【誠、見たか?俺はやり遂げたぞ!】【電話にも出られないほどビビってるのか?】【長年のよしみだ、ラストチャンスをやるよ。『アーク』に戻ってこい。俺の下で働くなら歓迎してやる。お前の能力だけは評価してるんだからさ】しつこく通知が続き、陽介がさらに何か言いたてようとしているのは明白だった。誠は溜息をつく間もなく彼をブロックし、通知を切って心安らかにディナーの続きを楽しんだ。一方、メッセージが送信エラーになったのを見て、陽介の顔色が一瞬にして曇った。「身の程知らずが。一生負け犬でいろ!」吐き捨てるように毒づいていると、志帆から声がかかった。いよいよイベントが始まるようだ。陽介は即座に表情をへつらい笑いに変え、揉み手でもしそうな勢いで駆け寄る。その背中は自然と卑屈に丸まっていた。「柏木さん、開催宣言はやはり柏木さんにお願いしたいのですが」志帆は優雅に微笑む。「何を言ってるの。創設者はあなたでしょう?あなたがやるべきよ」「とんでもない!『ドリーム・クラウド』が今日という日を迎えられたのは、全て柏木さんのご尽力のおかげです。あなたがテープカットをしてこそ意味があるんです」「……そう?なら、お言葉に甘えるわ」志帆は満更でもなさそうに頷いた。司会者が開会を告げる直前、志帆のスマートフォンが鳴った。太一からのビデオ通話だ。応答すると、画面の向こうには見知った顔ぶれが揃っており、彼女の気分はさらに高揚した。「志帆ちゃん!俺ら今、江ノ本で集まってるんだ。みんなでリモート前夜祭ってことで、ここからお祝いさせてよ!行けなかった埋め合わせってことでさ」「ふふ、ありがとう。みんなによろしく伝えて」「水臭いこと言うなよー。これ全部、柊也の発案なんだぜ?」太一はカメラを回し、柊也を画面の中心に捉えた。「だろ?柊也」柊也は画面越しにグラスを軽く掲げ、無言のまま祝杯の仕草を見せた。志帆はとろけるように目を細める。「受け取ったわ」すると太一が、ここぞとばかりに囃し立てた。「ひゅー!やっぱり俺らがいると照れちゃって、甘い言葉は言えない感じ?はいはい、愛の囁きは二人の時まで取っといてくれよな、俺らがお邪魔虫になるし!」志帆は口元を緩めたまま、幸せそうに返す。「もう、調子いいんだから。そろそろ本番が始まるから切るわね」「頑張れよー!」
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