七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した의 모든 챕터: 챕터 1211 - 챕터 1220

1235 챕터

第1211話

白彦は苦痛に顔を歪めている。打撲のせいか、熱湯を浴びたせいかは分からない。我に返った璃々子は、自分がしでかした事に青ざめ、パニックに陥った。「わ、わざとじゃないの……!白彦兄さん、大丈夫!?どこか怪我は……っ」泣きそうになりながらすがりつこうとする璃々子を、白彦は冷たく突き放した。ミキの視線が、白彦の腕を捉える。彼の腕には退院したばかりの痛々しい包帯が巻かれていたが、そこから再びじわじわと赤黒い血が滲み出していた。今の衝撃で、縫合したばかりの傷口が開いてしまったのだろう。それにしても――まさかあの白彦が、自分をかばって盾になるなんて。ミキは少しだけ驚いたが、すぐに心の底から冷え切った感情が湧き上がってきた。今さらこんな『身を呈した庇護』を見せられても、滑稽でしかない。「先生!誰かお医者様を!!」美奈子が慌てて医師を呼びに走る。璃々子は再び白彦の腕を引こうとした。「白彦兄さん、一緒に処置室に行きましょう!傷口から血が……っ!」「触るな!失せろ!!」白彦の怒声が、待合室に響き渡った。璃々子は信じられないというように目を見開き、ポロポロと大粒の涙をこぼした。「白彦、兄さん……?」「お前の顔など見たくもない!」白彦は一度たりとも璃々子と目を合わせようとしなかった。彼女の涙も、存在そのものも、完全に『無』として切り捨てている。その態度には、ミキでさえ少し驚いた。確かに今の彼は、以前の彼とは明らかに璃々子に対する態度が違う。だが、そんなことはミキにはどうでもいいことだ。彼女は興味なさげに視線を切ると、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。「……ミキ」背後から、白彦がすがるような声で呼び止める。「一緒に……傷の処置に、ついてきてくれないか?」その問いかけに、ミキは心底呆れ果てた。なんて唐突で、厚かましいお願いだろう。彼女はゆっくりと振り返り、軽蔑しきった冷たい瞳で彼を見据えた。「……どうして私が、あなたの傷の処置に付き合わなきゃいけないの?」「え……」「彼女が私を殴ろうとしたのは、あなたに原因があるから。あなたが私を庇ったのは、彼女が犯した罪の『尻拭い』をしただけ。……私は、あなたたち二人に借りなんて一ミリもないわ」ミキの言葉は、氷の刃のように冷酷だった。
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第1212話

えっ、とミキが状況を飲み込めずに固まっている間に。澪士は当然のような顔をして、ケーキの箱を片手に悠然と部屋の中へ入り込んでしまった。ドアの前にポツンと取り残されたミキの頭の中は、大混乱だ。ちょっと、なんで自分の部屋みたいに勝手に入ってんの!?「今日、馬から落ちて怪我をしたと聞いたが?」澪士は勝手にソファに腰を下ろすと、長い指で優雅にケーキの箱のリボンを解き始めた。その口調は、まるで天気でも尋ねるかのように淡々としている。『聞いた』?誰から?ルナからに決まってる!今日に限って、今まで合宿をサボりまくっていたルナが、わざわざ顔を出していたのだ。こんなに早く情報が耳に入るなんて、あの女以外に考えられない。しかも今日のルナは、これ見よがしに「社長様が〜」「二階堂さんが〜」と、いかに自分が彼と親密な関係であるかを周囲に自慢して回っていたのだ。そのせいでミキはイライラして集中力が切れ、落馬してしまったのだから。突き詰めて考えれば、今日ミキが怪我をしたのは、目の前で涼しい顔をしているこの男のせいなのだ!元凶から平然と怪我の心配をされ、ミキはムッとしてトゲのある声を出した。「……あんたのおかげで、死なずに済んだわ」その皮肉を聞いた澪士は、不機嫌になるどころか、片方の眉を面白そうに跳ね上げた。漆黒の瞳の奥で、微かな笑みが揺れる。「なら、うんと感謝してもらわないとな?」はぁ!?ミキは目を丸くして彼を睨んだ。自分のせいだという自覚ゼロどころか、恩着せがましく感謝を要求してくるなんて。どんだけ図太い神経してるのよ!これ以上言い合っても無駄だと悟ったミキは、彼の手元にあるケーキに視線を落とした。クランベリー味。ミキの一番好きなフレーバーだ。どうやら新作らしく、とても美味しそうに見える。……仕方ない。この美しいケーキに免じて、今は休戦にしてあげよう。ミキは大人しくソファに座ると、銀のフォークでケーキを一口すくって食べた。上品な甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、一日中鬱屈していた気分が、ふわりと晴れていく。ミキがケーキを食べている間も、澪士は帰る素振りすら見せなかった。それどころか、ローテーブルに置きっぱなしになっていたミキのカルテを勝手に手に取り、パラパラと眺め始めてい
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第1213話

