All Chapters of 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました: Chapter 21 - Chapter 30

57 Chapters

*十ノ二

「へぇ、凝ってるねぇ。お前さんの手作りかぃ?」 的屋の娘に松葉が問うと、娘は違うと首を振り、寂し気に苦笑して答える。「いいや、おっかさんの手慰みさ。禍の病のせいで仕事ができないから、気持ちがくさくさしちまうって言うから、千代紙でなんか作んなよって言ったらこれをこさえてくれたんだよ」「……へぇ、そうかぃ。上手いもんだ」「そう言ってくれると、おっかさんも喜ぶよ。先月からはおっとさんも病にかかっちまってるもんだから、娘のあたしに世話掛けるって、二人してふさぎ込んじまってるからね」 禍の病により、仕事を失う者もいれば、生活が立ち行かなくなる者もいる。病が進めば先祖返りの恐れもある。そのため、それまで自活できていたのに、罹患したせいで暮らしがままならなくなり、家族に扶養されなくてはならなくなる。それを、後ろめたく思う者も少なくはないという話なのだろう。 楓は話を聞きながら手許の簪を握りしめ、うつむく。自分がもしこちらに来てすぐに神事を行えていれば、彼女の両親はそう思わずに済んだかもしれない……「もしも」の想像の域を出ない話ではあるが、申し訳なさを覚えてしまう。「……ごめんなさい」 つい口をついて出た言葉に、娘はきょとんとし、「うん? 何で兄さんが謝るんだぃ?」と首を傾げる。 楓が神子様であることは関係者以外に知られては、治療をして欲しいなどと持ち掛けられて騒ぎになりかねないため、伏せておかねばならない。それでも罪悪感に耐えかねて口をついて出た言葉に、楓は慌てて口を塞ぎ、弱く笑って言い訳する。「あ、えっと……当たり、出しちゃったから……勿体無いなぁって思って……」「っははは。いいんだよぉ、もらってくんなよ。ウチの店で当たったらこんないいもんもらえるよって触れ回ってくんな」 娘が明るくそう笑ってくれたので、楓は改めて礼を言って店をあとにした。手許に握られた簪には小さな鈴もついていて、歩みに合わせてささやかな音を奏でる。それはまるで、自分の不甲斐なさに沈む楓の心を慰めているかのようだ。「禍の病にかかっている人って、仕事が出来なくなっちゃったりして、大変なんだね……」
last updateLast Updated : 2025-09-13
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*十一 湯あみでの気付き

 町を散策した日を境に、三人の距離は一段と近くなった気がする。特に顕著なのが入浴時だ。「さて、楓さま。御手をあげてくんな。垢すりをしてやるよ」 普段通り、体を洗うのは松葉の役割なのだが、そのやり方がこの頃少し変化してきている。以前であれば、石けんを泡立てて手ぬぐいにこすりつけ、それで身体を洗ってくれていた。 しかしこの頃は、手ぬぐいを用いない。松葉が泡を手に取り、それで楓の体を擦ってくるのだ。 泡をまとった松葉の大きくな手のひらと長い指先が、楓の肌を滑っていく。その感触が、くすぐったくてつい、楓は笑いをこぼしてしまう。「っふふ、くすぐったいよ、松葉」「ほれ、そんな動かねえでくれよ楓さま。擦れないだろう」「っふ、ン、ッあ」 不意に抱き寄せられ腕の中に納まり、その指先が胸元や腹のあたりに触れる。性的な意味合いはないはずなのに、不用意に触れられて声が漏れてしまう。 楓は慌てて唇を噛み、声を漏らさぬように堪えるのだが、松葉はそんな様を知って掠らずか、構わず抱きすくめたまま肌を擦ってくる。「今日は表に出ただろう? よぅく洗っておかねえとな……」「ン、ンぅ……ッは、ンぅ……」 本当に、楓が漏らす声に気付いていないのだろうか、と思うほどに、松葉の手は楓の体の隅々に触れてくる。それも丁寧に執拗なほどに。 いやらしい意味はないはず、これはただ体を洗っているだけ……そう、楓は自分に言い聞かせはしつつも、頭のどこかでは、「でも、この共同生活はやがて参院でセックスをするためのものでしょう?」と、問いただしてくる考えもちらつく。そうしてそれはやがて、楓の花芯をゆるく勃ち上がらせていくのだ。「っふ、ンぅ……ッは、ン……」 堪えているはずの口元がほどけ、つい、声が漏れてしまう。ギュッとそのたびに身体を硬くすると、ほぐすように松葉の指が肌に触れてくる。それが一層、楓を甘くとろかせていくのに。 ぎりぎりと耐えながらうつむく楓の耳元で、松葉が濡れた声で囁く。「どうした、楓さま……体がどこもかしこも真っ赤に熟れてるぜ?」
last updateLast Updated : 2025-09-14
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*十一ノ二

