チョコレート色の毛玉のようなぬくもりが、楓の腕の中に飛び込んで、小さな尻尾をちぎれんばかりに振っている。太く短い愛らしい前足は、楓の胸元に踏ん張るように押し付けられ、そうして懸命に楓の頬や鼻先を舐めている。それはまるで、あらん限りの友愛の情を示しているようだ。「ッはは、くすぐったいよ。よしよし、いい子だねぇ。ワンチャンのお名前、なんて言うんですか?」「チョコです。すみません、お顔とか大丈夫ですか?」 チョコの飼い主であるらしい女性は、楓にまとわりつく愛犬の様子に戸惑いが隠せず、恐縮している。ほんの数分前に出会ったときは、こんなに懐くなんて思っていなかったからだ。 すでにチョコの唾液でべたべたになっている頬や鼻先を気にする素振りもなく楓は微笑み、答える。「ああ、大丈夫です。僕、慣れてるんで」「ごめんなさい、普段ならこんなによその方に懐くことなんてないんですけど……お兄さんはやさしそうだから、好きになっちゃったのかしらねぇ」「そうなんですか? 嬉しいなぁ」 べつにこの言葉は、お愛想でもおべっかでもない。実際楓は、無類の動物好きで、こうして通りすがりの散歩中の犬や、地域ネコなどに好かれて寄って来られるのも珍しくはない。 十分近くじゃれ合ったのち、チョコとその飼い主の女性と別れた楓は、少し離れたところで見守っていた友人に手を振る。「ごめん、待っててくれて」 これから揃って大学に講義を受けに行こうと話していたのだが、その途中で先程のチョコというプードルの子犬に熱烈に好かれてしまったので、相手をしていたのだ。 友人は苦笑しつつも特に怒った様子もなく、ゆるく首を振る。「いいって。牧野が動物に好かれるのも、スキンシップ過多なのも有名な話だし」「スキンシップ過多……僕はそういうつもりないんだけどなぁ」「あれだけ触れ合っといて無自覚かよ。ムツゴロウさんの生まれ変わりだな」 楓が動物に好かれるのは、楓自身のぱっちりと愛らしい大きな目許に小さな作りの鼻や口元、色白で華奢な背格好という、かわいい系な容姿も手伝って、大学
Last Updated : 2025-08-26 Read more