だが、視線を上げて「それ」を見た瞬間、彼女は絶句した。水面から十メートルもある飛び込み台の先端に、見覚えのある女が立っていたのだ。ルナだった。その後ろには、退路を塞ぐように黒服の屈強な男が立ちはだかっている。ルナは真っ青な顔でガタガタと震え、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして飛び込み台のギリギリに立たされていた。その姿は、なんとも惨めだった。いや、惨めを通り越して哀れでさえある。澪士はミキを観客席に座らせると、ふと片手を上げて合図を送った。それを見た黒服の男が、ルナの背後から無機質な声で命じる。「飛べ」「や、いやっ!やだぁっ!」ルナは幼児のように泣き喚いた。「怖いっ!お願い、許して!もう二度とあんなことしないからぁっ!」しかし黒服の男は、彼女の凄惨な命乞いにも一切顔色を変えなかった。「飛べ」先ほどよりも、明らかに苛立ちの混じった低い声だ。「自分で飛ばないなら、ここから突き落とすぞ」「ひぃぃっ!!」ルナの絶叫と泣き声が、夜の静かなプールに不気味に木霊する。あまりの光景に、ミキは思わず隣の男を見た。「これ……ちょっと、やりすぎじゃない?」ルナに同情したわけではない。ただ、こんな真似をして澪士の立場が危うくならないか、それが心配だったのだ。澪士は微動だにせず、退屈そうに鼻を鳴らした。「何を怖がる必要がある?何か起きても、俺が全てもみ消してやる」彼はそう言いながら、ミキの黒髪の毛先を指に絡め、愛おしそうに弄り始めた。「いいか、よく覚えておけ。お前に牙を剥く奴がいれば、その何倍も残酷に噛みちぎってやれ。相手がどれだけ権力を持っていようが関係ない。お前の手には負えない獲物なら、代わりに俺が確実に仕留めてやる」そこまで言うと、彼はゆっくりと視線を上げ、ミキの瞳を真っ直ぐに射抜いた。その口元に、ひどく扇情的で危険な笑みが浮かぶ。「お前が気持ちよくなってくれないと、俺も満たされないタチでね」ミキが何か言葉を返す間もなく、空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。ルナが、十メートルの飛び込み台から真っ逆さまに落下したのだ。いや、正確に言えば、黒服に背中を蹴り落とされたのである。激しい水柱が上がり、耳障りな絶叫がプツリと途絶えた。プールの水面に大量の気泡が
Read more