澪士はゆっくりと視線を動かし、ミキの顔から、無防備な首筋へとねっとり這わせた。まるで、鋭いフックで肌を撫でられているかのような錯觉に陥る。「……俺に『食われる』のが、だよ」「!!?」た、助けて……っ!まただ!またこの男は、色気を撒き散らして私をからかっている!顔を真っ赤にしてフリーズしたミキを見て、澪士は心底面白そうに喉を鳴らした。「……なんだ、その期待に満ちた目は。言っておくが、俺は腕は売っても体は売らない主義だぞ。変な想像はするな」「…………っ」変な想像してるのは、どう考えてもそっちの方でしょ!!澪士は冗談を言っているような顔ではなかった。彼はごく自然な動作で、ワイシャツの袖をまくり始めた。長くて形の良い指先が、ゆっくりと袖口を折り返していく。スッと筋の通った、男らしい前腕があらわになる。その動作は酷く几帳面で、シワひとつ残さないほど丁寧だった。まるで、今から本当に『純粋なマッサージ』だけをして、それ以外は何もする気がないのだと証明するかのように。だが、ミキからすれば、その『真面目くさった態度』が逆にタチが悪かった。変に色気があって、無性に心臓を煽られる。両腕の袖をまくり終えた澪士が、ふと視線を上げてミキを見た。その唇の端には、うっすらと余裕の笑みが浮かんでいる。「……何を見惚れてる?早くうつ伏せになれよ」「…………」いつ私が頼んだって言うのよ。とは思いつつも、逆らうのも面倒で、ミキは大人しくソファにうつ伏せに寝転がった。澪士が彼女のすぐ隣に腰を下ろし、その大きな掌を、ミキの細く柔らかい腰にそっと添える。最初は力を入れず、ただ触れているだけ。服越しに、彼の手のひらの熱がジワジワと肌へ移ってくる。「……力、抜け」低く、甘くあやすような、それでいて絶対的な命令を含む声。「変にこわばると、痛いぞ」体温を帯びた彼の指の腹が、腰の最も疲労が溜まっている筋を、正確に、そして深く押し込んできた。「んっ……」反射的に小さなくぐもった声が漏れ、ミキの背中がビクッと跳ねる。澪士が喉の奥で低く笑った。彼の熱い吐息が、ミキの耳の後ろをくすぐる。「……痛いのか?」彼の指は止まらない。凝り固まった筋を親指でゆっくりと円を描くようにほぐしなが
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第1214話