「あ、なに?」「何かお悩みですか? 随分と難しい顔をされて……松葉にないやらよからぬことを?」 常盤が心配そうに、そして若干忌々し気に、脱衣所の奥で水を飲んでいる松葉を見やり尋ねてくる。 松葉があらぬ疑いをかけられていると気付いた楓は、慌てて首を横に振り、そうじゃないと告げた。「そうじゃないよ、全然。ただその……僕らは、その内……まぐわい、しなきゃなのに……恥ずかしと言うか、いやらしい気持ちになってしまって……それがなんか、いいのかな、って思っちゃうんだ」 神事に寄って治癒力を目覚めさせ、禍の病に苦しむ人々を救う。それが、楓がこの世界に呼び出された理由であり、意味でもある。 でもそのためには二人とセックスをしなくてはならない。神事の一部であるとわかっていても、快感を伴うことに変わりはない。それを覚えることや、そもそもそうするために三人至近距離で過ごすことが後ろめたく思われ、どうしたらいいかわからなくなるのだ。 ぽつりぽつりと話す楓の許に、身支度を整えた松葉もやってきて、常盤と並んで膝をつき、話を聞いている。楓もまたいつの間にか身支度を整えられていて、すっかり清められた体になっていた。 身支度の仕上げに、妖力で熱を発して濡れ髪を左右から乾かしながら、松葉と常盤はそれぞれに口を開く。「神事とは言え、まぐわいなんだから、いやらしい気持ちになって当然だろうよ。それのどこが悪い」「交わりは快くなればなるほど効果があると聞きます。神子様に快くなって頂き、より力を発揮して頂くのも、我々の務めなのです」 金色の瞳と、青い瞳がそれぞれやさしくほどけて楓を見つめている。そこには怖気づくほどの獰猛さはなく、優しい彼らのぬくもりがあった。「……じゃあ、そんなに悪い事だとか、思わなくていいってこと?」「無論だ」「もちろんですとも」 二人が声を揃えてうなずいてくれたことで、楓の中の不安の種が、一つ消えた気がする。懸念とまで行かないが、心に引っ掛かっていたそれが取れ、また一つ緊張が解けていく。 ほうっと息を吐く楓の頭と襟足の当たりを松葉が
last updateLast Updated : 2025-09-15
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*十二 二度目の初めてのまぐわい

 整えられた閨へ入ると、まず松葉がぎゅっと楓を抱きすくめた。風呂で温められただけではない、昂った体温を背中越しに感じる。 そうして今度は常盤が楓の前に立ち、身を屈めて口付けてくる。深く、舌を絡ませるそれは、たちまち四肢の力を奪っていく。「ン、ッふ……ッは、あ……」常盤の口付けで足腰が立たなくなってきた楓を、松葉が抱きすくめ支える。松葉に身を任せつつ常盤からの快楽を受け止めていると、するりと裾をめくられていく感触がした。「ッあ、ン……」 露わになった楓の下肢には、何も身に着けていない。閨に入る時のしきたりで、いかなる時でも下着の類いはつけないことになっているからだ。 無防備にさらされた下肢の線を、松葉がゆっくりと指を這わせてなぞり、やがて楓の窄まりに行きあたる。 入り口の辺りに指が宛がわれ、丁寧に解され始めると、常盤からの口付けも激しさを増し始め、いよいよ脚に力が入らなくなる。爪先立って堪える理性をそそのかすように、ぐっと後孔に触れる指が中へ挿し込まれ、口中の舌が上あごをなぞった。「ン、ンぅ! ん、ンぁ、あ、ンぅ!」 与えられる快楽を逃したいのに、まだそれが許される気配はない。呼吸も儘ならず、体も甘く痺れ始めている。でも、それが苦痛ではない。(この前はあんなに怖かったのに……今日は、全然怖くない……むしろ、気持ちがいい……) 相変わらず、行為の主導権は松葉や常盤の方にあるのだが、楓の中で、彼らに一方的に快楽を与えられることが、苦痛や恐怖から快楽に変わった瞬間だった。 だからなのか、それまでぎゅっと握りしめ縮こまっていた腕を、自然と伸ばし、左を松葉の方へ、右を常盤の方へ絡ませていたのだ。「ン……まつ、ば……とき、わ……」「楓さま、痛いとこはねえか?」「お嫌なことはありませんか?」 様子を尋ねてくる二人の目が普段とは違った色合いをしている。飴のようにとろけて、楓だけを映し出している。それが、なんと喜ばしい気持ちにさせられるのだろうか。 楓は二人の言葉にゆるゆると首を振り、はくはく
last updateLast Updated : 2025-09-16
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*十二ノ二

