夜明けとともに、松葉は仕事があるために店に戻ってしまう。だから朝餉は基本的に常盤と二人で取ることが多い。 妖力は、人間界で言うエネルギー源として用いられるというが、より強い妖力を保持していると、妖力を使って調理や洗濯などの家事もこなすことができるという。「お待たせいたしました、楓さま。朝餉でございます」 使用人がほとんどいないこの屋敷では、朝餉の用意も常盤自らが行う。 医師のような仕事をしているという割に、常盤は料理が上手い。朝からきちんと出汁が利いた具沢山の汁物に卵焼き、焼き魚にふんわりと炊けたごはんは、楓がかつて食していた食事よりもはるかに美味しい。「卵焼き、美味しいよ、常盤」「それはようござました。今朝はシラスを入れてみたのです」 穏やかに箸を運び、にこやかにしている常盤だが、診療所ではきりりと音がしそうなほど厳しい一面も見せる。 楓にこそ屋敷の時のように穏やかに接してはいるものの、それでも口調は淡々としているし、見ようによっては冷たく感じられることもある。子どもの患者などは常盤が怖いと言って、女性である芙蓉らに診てもらいたいと言い出すこともあるほどだ。 この所の座学は、神事に関することから禍の病に関することにも及ぶようになり、内容に厳しさを感じることもある。しかし同時に、医師である常盤の強い想いも感じる。 だから余計に、診療所で敬遠されるのがおしい気がするのだ。「ねえ、常盤。どうして診療所ではあんまり笑わないの? 家にいる時みたいに、少し笑ったりすればいいのに」 そうすれば、もう少し患者に好かれるのでは? とまでは口にしなかったが、暗にそう言っていることは、きっと常盤も察しているだろう。 しばらくの間黙々と箸を運び、常盤が小さく息を吐いた。「松葉にも、同じことを言われたことがあります。“お前は顔が硬すぎる。だからガキが怖がって診療所に来にくくなる”と」「そうなの?」 ではどうして、それでも改めないのだろうか。楓がさらに問おうかどうか迷っていると、常盤はフッと小さく苦笑し、「どうにも。それはできないの
Last Updated : 2025-09-23 Read more