顔を真っ赤にして怒鳴るミキ。実際のところ、彼女が蹴った力は大したことはなかった。澪士が完全に気を取られていて、無防備だっただけだ。床に尻餅をついた澪士だったが、なぜか怒るどころか、非常に機嫌が良さそうに喉の奥で笑っている。なんで蹴り飛ばされたのに、嬉しそうに笑ってんのよ……意味わかんない。気不味さと羞恥心から、ミキは慌てて彼を追い出そうとした。「も、もう遅いから!私、寝るからね!帰って!」これ以上彼と一緒にいたら、自分がどうにかなってしまいそうで怖かった。何が怖いのかは、自分でもよく分からないけれど。すると澪士は、床から優雅に立ち上がり、あっさりと引き下がった。「ああ、そうだな。今日はゆっくり休め」あまりにも素直な物分かりの良さに、ミキは逆に拍子抜けしてしまった。そんな彼女の顔を見て、澪士が意地悪そうに目を細める。「……なんだ? 本当は、俺に『泊まっていってほしい』のか?」「ばっ、誰がそんなことっ……!!」ミキが顔を真っ赤にしてクッションを投げつけようとすると、澪士はそれ以上からかうのをやめた。これ以上押せば、本当に彼女が爆発してしまうと分かっているからだ。今日のところは、彼女の『熱』に触れられただけで十分に満足だった。「おやすみ」甘い声でそう告げると、彼は本当にあっさりと部屋を出て行ってしまった。バタン、とドアが閉まる音が響く。……本当に、帰っちゃった。ミキはポツンと閉まったドアを見つめた後。「~~~~っ!!」クッションに顔を埋め、ジタバタと足をバタつかせながら、くぐもった声で叫んだ。「……っ、なんで私、あいつが帰って『ちょっとガッカリしてる』のよ! 馬鹿じゃないの!!」深町雲斗が北里市の空港に到着したのは、深夜のことだった。澪士は自ら彼を迎えに出向いていた。車内で少し仕事の報告を済ませた後、雲斗が助手席から澪士の顔を見て尋ねた。「お前、やけに機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」澪士はハンドルを握りながら、夕方からずっと上がりっぱなしの口角をさらに深く吊り上げた。「……夕方、面白い話を聞いてな」「ほう?」「ある女が、未練タラタラの夫を徹底的に見限って、冷酷に切り捨てたらしい」「……はぁ?」雲斗は理解不能という顔で彼を見
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第1215話

こんな大勢の目の前で、おかしな真似をしてこないならそれでいい。だが、ホッとした直後、ふと冷静な思考が戻ってくる。そうか……澪士がここまで真面目に振る舞い、私と一切関わりを持とうとしないのは、ルナがいるからだ。彼がわざわざパーティーにねじ込んだルナが、同じ会場にいる。彼女の手前、変な誤解を生むようなことは避けたいのだろう。そういうことね。納得だわ。ミキは胸の奥でチクリとした正体不明の痛みを覚えながらも、無意識のうちに椅子を数センチだけ横へずらし、彼との間に明確な境界線を引いた。澪士はその微かな動きに気づいていたが、何も言わなかった。……華やかに見えるジュエリーブランドのパーティーだが、その実態はかなり退屈なものだ。パーティーの終了後には、各タレントがどれだけジュエリーを売り上げたか、その金額がシビアに発表されることになっている。ミキは去年、異例の抜擢でこのブランドのグローバルアンバサダーに就任した。当然、それを面白く思っていない同業者はごまんといる。みんなミキが大恥をかく瞬間を、今か今かと待ち構えているのだ。ミキは熱狂的なファンを抱えるアイドル女優ではないし、世間を騒がせるようなスキャンダルとも無縁だ。純粋なネットの話題性やファンの熱量という点では、どうしても彼らに見劣りしてしまう。……大丈夫かな。出番が近づくにつれ、ミキの胸にじわじわと不安が広がっていく。ステージ裏の控室へ向かうと、ちょうどルナが誰かと電話をしている声が聞こえてきた。「ええ、心配しないで。今夜は私のために全部お買い上げしてくれる人がいるから、絶対に私がトップになるわ!だから用意しておいたニュース記事、9時ジャストに一斉配信してね」ルナのためにお金を出してくれる人って……どうせ澪士のことよね。どうりで。彼のような男が、こんな退屈なパーティーにわざわざ顔を出した理由がようやくわかった。ミキの気配に気づいたルナは慌てて通話を切り、甘ったるい笑みを浮かべてすり寄ってきた。「あ、ミキ先輩。お疲れ様ですぅ」ミキは小さく頷き、最低限の挨拶を返した。ルナはミキの隣に並んで出番を待ちながら、わざとらしく首を傾げる。「ミキ先輩。もし私が今日の売り上げトップになっちゃっても……怒らないでくださいね?」……な
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第1216話

