。「んっ……!?」歯を立てるか立てないかの絶妙な力加減で甘噛みされ、温かい吐息が耳の奥へと吹き込まれる。ゾクッ!!尾てい骨から脳天へと、強烈な電流が駆け抜けた。全身の骨がドロドロに溶けそうになり、指の先まで痙攣するような快感。ミキは金縛りに遭ったように、その場から一歩も動けなくなってしまった。頭の中は真っ白になり、ぐわんぐわんと耳鳴りがしている。だめだ。おかしい。何もかもが、狂い始めている。その時、廊下の外から聞き覚えのある女の声が近づいてきた。「おかしいなぁ。二階堂社長、どこ行っちゃったんだろ?ボーイさんはこっちに歩いてったって言ってたのに……」ルナだ。澪士を探しに来たのだ。ミキ
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第1209話

そう言い捨てるや否や、澪士は再び深く唇を塞いできた。「んんっ……!」限界だった。恐怖と緊張、そして訳の分からない背徳感が入り交じり、ミキは無我夢中で腕を振り上げた。パァンッ!!暗い部屋の中に、甲高い破裂音が響く。決して全力ではなかったが、軽くもない一撃だった。澪士の顔が、わずかに横へ弾かれる。彼を叩いたミキの掌は火のように熱く、指先までがジンジンと痺れていた。あ……叩いた直後、ミキはすぐに後悔した。だが、素直に謝る気にはなれない。どう考えても彼がやりすぎたのだ。ミキは意地を張って彼を力いっぱい突き飛ばすと、まだガクガクと震える足に鞭を打ち、逃げるようにドアの鍵を開けて個室から飛び出した。澪士は、逃げていく彼女の背中を追わなかった。バタン、とドアが閉まる。一人残された暗闇の中で、彼は叩かれた頬の裏側を舌先でゆっくりと押し上げた。長い指が、熱を持った自分の頬をそっとなぞる。そこにはまだ、彼女の柔らかくて熱い掌の感触がくっきりと残っていた。澪士の漆黒の瞳が、底知れぬ欲望に沈んでいく。艶っぽい動きで喉仏を上下させると、彼は苛立ちとも歓喜ともつかない声で、低く呟いた。「……狂いそうだ」なぜ彼女の手は、あんなにも甘く、狂おしいほどにいい匂いがするのだろう。......澪士が個室に戻ってきたのは、食事会が完全にお開きになる直前だった。その表情にはすでに、先ほどの暗がりで見せたような熱は一切残っていない。いつもの冷淡で隙のない『二階堂社長』の顔に戻っていた。一行がレストランの外へ出ると、監督が手際よくそれぞれの帰り道の手配を始める。「監督、オレとミキさんは同じホテルなので、オレが送っていきますよ」三番手の若手俳優、江口航(えぐち わたる)が爽やかに申し出た。「おっ、そうか。じゃあ頼むな」監督が快諾し、次にルナの方を向いて口を開きかけた、その時。ルナが食い気味に、甘ったるい声で澪士にすり寄った。「しゃちょぉ、もしよかったら、私を送ってくれませんかぁ?」澪士は口元に薄い笑みを浮かべてはいたが、その眼差しは凍りつくほど冷たかった。「……君はどこに泊まっているんだ。方向が違うと困るからね」「もう、二階堂社長ったら。社長が帰る場所が、私の帰る場所ですよぉ
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第1210話

ホテルに戻ったミキは、すぐにシャワーを浴び直した。汗をかいたわけではないし、個室でタバコの煙を浴びたわけでもない。それでも、肌にべっとりと染み付いてしまったような気がしたのだ。彼女の心をどうしようもなく乱す、あの危険な匂いが。澪士の、あの冷たくて熱い匂いが。彼が耳元で囁いた言葉や、乱暴に奪われた唇の感触を思い出すたび、顔から火が出そうになる。「……ちょっと、落ち着きなさいよ、私!」ミキは両手で真っ赤になった頬をパシッと叩いた。やっと元夫と縁を切って、法的に完全に独身になったばかりなのだ。もう二度と、男の甘い毒牙にはかからないと誓ったはずじゃないか!バスタブに張ったお湯の中に、ゆっくりと体を沈める。水の中に潜って、この熱くなりすぎた頭と体を冷まそうとした。しかし、息が続かなくなって水面から顔を出したその瞬間。心臓はやはり、狂ったように高鳴ったままだった。……ほんと、私どうかしてる……!その夜。結局一睡もできなかったミキは、翌日の乗馬訓練で集中力を欠き、あろうことか落馬してしまった。地面は訓練用の柔らかい砂地だったため大惨事にはならなかったが、ミキは肩を強く打ち付けてしまった。万が一のことがあってはいけないと、監督の指示で急遽病院へ検査を受けに行くことになった。レントゲン撮影を終え、待合室で結果を待っていた時のこと。ミキは、この世で一番会いたくない相手と遭遇してしまった。今日は偶然にも、白彦が術後の定期検診に訪れる日だったのだ。最初にミキの姿に気づいたのは、白彦の付き添いで来ていた秘書の美奈子だった。以前の彼女なら、ミキを見かけても見て見ぬフリをして、白彦には一言も報告しなかっただろう。だが、最近の社長が『元妻』に対してどういう感情を抱いているのか察してしまった以上、無視するわけにはいかなかった。美奈子は検査結果の受け取りも後回しにして、慌てて白彦に電話をかけた。「社長!検査科の待合室でミキさんをお見かけしました! どうやらお怪我をされているようです!」その報告を聞いた白彦は、血相を変えて飛んできた。焦燥と恐怖で顔を青ざめさせ、息を切らしながらミキのもとへ駆け寄る。「ミキ!怪我をしたのか!?どこを打った!?ひどいのか!?医者は何て言ってる!?」矢継ぎ早
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