 意識を手放してから、どれくらい眠り続けていたのだろう。全身が甘く気だるく、寝返りを打つこともツラい。 重たく鈍く痛む全身をどうにか転がし、薄く開けていく視界を開いていくと、見慣れた白木の天井が見えた。 自分は確か昨夜、松葉と常盤と、初めてセックスをしたのだった……そう、ぼんやり思い返していると、「おう、お目覚めになったな」と、松葉が顔を覗き込んでくる。「……まつば?」 思っている以上に声が嗄れていて、驚いて口許を押さえていると、「お目覚めになりましたか」と、常盤も視界に映り込んでくる。二人はきちんと普段用の着物を身に着けていて、体もさっぱりと清潔になっている。どうやらまた風呂を浴びてきたようだ。「常盤……僕、気を失ってたの?」「ええ、いまは朝餉の時分です」「え! 嘘……ったたた……」 思っていた以上に眠っていたことに驚いて体を起こそうとしたが、想定以上に全身が軋むように痛い。特に、腰のあたりの鈍痛がひどく、体を折り曲げることも難しい。 起き上がろうとして崩れそうになる楓を、松葉と常盤が慌てて支え、そっと背を撫でてくれる。「ああ、無理に起きないでくれ。昨夜が、結局また無茶を強いちまったからな……」「そうですよ。松葉が遠慮なく押し通したりするから、無理が来たんですよ」「よく言うぜ。常盤だって楓さまに随分無理に咥えさせてただろうが」 昨夜の様子を思い起こさせるような言い合いが始まり、楓は恥ずかしさで居た堪れなくなってその場にうずくまって布団に顔をうずめる。穴があったら入りたい、とはこのことかというほどに恥ずかしい。 一つ言えることがあることすれば、二人がともに楓に無理を強いたわけではなく、夢中になるほどに楓自身も快楽に溺れたということだろう。「ぼ、僕は……どっちにも、無理にされたとは、思って、ない、よ……その……どっちも、気持ち良かった、し……」 顔から火が出るほどの仲裁の言葉を口にすると、二人はぱたりと言い合いをやめ、顔を見合ってゆるりと微笑む。そうして松葉が肩を抱くようにし、常盤がそっと手を取る。
last updateLast Updated : 2025-09-17
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*十三 初めての治療

 遅い朝餉と早めの昼餉を合わせたような食事を終えてから、楓は常盤と共に診療所を訪れた。 そこはいわゆる、人間界で言う病院と、少し様子が違うようだ。「患者の診察は主に私と、そちらの桃花、そして千歳が行い、薬の処方は、芙蓉、夕顔が行っております」 皆一様に白い着物に紺色の袴を身に着けており、犬や猫、兎の耳や尻尾を生やしている、いずれも常盤のように二十代後半から三十代後半にかけての、比較的若い者ばかりだ。「皆さん、結構若い方が多いんだね。爺様のようなベテランの人ばかりかと思ってた」「熟練の方々の多くは、いま現場よりも禍の病の根源を調べる研究をされています。蓄積した経験と知識から得られる情報も多いですから」 診療所にはこのほかに十名弱の助手と呼ばれる者たちが勤めていて、看護師と言った位置づけと言える。 診察は朝餉が終わった頃から昼餉まで、それから昼餉を終えてから日が暮れるまで、おおよそ四時間ずつ行われているという。「治療は、主に妖力を用いる妖術によるものと、薬によるものの二種類、もしくはその両方になります」「妖術による治療ってどうやるの?」 楓がイメージするのは、患者をベッドに寝かせ、文言や呪文を唱えて念を贈ったりするようなものなのかと考えていたが、常盤によれば少し違うという。「術と、申しますが、これと言った文言が必要なのではありません。簡単に言いますと、患者に巣食う病の素を、手をかざして探り、そのまま患部に手を宛がって霧散させるのです」「霧散させる……消しちゃうってこと?」「そうですね、病の素が身体の中から消え去るとも言えます。閊えていたり塞いでいたりしたものが、たちどころになくなるのです」「そうなんだ……ケガの場合は、どうなるの?」「ケガの場合は、よりわかり易く、みるみるまに傷口がふさがっていき、元の通りになるのです」 言葉ではなかなかイメージがつきにくい説明だが、人間界で言うならば奇跡としか言えないことを、ここでは治療として施すという。
last updateLast Updated : 2025-09-18
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*十三ノ二