しかも、このブランドのパーティーが始まって以来、歴代トップの売り上げを叩き出したアンバサダーとして。ミキはステージを降りる時も、まだ足元がフワフワと浮ついているような気分だった。しかし控室に戻った途端、現実に引き戻される。「よくも私のトップの座を奪ってくれたわね!」さっきまでの「か弱い新人」の仮面はどこへやら。ルナは怒りで顔を真っ赤にして、鬼のような形相でミキに食ってかかった。ミキも黙ってサンドバッグになる趣味はない。「人聞きの悪いこと言わないでくれる?ああいうのって、純粋な実力勝負じゃないの?」「白々しい……!」ルナがさらに甲高い声を荒げようとした瞬間、控室に他のスタッフが入ってきた。周囲の目を気にしてイメージダウンを恐れたルナは、チッと舌打ちをして押し黙るしかない。ミキも彼女の相手をしている暇はなかった。あの信じられない金額を出してくれたマダムに、直接お礼を言いに行かなければ。彼女の名前は、貴崎麗子(きざき れいこ)。麗子はミキが挨拶に来ることを見越していたのか、VIP専用の控室で優雅に待っていた。ミキが部屋に入るなり、麗子はパッと花が咲いたような笑顔を見せる。「近藤さん!画面越しで拝見するより、ずっとお綺麗ね!」麗子は親しげにミキの手を取り、心底嬉しそうに目を細めた。「実は私、あなたの大ファンなのよ。出演作は全部観ているわ。今日こうして本物にお会いできるなんて夢みたい」えっ……私のファンだったの?ミキは驚きつつも、胸がじんと温かくなった。わざわざグラスを手に取り、深い感謝を込めて麗子と乾杯を交わす。一口飲んでグラスを置いた麗子は、茶目っ気たっぷりにウインクをした。「もし本当に感謝してくれているなら、あなたのサイン入り写真をもらえないかしら?」「そんなことでよろしければ、喜んで」ミキはいつも持ち歩いている宣材写真を取り出し、サラサラとペンを走らせる。サインを書き入れながら、ふと気になって尋ねてみた。「あの……私の出演作で、どのキャラクターが一番お好きですか?」すると麗子は、迷うことなくミキの出世作となった映画のタイトルを挙げた。その映画でミキが演じたのは、出番の少ない三番手のサブキャラクターだ。しかし、そのキャラクターの生き様が素晴らしく、ミキ
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第1217話

「帰ったら、あいつの出演作を全部見直しておけ。次にボロを出したら許さないからな」「わかってるわよ!」本当に、事前に彼から徹底的なレクチャーを受けていなかったら、さっきミキの前で確実に馬脚を露わしていただろう。「でもさ」麗子はやはり腑に落ちないという顔で首をひねる。「そこまで彼女に執着してるなら、やっぱり堂々とアピールすべきじゃない?裏でいくら貢いだところで、彼女自身が気づかなきゃ意味ないじゃないの」「以前、バーでチンピラに絡まれた時、あいつは『私には夫がいる』と言って男を追い払ったんだ。関係はとっくに破綻しているはずなのに、いまだにあの男を盾にするくらいだからな。よほど未練があるらしい」フッ、と澪士は自嘲するように笑う。だが、その漆黒の瞳には、彼女の中にある元夫の影をどうやって跡形もなく塗りつぶし、自分だけのものに染め上げてやろうかという、熱く危険な光が宿っていた。麗子の顔に張り付いていた笑みが、ピシリと固まる。……うそでしょ。麗子は完全に悟った。この男は――他の男に未練を残している女を、外堀からじわじわと甘く追い詰め、心も体も完全に自分のもので上書きして奪い尽くそうとしている。冷徹な仕事の顔からは想像もつかないほどの、底知れず重い執着と独占欲を隠し持っているのだ。......ミキはパーティーが完全にお開きになるまで残り、順番を待って会場を後にした。主催者側が宿泊先までの送迎車を手配してくれているため、エントランスの待合スペースで待機する。そのわずかな待ち時間の間にも、ミキの耳には様々な噂話が飛び込んできた。アシスタントの小川萌(おがわ もえ)が声を潜めて教えてくれたところによると、ルナは先ほど控室で大暴れし、物を手当たり次第に投げつけて酷い言葉をわめき散らしていたらしい。原因は明白だった。ルナは自分がトップになると思い込み、事前に「私が売り上げナンバーワン!」という提灯記事をネットニュースに買い取らせ、SNSのトレンド上位まで大金で買っていたのだ。彼女のファンたちはすっかり信じ込んでお祭り騒ぎをしていたというのに、ブランド側が公式発表したトップの座は、ミキ。痛快なほどの完全な大どんでん返しだった。ルナはまだ正式デビューしておらず、インフルエンサー上がりの知名度しかない。
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第1218話

