――私たち夫婦の縁は、とっくに切れている。だが、身寄りのない彼を突き放して手術を遅らせるほど、人命が懸かっているこの状況で私怨を持ち込むつもりはなかった。急いで病院に駆けつけたミキの視界に最初に飛び込んできたのは、美奈子ではなく、璃々子の姿だった。とはいえ、ミキにとってそれは少しも意外なことではなかった。璃々子は目を真っ赤に腫らし、ひどく取り乱して泣きじゃくっている。あの様子を見る限り、白彦の怪我は本当に軽いものではないらしい。「ミキさん!」医師を伴って駆け寄ってきた美奈子が、ミキを呼び止めた。「こちらが手術の同意書です。保証人の欄にサインをお願いします」由木家の直系の親族はすでに全員他界している。ただの幼馴染のくせに『彼女気取り』で泣き喚いているだけの璃々子には、法的な責任を伴うサインをする権利などこれっぽっちもないのだ。だからこそ、美奈子も病院側も、元妻であり緊急連絡先に指定されているミキを頼るしかなかったのである。ミキは同意書の内容にサッと目を通し、問題がないことを確認すると、一切の躊躇もなく淡々と事務的にペンを走らせた。白彦が手術室へ運ばれ、扉の上のランプが点灯する。待合室でのミキは、離れた壁際に寄りかかり、終始璃々子とは一定の距離を保ち続けていた。慰める気も、話しかける気も毛頭ない。やがて、美奈子がミキのそばにやってきて、事故当時の状況を小声で説明し始めた。白彦は自らハンドルを握って運転している最中に事故を起こしたらしい。美奈子の話によれば、何か『とても重要なもの』を運転席の足元に落としてしまい、それを拾おうと視線を下に向けた一瞬の隙に激突したとのことだった。「……白彦様が何を落としたのか、私にもまったく見当がつかないのですが……」美奈子はそう言って、重いため息をつきながら首を振った。四時間に及ぶ手術が終わり、ようやく手術室の扉が開いた。出てきた執刀医は、無事に手術が成功したこと、そして命に別状はないことを告げた。「ただし、麻酔から完全に覚醒するまではリカバリールームで経過を観察します。万が一急変した際にご判断を仰ぐため、手術の同意書にサインされた『保証人』の方は付き添いをお願いします」その言葉を聞くや否や、誰よりも早く医師に詰め寄ったのは璃々子だった。彼女は心底心
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