ジッと黙したままでいると、ふと、爺様が「そうですなぁ……」と呟く。「昨夜はこちらに招いて早々に神事を行ったことが、色々ごたついた原因かもしれませぬなぁ……」 昨夜のトラブルを振り返っての言葉に楓は身を硬くする。あの様子を知らされて、呆れられているのではと思ったからだ。 とはいえ、松葉と常盤も背負うものがあるからこそ、課せられたものを果たさねばという気持ちが強いのだろう。それゆえの強引さであったとは、いまならば考えることもできる。 ならばどうすれば……と、一同が考えに耽っていると、「ならば、」と、輪の中の一人が声をあげる。声の方に振り返るとそれは、松葉の声だった「ならば、俺と常盤、そして神子様で一緒に暮らしゃいいんじゃねえのか?」「一緒に、暮らす? 寝食を共にする、ということですか、松葉」 常盤の言葉に、松葉は大きくうなずき、更に言葉を続ける。「神子様はこっちの世界のことは何にも知らねえんだし、なにより俺のことも常盤のことも知らねえ。そんな状態で、おぼこな神子様にまぐわえなんざ無体じゃねえのか、って俺は思ったんだよ」 昨夜の取り乱しようを目にした上での松葉の見解に、常盤が同意するように頷いている。「それには私も同じ考えです。我々が神子様の御気持ちを考えず、神事を行おうとしたことが、昨夜の騒動の発端にもなっているのでしょうから……それならば、やはり、松葉の考えは一理あるかもしれませんね」 神事の実行役である二人の意見が一致していることと、なによりその内容の効果を期待出来る可能性があるからか、爺様は腕組みをしてしばらく考え、そうして口を開いた。「儂も、松葉や常盤が言う話が善いように思えるのですが……神子様は、いかがお思いになりますかな?」 不意に意見を求められ、一斉に一同の視線が注がれる。 自分なんかが意見していいものだろうかという戸惑いもあるが、ここで一言でも何か言っておけば、昨夜のような事態は避けられる気もする。しかし、何をどう言えばよいのかがわからない。 無防備な身体を曝すのであれば、相手のことを知らないのは恐怖
Last Updated : 2025-09-03 Read more