ミキは反射的に「スタッフの手違いでは?」と聞きそうになった。「乗れ」澪士は短くそれだけ言い捨てると、視線を前に戻してしまった。長い指先が、退屈そうに膝をトントンと叩いている。ミキは少しだけ葛藤したが、おとなしく車に乗り込んだ。一つ目の理由は、こんなところでモタモタしていれば、通りを挟んで待ち構えているマスコミのカメラの餌食になるからだ。そして二つ目の理由は――澪士という男の性質をよく知っているから。もしここで乗車を拒否すれば、彼が折れることは絶対にない。私が折れるまで、いつまででもここで睨み合いを続ける気だろう。ドアが閉まると同時に、ロールスロイスは静かにホテルを後にした。車内は、まるで移動する密室のように静まり返っていた。エアコンの微かな送風音だけが響いている。天井に施されたスターライト・ヘッドライナーの星空のような光が、ドレスの裾をきつく握りしめるミキの指先に落ちていた。澪士がふと横を向いて彼女を見る。窓の外を流れる街灯の光が彼の端正な横顔を照らし出し、その陰影をどこまでも深く、危険なほど色っぽく浮かび上がらせていた。静寂を破ったのは澪士だった。車外の夜の闇よりも低く、耳の奥を撫でるような声。「今夜は、楽しかったか?」「……ええ、もちろん」ミキはできるだけ淡々とした声を作った。「売り上げトップになれたんだもの」「なら、よかった」澪士の口の端がわずかに吊り上がる。しかし、その漆黒の瞳はミキの顔から微塵も離れようとしなかった。車は滑るように夜の街を進んでいく。ミキの胸の中には、疑問が渦巻いていた。どうして彼が私を迎えに来るの?この時間なら、新しいお気に入りであるルナを慰めているはずじゃないの?それとも、もうあっちのご機嫌取りは済ませて、こっちにちょっかいを出しに来たってこと?澪士という男の圧倒的なスペックと、女扱いにおける底知れぬ手練れ感を考えれば、複数の女を同時に転がすなんて造作もないことだろう。モヤモヤとした思いはあったが、ミキは何も聞かなかった。聞く必要なんてない。私には、それを問いただす権利も立場もないのだから。ただ、どうでもいい話題を一つだけ口にした。「いつ車を変えたの?あなたのカリナンは?」二人が知り合ってから、澪士が乗っている車は
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第1219話

