だが、ホールのどこにも彼女の姿はなかった。彼女はすでに個室へと戻っていたのだ。……夜になって、譲から詩織へ簡潔なメッセージが届いた。柊也の容態についてだ。【左手の火傷、結構ひどかったけど、処置が早かったおかげで大事には至らなさそうだ】詩織は【了解】とだけ返信した。譲はしばらくスマホの画面を睨んでいたが、二通目のメッセージが来ることはなかった。どうやら彼女は、本当に柊也に対して未練がないらしい。太一はといえば、昨晩の接待で浴びるほど酒を飲み、帰宅するなり泥のように眠ってしまったため、柊也の怪我については何も知らなかった。翌日そのニュースを聞きつけるなり、大慌てで病院へと駆けつけた。病室には志帆の姿しかなかった。どうやら一晩中付き添っていたらしい。「志帆ちゃん、一度帰って休みなよ。俺、今日ヒマだからさ、柊也のことは任せといてって」志帆は少し心配そうだったが、柊也からも「戻って休め」と促され、ようやく帰宅を承諾した。「じゃあ、何かあったらすぐ電話してね」帰り際、志帆は柊也への注意事項を細かく確認し、太一にもくれぐれも粗相のないようにと念を押して病室を出て行った。二人きりになると、太一は我が物顔でソファに寝転んだ。「ヒューッ、愛されてんねぇ、ごちそうさまです」柊也は相手にもせず、ベッドに半身を起こして目を閉じている。だが、太一の好奇心は止められない。「なぁ、昨日助ける相手間違えたってマジ?本当は志帆ちゃん助けるつもりが、手違いで江崎助けちゃったって?」「うるさいぞ」柊也の声は冷たく、抑揚がない。だが太一に空気を読む能力などない。お構いなしに喋り続ける。「で、江崎の反応はどうだった?死ぬほど感動してたんじゃね?きっと『まだ私に気があるんだわ』とか勘違いしてんじゃねーの」「俺の予想じゃ、あいつ絶対今日見舞いに来るぜ。んで、かいがいしく看病アピールすんだよ」柊也は相変わらず冷淡に返した。「考えすぎだ」太一は自信満々に言い放った。「いやいや、賭けてもいいぜ!絶対来るって!こんな絶好のチャンス、あいつが逃すわけねーもん!」これは彼の経験則だった。かつての詩織なら、間違いなくそうしていただろうから。太一は丸一日待ち構えていたが、結局、詩織は現れなかった。「嘘だろ、マジで来ねーの?一応さ、自分
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