「へぇ、凝ってるねぇ。お前さんの手作りかぃ?」 的屋の娘に松葉が問うと、娘は違うと首を振り、寂し気に苦笑して答える。「いいや、おっかさんの手慰みさ。禍の病のせいで仕事ができないから、気持ちがくさくさしちまうって言うから、千代紙でなんか作んなよって言ったらこれをこさえてくれたんだよ」「……へぇ、そうかぃ。上手いもんだ」「そう言ってくれると、おっかさんも喜ぶよ。先月からはおっとさんも病にかかっちまってるもんだから、娘のあたしに世話掛けるって、二人してふさぎ込んじまってるからね」 禍の病により、仕事を失う者もいれば、生活が立ち行かなくなる者もいる。病が進めば先祖返りの恐れもある。そのため、それまで自活できていたのに、罹患したせいで暮らしがままならなくなり、家族に扶養されなくてはならなくなる。それを、後ろめたく思う者も少なくはないという話なのだろう。 楓は話を聞きながら手許の簪を握りしめ、うつむく。自分がもしこちらに来てすぐに神事を行えていれば、彼女の両親はそう思わずに済んだかもしれない……「もしも」の想像の域を出ない話ではあるが、申し訳なさを覚えてしまう。「……ごめんなさい」 つい口をついて出た言葉に、娘はきょとんとし、「うん? 何で兄さんが謝るんだぃ?」と首を傾げる。 楓が神子様であることは関係者以外に知られては、治療をして欲しいなどと持ち掛けられて騒ぎになりかねないため、伏せておかねばならない。それでも罪悪感に耐えかねて口をついて出た言葉に、楓は慌てて口を塞ぎ、弱く笑って言い訳する。「あ、えっと……当たり、出しちゃったから……勿体無いなぁって思って……」「っははは。いいんだよぉ、もらってくんなよ。ウチの店で当たったらこんないいもんもらえるよって触れ回ってくんな」 娘が明るくそう笑ってくれたので、楓は改めて礼を言って店をあとにした。手許に握られた簪には小さな鈴もついていて、歩みに合わせてささやかな音を奏でる。それはまるで、自分の不甲斐なさに沈む楓の心を慰めているかのようだ。「禍の病にかかっている人って、仕事が出来なくなっちゃったりして、大変なんだね……」
Last Updated : 2025-09-13 Read more