白彦は苦痛に顔を歪めている。打撲のせいか、熱湯を浴びたせいかは分からない。我に返った璃々子は、自分がしでかした事に青ざめ、パニックに陥った。「わ、わざとじゃないの……!白彦兄さん、大丈夫!?どこか怪我は……っ」泣きそうになりながらすがりつこうとする璃々子を、白彦は冷たく突き放した。ミキの視線が、白彦の腕を捉える。彼の腕には退院したばかりの痛々しい包帯が巻かれていたが、そこから再びじわじわと赤黒い血が滲み出していた。今の衝撃で、縫合したばかりの傷口が開いてしまったのだろう。それにしても――まさかあの白彦が、自分をかばって盾になるなんて。ミキは少しだけ驚いたが、すぐに心の底から冷え切った感情が湧き上がってきた。今さらこんな『身を呈した庇護』を見せられても、滑稽でしかない。「先生!誰かお医者様を!!」美奈子が慌てて医師を呼びに走る。璃々子は再び白彦の腕を引こうとした。「白彦兄さん、一緒に処置室に行きましょう!傷口から血が……っ!」「触るな!失せろ!!」白彦の怒声が、待合室に響き渡った。璃々子は信じられないというように目を見開き、ポロポロと大粒の涙をこぼした。「白彦、兄さん……?」「お前の顔など見たくもない!」白彦は一度たりとも璃々子と目を合わせようとしなかった。彼女の涙も、存在そのものも、完全に『無』として切り捨てている。その態度には、ミキでさえ少し驚いた。確かに今の彼は、以前の彼とは明らかに璃々子に対する態度が違う。だが、そんなことはミキにはどうでもいいことだ。彼女は興味なさげに視線を切ると、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。「……ミキ」背後から、白彦がすがるような声で呼び止める。「一緒に……傷の処置に、ついてきてくれないか?」その問いかけに、ミキは心底呆れ果てた。なんて唐突で、厚かましいお願いだろう。彼女はゆっくりと振り返り、軽蔑しきった冷たい瞳で彼を見据えた。「……どうして私が、あなたの傷の処置に付き合わなきゃいけないの?」「え……」「彼女が私を殴ろうとしたのは、あなたに原因があるから。あなたが私を庇ったのは、彼女が犯した罪の『尻拭い』をしただけ。……私は、あなたたち二人に借りなんて一ミリもないわ」ミキの言葉は、氷の刃のように冷酷だった。
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