All Chapters of 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Chapter 371 - Chapter 373

373 Chapters

第371話

【誠、見たか?俺はやり遂げたぞ!】【電話にも出られないほどビビってるのか?】【長年のよしみだ、ラストチャンスをやるよ。『アーク』に戻ってこい。俺の下で働くなら歓迎してやる。お前の能力だけは評価してるんだからさ】しつこく通知が続き、陽介がさらに何か言いたてようとしているのは明白だった。誠は溜息をつく間もなく彼をブロックし、通知を切って心安らかにディナーの続きを楽しんだ。一方、メッセージが送信エラーになったのを見て、陽介の顔色が一瞬にして曇った。「身の程知らずが。一生負け犬でいろ!」吐き捨てるように毒づいていると、志帆から声がかかった。いよいよイベントが始まるようだ。陽介は即座に表情をへつらい笑いに変え、揉み手でもしそうな勢いで駆け寄る。その背中は自然と卑屈に丸まっていた。「柏木さん、開催宣言はやはり柏木さんにお願いしたいのですが」志帆は優雅に微笑む。「何を言ってるの。創設者はあなたでしょう?あなたがやるべきよ」「とんでもない!『ドリーム・クラウド』が今日という日を迎えられたのは、全て柏木さんのご尽力のおかげです。あなたがテープカットをしてこそ意味があるんです」「……そう?なら、お言葉に甘えるわ」志帆は満更でもなさそうに頷いた。司会者が開会を告げる直前、志帆のスマートフォンが鳴った。太一からのビデオ通話だ。応答すると、画面の向こうには見知った顔ぶれが揃っており、彼女の気分はさらに高揚した。「志帆ちゃん!俺ら今、江ノ本で集まってるんだ。みんなでリモート前夜祭ってことで、ここからお祝いさせてよ!行けなかった埋め合わせってことでさ」「ふふ、ありがとう。みんなによろしく伝えて」「水臭いこと言うなよー。これ全部、柊也の発案なんだぜ?」太一はカメラを回し、柊也を画面の中心に捉えた。「だろ?柊也」柊也は画面越しにグラスを軽く掲げ、無言のまま祝杯の仕草を見せた。志帆はとろけるように目を細める。「受け取ったわ」すると太一が、ここぞとばかりに囃し立てた。「ひゅー!やっぱり俺らがいると照れちゃって、甘い言葉は言えない感じ?はいはい、愛の囁きは二人の時まで取っといてくれよな、俺らがお邪魔虫になるし!」志帆は口元を緩めたまま、幸せそうに返す。「もう、調子いいんだから。そろそろ本番が始まるから切るわね」「頑張れよー!」
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第372話

よく言えば内縁の妻。悪く言えば、ただのキープだ。所詮は婚約止まり。法律は何ひとつ彼女を守ってくれない。「最後の一瞬まで、何が起こるか分からない」ということを、佳乃は骨身に沁みて理解していた。だからこそ、志帆に何度も「気合を入れなさい」と発破をかけるのだ。「それと、気になる噂を耳にしたの。海雲さんが弁護士を呼んで、遺言書の作成に入ったって……柊也くんは何か言ってなかった?」佳乃の声が低くなる。「いいえ、何も」「知らないのかしら、それとも……」「知らないだけよ。柊也くんは私に隠し事なんてしないもの」その点に関しては、志帆は絶対の自信を持っていた。しかし、佳乃は慎重だった。「とにかく、西川から戻ったら何かしら理由をつけて、海雲さんの元へ挨拶に行きなさい。そしてそれとなく探りを入れるのよ」「ええ、分かったわ」志帆はまだ仕事が残っていたし、言いたいことはすべて伝えたので、佳乃はそれ以上会話を引き伸ばすことなく電話を切った。一方、LINEグループでは太一が中心となって志帆のお祝い祭りを繰り広げていた。おびただしい数のスタンプが画面を飛び交っている。太一はさらに、イベントの生配信リンクを父・厳に転送し、『俺が投資したプロジェクト、マジでロケットスタート決めたから。親父は安心して療養しててくれよ、俺が衆厳メディカルを立て直すからさ』と意気揚々とメッセージを送っていた。現地の花火が燃え尽きると、陽介が志帆をエスコートしてステージに上がり、スピーチが始まった。配信の同時接続数はうなぎ登りに増え続けている。今回のイベントがいかに大成功を収めたかの証明だ。オフィスに残っていた密は、配信画面を録画しながら悪態をついた。「このコメント欄、どう見てもサクラが沸いてるでしょ?批判的な意見がひとつもないなんて、ありえないって」「同接十万人のうち、八万人はbotじゃないの?」「あーもう無理、やってられない!こんな仕事、誰か代わりにやってよ」彼女は憤然と立ち上がり、荒ぶる心を鎮めるために給湯室へ氷水を飲みに行くことにした。画面の中では、志帆が高らかに宣言している。『ドリーム・クラウド』は今後五年間で、国内最大のアクティブユーザー数を誇るスマホゲームになるでしょう、と。観客の拍手が沸き起こるのを待った、そのコンマ一
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第373話

密は声を潜め、探るような目で詩織を見た。「ねえ詩織さん、もしかしてこれ、あなたの仕業……」「やめてちょうだい。私がそんな暇人に見える?」詩織はぴしゃりと否定した。確かに志帆とは競合関係にあるが、詩織は最初から最後まで正々堂々と戦うことを信条としている。陰でこそこそ足を引っ張るような真似は一度たりともしたことがない。密もすぐに納得した。「ですよね。詩織さんがそんなセコい手を使うわけないか」こちらが何も手を出していないのに、相手が勝手に自爆したのだ。そう考えると、痛快さは倍増する。まさに「自業自得」という言葉がこれほど似合う状況もないだろう。詩織は興奮冷めやらぬ密を仕事に戻らせると、百合子との通話を再開し、M&A案件の細部を詰めた。通話を終える頃には、定時を少し過ぎていた。スマホを確認すると、通知画面が埋め尽くされている。その大半が、親友のミキからのものだった。『ねーねー詩織ちゃん!午後の配信見た!?柏木の性悪女、生ゴミぶつけられたんだけど!うけるwwwww』文字だけでは飽き足らなかったらしい。彼女からはさらに六十秒ちょうどのボイスメッセージまで送られてきていた。何か重要な補足情報でもあるのかと思い再生してみたが、聞こえてきたのはミキの悪魔のような高笑いだけだった。延々と六十秒間、腹を抱えて笑い転げる声が続く。なぜ自分はこの貴重な一分間を無駄にしてしまったのか。詩織は遠い目をしてスマホを見つめた。【これが令和の企業戦争ってやつ?商売繁盛の招き猫を叩き割った仕返しに、生ゴミを投げ返すとか?】【私は何もしてないわよ。彼女がいきなり自分の首を絞めるような真似をしただけ】詩織はきっぱりと身の潔白を主張する。ミキからは「分かってるって」と言いたげな、したり顔のスタンプが送られてきた。【ま、これが柏木への天罰ってやつでしょ!】それには詩織も同感だった。車に乗り込むと同時に、松本さんから電話がかかってきた。仕事帰りに煎じ薬を取りに寄ってほしいと言う。賀来家の屋敷に到着すると、夕食の支度が整っており、詩織が来るのを待っていたようだった。食後、上機嫌な海雲から、一局手合わせをしようと誘われた。碁石を打ちながら、彼は『華栄キャピタル』の近況について尋ねてきた。詩織が中博テックとの合併交渉を進めていること
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