せり上がってくる苦いきしみから逃れるように、詩織は窓から顔を背けた。眉間を寄せ、冷徹なまでに淡々とした声で言い放つ。「何を今さら感傷に浸ってるの?自分で壊したくせに」柊也は気怠げに腕を上げ、自分の両目を覆い隠した。そして、重苦しい車内の空気よりもさらに沈んだ声で、ひと言だけこぼした。「ああ……俺が、この手で台無しにしたんだ」その瞬間、詩織の胸には訊きたいことが山ほど込み上げてきた。なぜ、あの家を壊したのか。志帆を愛したことなど一度もないと言うなら、なぜあの時、私を捨てて彼女を選んだのか。けれど、言葉が喉まで出かかっては、そのまま飲み込むことを繰り返した。今さら訊いてどうなる。未練があると思わせるだけではないか。彼女の心には、燻り続ける怒りと、どうしても拭えない不信感があった。一度私を捨てた男だ。二度目も、三度目も、きっと同じことを繰り返すに違いない。......「柊也くん、家が火事になっちゃって……しばらくの間、あなたのところに置いてもらえないかな?」そう訴える志帆の瞳は、悲劇のヒロインのように潤んでいた。柊也が、長期滞在用のホテルを手配しようと口を開きかけた、その時だ。佳乃が、まるで示し合わせたようなタイミングで助け舟を出した。「志帆は昔からデリケートでしょ?ホテルだとなかなか寝付けないのよ。一日二日ならまだしも、長期となると……家を直すのに一ヶ月はかかるっていうし」佳乃はわざとらしく自分を責めるような仕草を見せた。「ごめんなさいね。私の不注意なの。料理中に電話に出ちゃって、つい火の粉を……」当時、帰国したばかりの志帆を伴って現れた佳乃の言葉は、明らかに柊也を試すためのものだった。「ホテルには泊まれない」などというのは単なる口実で、彼がどこまで志帆を特別扱いするのかを見極めようとしていたのだ。柊也は仕方なく、志帆を自分の家に住まわせることを承諾した。本当は、適当なマンションの一室を自分の家だと偽って貸し出すつもりだった。詩織が心を込めて整えたあの家を、志帆に汚されたくなかったからだ。だが、志帆はすでに調べ上げていた。職場であるエイジアに近く、都会の喧騒を忘れさせるあの閑静な邸宅が、彼の一番の拠点であることを。あの日、柊也は車を走らせながら、同じ場所を何度も何度も回った。
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