柊也の声はわずかにかすれ、溢れ出す想いを抑えきれない様子で、詩織の瞼にそっと唇を落とした。松田龍二との因縁、そしてあの夜の記憶が詩織の脳裏を駆け巡る。胸が締め付けられるような感覚に襲われ、彼女は震える声で尋ねた。「……じゃあ、あの路地裏で私を助けてくれたのも、あなただったの?」「ああ」柊也はどこまでも優しい声で応じた。「あの頃、君が危ない目に遭わないか心配で、ずっと後をつけていたんだ。……まさか、本当にあんな奴らに襲われるとは思わなかったけど」あの時期、彼は父である海雲に「もう無茶な真似はしない」と約束し、監視のボディガードを遠ざけていた。ただ、誰にも邪魔されずに彼女を見つめていたかったのだ。顔を合わせることも、言葉を交わすこともない。それでも、遠くから彼女の姿を目にするだけで、明日も生きていこうと思えた。以前、須藤校長から聞かされた言葉が脳裏に蘇る。「あの日、身を呈して君を助けてくれた人はね、ひとりで八人を相手にして、半月も入院したんだよ」――あの時の恩人は、他でもない柊也だったのだ。その事実を噛みしめ、詩織の胸の奥で一旦は引いた熱が再びぶり返す。柊也は彼女の瞳の奥を覗き込むように、じっと見つめ続けた。「……誤算だったのは、退院してようやく君に会いに行った時、君の隣にはもう『騎士』がいたことだ」「それに、君が彼を『彼氏だ』と言っているのも、この耳で直接聞いてしまったからね」あまりに皮肉で、あまりに切ないすれ違い。「……どうして、あの時聞いてくれなかったの?」詩織は苦い後悔に苛まれる。十二年だ。人生の中で、これほど長い時間をどれだけ持てるというのだろう。「聞いたさ。だけど君は『好きな人がいる』と答えた。……俺は、それが京介のことだとばかり思っていたよ」京介の名を口にするだけで、柊也の瞳には隠しきれない暗い影が落ちる。未だにその名には、拒絶反応にも似た痛みが伴うのだ。「それはあなたが……いつだって私に冷たく接していたからじゃない」詩織の声に、割り切れない想いが混じる。「お母さんに骨髄を提供してくれた時も、私は恩返しがしたいって、あなたを訪ねて行ったのに」それは、詩織にとってあまり思い返したくない、若気の至りだった。当時、彼女はまだ十八歳。世間のことなど何も分かっておらず、人の心の機微に
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