「では楓さま、この方の頭の辺りに手をかざしてください。そして、心の中で楓さまが思う“手当て”を想像してみてください」 常盤に促されるままに男性の額の少し上あたりに手をかざし、楓は目を閉じて“手当て”する光景を想像した。 手当ては、人間界では文字通りこうして患部に手をかざし、治って欲しいと願いつつさすったことが発端だと聞いたことがある。楓はその光景を思い浮かべた。 頭の中に、暗い空間が浮かび、その中空に濁った靄のような塊が浮かんでいる。楓は想像の中でそれに触れ、まずは散らしてみるが、すぐに元に戻ってしまう。 どうしたものか……と、思案した楓は、それから手のひらに力を込め、熱を発することを念じてみた。想像の中で、楓が手のひらから熱を発すると、靄はゆるゆると薄くなり程なく消えてしまったのだ。「……消えた」 靄が消えた瞬間、楓が呟いてそっと目を開けると、ぼんやりと手のひらが熱く感じる。手のひらを見ると、じんわりと汗をかいていた。「なにが消えたんですか?」「何かくらい所に靄みたいなのがあって……手をかざして、熱を放ったら、消えたんだ……」 いま脳裏に浮かんでいた光景を説明すると、常盤をはじめとする診療所の者達が顔を見合わせ、うなずいている。何事かあったということなんだろうか。 楓が不安げに常盤らの様子を窺っていると、常盤が男性に尋ねる。「お加減はいかがですか? 妖力の気配を感じますか?」「ここ数日の中で一番スッキリしてます……なんと言うか、腹に力が入るんです」「ふむ……ならば、これに火を点してみてくれませんか? 妖力が戻っているならば、可能なはずですから」 常盤はそう言いながら、一本の蝋燭を手渡す。妖力が戻っているなら、火を点けられるという。 男性は蝋燭を受け取り、じっと見つめる。その様子を、更に楓らが固唾をのんで見守っていた。 どれほどの沈黙が漂っていただろうか。重苦しく、永遠のように長いそれは、じりっという蝋燭の先端に火が点り、白い煙が細く上がることで破られた。「……ついた!
last updateLast Updated : 2025-09-19
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*十四 初心を思い出して

 初めての治癒力の発揮が成功したことを、その晩松葉に報告をすると、たいそう喜んでくれた。流石は神子様だと褒め称え、抱きしめて大袈裟なほどの喜びようで。 だが、それと同じくらいに引っ掛かることもあるようで、先程からずっと膨れている。「しかしなぁ……その瞬間を常盤だけが見てた、ってのが気に喰わねえな……商談がなけりゃ俺だって立ち会ったのに」「私だけではありませんよ。診療所の他の物たちも一緒です」「だったらなおのこと気に喰わねえよ! あえて俺がいない時を選んだんじゃねえのか?」「そんな陰湿なことはしません。勘ぐりすぎです」 自分がその瞬間を目撃できなかったことが気に喰わないらしく、夕餉を済ませ、風呂に入り、閨へ入ってなお機嫌が良くない。ぶつぶつと文句を言う松葉に、常盤は呆れて溜め息をつく。「松柏一の色男と言われたあなたが、ただ一瞬の、それも色恋に関係のない出来事を逃したぐらいで、随分と器が小さいことを言うんですね」 常盤の皮肉めいた言葉に、松葉がカッと尻尾の毛を逆立て睨みつけるも、常盤は知らぬ顔をしている。楓は傍で様子をはらはらと窺いつつも、あの約束を口にする。「ふ、二人とも、ケンカはしないって約束でしょ」「ケンカじゃねえよ、楓さま。こいつが俺の気に喰わねえことを、いけしゃあしゃあと言いやがるのがいけねえんだ。俺ぁ悪くない」 ふん、と子どものようにそっぽを向く松葉に、楓はどう言葉をかけるか迷っていると、「放っておけばよいのですよ、幼子の難癖なんですから」と、常盤が苦言を呈する。その顔は眉一つ動かさぬ涼しげな顔をしていて、それがきっと松葉の神経を逆なでするのだろう。 ここしばらくは距離が近づき、仲が良くなったかのように見えていた分、不可抗力で生じた出来事をきっかけとする亀裂は、なかなかに手ごわい。(僕との約束は、あくまでケンカをしないこと、だから……仲良くしなくてもいいだろうと言われればそうなんだけれど……でも、それじゃあこの先が思いやられる……) 力を発揮し、治療を施していく機会はこの先もいくらでもあるはずだし、そのためには三人肌を重ねる機会も増
last updateLast Updated : 2025-09-20
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*十四ノ二