ミキは半ば強引に手渡された紙袋を受け取るしかなかった。彼から逃げる隙など、最初から与えられていないのだ。「あの……」お礼を言わなきゃ。しかし、「ありがとう」の言葉を紡ごうとしたミキを、澪士が先手を取って遮った。「いい大人の間で、口先だけの礼なんて何の意味がある?」「え……」「俺が聞きたいのは、そんな言葉じゃない」ミキはすっかり彼のペースに飲まれてしまっていた。「じゃあ……何が聞きたいの?」澪士の漆黒の瞳が、ふっと熱を帯びて深くなる。彼は長い脚を一歩踏み出し、ミキの顔のすぐそばまで身を屈めた。冷たくて上品なシダーウッドの香りが、夜の空気ごとミキをすっぽりと包み込む。耳を掠めるほど近い距離で、甘くしゃがれた声が囁いた。「たとえば――『上に寄っていかない?』とか」ドクン、と心臓が跳ね上がり、ミキの耳から首筋までが一気にカッと熱くなった。紙袋を握りしめる手にぎゅっと力が入る。至近距離で絡み合った視線の先にあったのは、彼が隠そうともしない、濃厚な雄の欲望だった。それは決して野蛮でガツガツしたものではない。狙った獲物は確実に仕留めるという、極上のプレデターが持つ、底なしの忍耐と絶対的な支配欲。ミキの瞳に明らかな動揺が浮かんだのを見て取ると、澪士はそれ以上踏み込んでくることはなかった。絶妙な間合いでスッと体を離し、いつもの優雅な笑みを浮かべる。「冗談だ。もう遅いから早く上がれ」ほんの一拍おいて、甘い声が落ちてくる。「おやすみ」ミキは熱くなった耳を誤魔化すように目を逸らし、「……おやすみ」とだけ早口で言い残して、ホテルの中へ逃げ込んだ。まるで、飢えた狼の口から間一髪で逃げ出したウサギのように。ホテルのエントランスに一人残された澪士は、その逃げていく華奢な背中を、焼け焦げるような熱い視線でじっと見つめていた。彼女の姿が、完全に夜の静寂に溶けて消えてしまうまで。エレベーターで自分のフロアへ向かう間、ミキの頬にこもっていた熱はようやく少しずつ引いていった。しかし――チン、と無機質な音を立てて扉が開いた瞬間、その安堵は一瞬で凍りついた。そこには、顔をどす黒く沈ませた白彦が立っていたのだ。彼は眉間を深く刻み、まるで夜遊びをして帰ってきた妻をなじる夫のような口調で、いきな
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第1220話

ミキはあの冷酷な言葉を言い放つと、さっさと自分の部屋に入り、バタンと無情にドアを閉めてしまった。その後、彼女が二度と顔を出すことはなかった。白彦は静まり返った廊下に、ただ一人立ち尽くしていた。胸の奥から波のように押し寄せる、ズキズキとした鋭い痛みを全身で感じながら。『人の心は、たった一日で冷めるものじゃない』ミキの言葉が、脳裏で何度もリフレインする。日々の積み重ねられた冷遇と無視が、彼女の心を芯まで凍らせてしまったのだ。だが、誰を恨むこともできない。今のこの惨めな状況は、すべて自分自身が招いた結果だ。自業自得だ。かつてあれほど自分を愛してくれた、かけがえのない女性をあんなにも残酷に裏切ったのだから。自分がどれくらいの時間、そこで呆然と立ち尽くしていたのかもわからない。ふいにスマートフォンの着信音が鳴り響き、白彦はビクッと我に返った。画面には、友人の健の名前が表示されている。通話ボタンを押すと、健の呆れたような声が耳に飛び込んできた。「おい、お前どこほっつき歩いてんだよ?こっちはもう三時間も待ってんだぞ。今日の主役はお前だろうが。みんなお前の誕生日祝うために集まってんだから、早く来いよ!」白彦はスマートフォンを握りしめ、長い沈黙のあと、ひどく掠れた声で呟いた。「……あいつ、俺の誕生日、忘れてた」出会ってから今日まで、彼女が白彦の誕生日を忘れたことなど、ただの一度たりともなかった。以前のミキなら、どんなに仕事が忙しくても絶対に休みを取って、北里市まで戻ってきて彼を祝ってくれていたのだ。なのに今日、目の前に現れた彼女は、誕生日の「た」の字すら口にしなかった。白彦はただ、彼女に一目会いたくて、このホテルのロビーで午後からずっと待ち続けていたというのに。夜になってようやく帰ってきたと思ったら、隣にはあの二階堂澪士がいた。その光景を見た瞬間、嫉妬で完全に理性が吹き飛び、ひどく醜い態様で彼女を問い詰めてしまった。――あなたは一体、どういう立場で私を問い詰めているの?元夫の分際で?その言葉が呪いのように鼓膜にこびりつき、首を絞められるような窒息感が白彦を襲う。息が、うまく吸えない。「……わかった。今から行く」健からの飲みの誘いに、白彦は力なく応じた。今の彼には、この張り裂
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