感情に流されない客観性こそが、正しい意思決定を導く。それが彼の持論だった。スープを飲み干した海雲は、窓の外を見て顔をしかめた。雨は勢いを増すばかりだ。この豪雨の中、車で帰らせるのは危険すぎると判断し、今夜は屋敷に泊まっていくよう勧めた。詩織は「後で様子を見て決めます」とだけ答えた。書斎を出てリビングに戻った詩織は、ダイニングの方を見て足を止めた。そこには、スープを飲んでいる柊也の姿があった。男の視線もちょうどこちらを向き、二人の目がぶつかる。一瞬の沈黙。詩織は何事もなかったかのようにすっと視線を外し、松本さんに声をかけた。「具合はどうですか?少しは楽になりました?」「ええ、おかげさまで随分と」もちろん、咳が完全に止まったわけではないが、顔色は幾分良くなっている。松本さんは少し慌てた様子で、言い訳がましく付け加えた。「あのね、柊也様、詩織さんが来てるなんてご存じなかったのよ。ただ私が具合悪いって聞いて、心配して戻ってきてくださっただけで……」もちろん、詩織だって自惚れたりはしない。彼が自分のために戻ってきたなどと考えるほど、彼女は愚かではなかった。「もう遅いので、私はこれで失礼しますね。残ったスープは保温ポットに入れておいたので、飲みたい時に飲んでください」詩織は空になった器をキッチンへ戻すと、松本さんにそう告げた。言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、空を引き裂くような轟音が響いた。バリバリバリッ、と耳をつんざくような激しい雷鳴だ。窓を叩く雨音も、先ほどよりさらに激しさを増している。松本さんが慌てたように口を開く。「さっき管理会社から連絡があって、この辺りの道路は冠水し始めてるんですって。今車を出すのは危ないわよ……ねえ、今夜はこちらに泊まっていったら?」もし柊也が帰ってきていなければ、安全を優先して泊まるという選択肢もあったかもしれない。けれど今の状況では、それはあり得ない。詩織が断ろうと口を開きかけた瞬間、ダイニングにいた柊也が低い声で言った。「お前は残れ。俺がしばらくしたら出て行く」松本さんは、今度は柊也の身を案じる。「でも、こんな大雨ですし、道路も冠水してると……」「問題ない」柊也は立ち上がった。「父さんに挨拶したら帰る」詩織は思わず声を上げようとした。「しゅ……」名
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