 またしても、「ストップ!」という、こちらの世界にはない言葉で割って入られた二人は、勢いを削がれて振り上げかけた拳を下ろしていく。「松葉も、常盤も、なんでそんなにすぐケンカしようとするの? 僕、前も言ったよね、ケンカはしないで、って。約束したんじゃなかった?」「だってよぉ、楓さま。この腹黒狐が」「楓さま、こんなバカ狸の言い分など聞いてはなりません」「なんだと?!」「そっちこそなんですか!」「いい加減にして!!」 交わした約束も忘れ、いまにもつかみ合いのケンカを始まりかねない二人に、ついに楓が声を張り上げた。普段、どちらかと言うと、まだ神子様として頼りなさや、二人に対する遠慮が見える楓のいつにない様子に、松葉と常盤がポカンと口を開けて手を止める。 驚きを隠さない二人の呆けた表情を前に、楓はひとつ息を吐いた。その吐息には怒気が含まれて熱くさえ感じる。「あのさ、二人は、何のために僕をこの世界に呼び寄せたの? 禍の病に苦しむこの国の人たちを救いたいからじゃないの?」「…………」「…………」「僕ね、今日初めて実際の患者さんに会って、どれだけ禍の病で大変なのか、初めてちゃんと知ったんだ。松葉や常盤、爺様に聞いてたより、うんと、事態が深刻なんだって、いまさら、やっと気づけた」 住んでいた世界にはない、それでいて暮らしの根幹にかかわる深刻な病。言葉での説明で何となく理解をしていたつもりでも、実際に苦しむ者の話を耳にするまで、本当にそんな病があるのかさえ実感できなかったところもあったのだ。 その上、治療法はセックスで力を目覚めさせたことによる治癒力を施すこと――そんなことを真顔で言われて、信じていなかったことも大きい。実際にセックスをしたけれども、それによって本当に力が自分の中で目覚めているのかもわからないのだから。「でもね、診療所で実際に患者さんに治療をして、患者さんが妖力を取り戻して蝋燭に火がつけられて、すごく喜んでたのを見て――僕がどれだけこの世界で必要とされているのか、気付かされたんだ」 楓の手を握りしめ、泣きながら何
last updateLast Updated : 2025-09-21
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*十五 それぞれの想い、それぞれへの想い

 神事である三人での交わりへの緊張は、日や回数を経るごとに薄まっていき、最近では閨に入れば自然と楓から口付けを求めるようになっている。 自ら脚を開くことにはまだ抵抗がないとは言えないが、それでも、二人に体を暴かれていくことに対する恐怖感は、いまはほとんどなくなっているとも言えた。「楓さま、水を飲むかい?」 行為を終えた真夜中、すっかり闇に包まれた閨の中で、甘くくたびれた吐息交じりに松葉が水差しを手渡してくる。「うん……ありがと、松葉」 薄く甘い味がする水差しの水は、激しく求め合った体にすぅっと沁み込んでいく。嗄れた喉がうるおされ、楓は小さくほっと息を吐く。 楓がそうすると、松葉は水差しを受け取り、それから濡らして硬く絞った手拭いで体を清めてくれる。その手付きは、先程までの荒々しさを感じるような抱き方とは対照的に、やわらかくやさしい。 汗や精液にまみれた腹部や胸元、額や頬に至るまでを、松葉は丁寧に拭き上げてくれる。行為中とは打って変る松葉の様子に、楓はいつも胸が甘く騒いでしまう。ただやさしく丁寧に扱われたことに対する喜び、とするには少し甘味が強い。「さ、終わったぜ、楓さま」「ありがと、松葉」 清められてスッキリした顔で楓が微笑み礼を言うと、松葉はくすぐったそうな顔をして、「……ああ」とだけ答える。一見ぶっきら棒にも見える態度だが、それが不快感でないことは、楓にもわかっている。だけど、何故普段のように、大きく微笑んで応えてくれないのかが、気にかかりはするのだが。「清め終わりましたか、楓さま」 体を清め終わる頃になると、見計らったように常盤がまっさらな寝間着を手に閨に現れ、手ずから着替えを手伝ってくれる。「楓さま、お疲れではありませんか?」「うん、平気だよ。明日も、診察でしょう?」「ええ。この所は楓さまの治療の評判が広まっているのか、患者が多いですからね」「そいつぁありがてえ話だな。でもよ、楓さま、無理だけはするなよ」 虎耳の男性患者の一件から、徐々に禍の病の治療の評判が巷に広がり始めているらしく、
last updateLast Updated : 2025-09-22
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