ただ手をこまねいて事態を見ているしかできない現状に、楓は歯がゆさを隠し切れない。ぐっと拳を握りしめ、爺様に尋ねる。「あの、やはり、禍の病は何が原因になっているかとか、どこから来ているのかとかは、わからないままなのでしょうか?」「それなのだが……このところ、瘴気に似たものが北の方から流れていることがわかりましてな……」「しょうき……?」 耳慣れない言葉に楓が首を傾げると、「熱病を起こさせる、山や川からの毒気でございます」と、桃花が補足してくれる。 瘴気は診療所にある、特別に囲われた澄んだ井戸水の濁りによって感知されるらしく、ここのところその濁りが濃いのだという。 あまりいいものでないことだけは確かなようで、楓はジッと爺様の言葉の続きを待つ。「ただの瘴気であれば、我らの妖力で打ち消すことができるはずなのですが……どうも、そうではないもののようなのです。何せ、濁りの度合いが深い」「それが、今回の禍の病の素、って言うことですか?」「恐らくは、そうであろうという見立ては多く挙がっております。実際のところ、ここより北の町は、町の七割ほどが禍の病にかかっており、町が立ち行かなくなっているとも聞いております」「七割……!」 想像するだけで恐ろしい数字に、楓は血の気が引く思いだ。このままではきっと、この辺りもそう遠くない未来に、同じようになってしまいかねないからだ。「では、やはり北の山々に入った誰かが、瘴気を連れてきた、ということですか、爺様」「最初は、そう考えていたのだが……それにしては遠く離れたこの辺り一帯、更にここより南の町でもかかっているものが出ている。風に乗って病がうつされているのかとも考えたが……その割に、発病した者たちの間に、通じるものがないというのだ」 行動範囲や生活スタイルに共通項がない感染例があるということだろうか……と、楓が考えていると、爺様は更にこう続ける。「だから、儂らは病の素は、その瘴気なのだろうと思うております」「瘴気が元になっている……じゃあ、その瘴気を失くせばいい、ということで
Last Updated : 2025-10-03 Read more