【近所に住んでた兄貴分っすよ】なんだ、ただの幼馴染か。だが、志帆は念のため、さらに探りを入れてみることにした。【篠宮室長って、あの若さであのポジションに就くなんて、かなりのやり手よね。やっぱりご実家のバックアップが相当すごいの?】【いや、あの人は完全に実力で這い上がった人だよ】悠人は答えられる範囲の事実だけを伝えた。賢の父方の家系が持つ絶大な影響力については、軽々しく口外できないタブーだ。その返答を見て、志帆はやっぱり自分の考えすぎだったと安堵した。篠宮賢には大した背景などないのだ。実際、お見合いの前、母の佳乃がツテを使って北里市の有力者を調べさせたが、「篠宮」姓の大物政治家や官僚に該当する人物は見当たらなかった。だからこそ、彼女はお見合いの席であれほど冷淡な態度をとったのだ。紹介人は一体何を根拠に「あの方は大物だ」などと母に吹き込んだのだろうか。その言葉を真に受けたからこそ、志帆は柊也に隠れてまでお見合いの席に着いたのだ。だが、蓋を開けてみれば、彼には利用価値のある家柄などなかった。だから二度目に誘われた時、彼女ははっきりと「その気はない」と断りを入れ、柊也という確実なカードを離さない道を選んだのだ。……翌日、詩織は出張でG市へ飛ぶ予定だった。衆厳メディカルの一件は、戻ってから本格的に着手することになる。だが、太一には前もって必要な資料を揃えさせておかなければならない。手元の仕事を片付けると、詩織は太一に電話をかけた。案の定、電話の向こうは騒がしかった。「志帆さん、お幸せに!」誰かが柏木志帆を祝福する声が、微かに漏れ聞こえてくる。だがそれも一瞬のこと。太一が個室を出たのだろう、周囲の喧騒はふつりと遮断された。「え……江崎社長」以前のように呼び捨てにしそうになったのか、言葉を詰まらせ、太一は慌てて「社長」と言い直す。なんとも居心地が悪そうだ。電話越しの彼の態度は、以前とはまるで違っていた。かつての彼は詩織を軽視し、常に上から目線でふんぞり返っていたものだ。それが今はどうだ。まるで生活指導の教師から呼び出しを食らった不良生徒のように、無意識に背筋を縮こまらせ、受話器の向こうで直立不動になっている気配さえ感じられる。詩織はそんな彼の変化など気にも留めず、淡々とした口調で準備す
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