慌てたまま、私はよろよろとベッドを降り、そのまま早足で寝室を出た。リビングを抜けると、ふわっとするお米の香りが鼻をくすぐる。キッチンの入り口まで行くと、グレーの部屋着を着た高司が、鍋の中をゆっくりとかき混ぜていた。夕陽がブラインド越しに彼の体に差し込み、穏やかな輪郭を浮かび上がらせている。いつもの近寄りがたい雰囲気が消えていて、言葉にしづらいけれど、妙に家庭的な感じをまとっていた。物音に気づいたのか、彼が振り向き、落ち着いた視線を私に向ける。「起きたか?」その瞬間、頬が一気に熱くなり、気まずさでどうしていいかわからなくなる。口を開いたが、服のことはどうしても聞けなかった。「服は、家政婦を呼んで替えてもらった」私の考えを見抜いたように、彼が先に説明した。その口調は自然で、ごく普通のことのように聞こえた。「熱があっただろ。濡れたままじゃよくない」「あ……ありがとうございます、高司さん」しどろもどろに礼を言いながら、私は緊張でシャツの裾をぎゅっと握っていた。彼のシャツは私には大きすぎて、膝のあたりまで隠れている。露出しているわけでもないのに、なぜか落ち着かない。高司の視線が数秒、私の上に留まる。その目は深くて、何を考えているのか読み取れない。そのとき、インターホンが鳴った。彼はそのまま玄関へ向かい、やって来たのは助手の亮介だった。手には袋を提げている。「高司さん、頼まれていた服と薬です」亮介はそれを差し出し、私の方をちらっと見て、すぐに目を逸らした。彼が帰ったあと、高司は袋を私に渡した。中には新品のレディース服と、解熱剤が入っている。今の私は、とにかく早く着替えてここから離れたい一心だ。ところが、服を手にして寝室へ行こうとした瞬間、高司に呼び止められる。「先に薬を飲んで。鍋のお粥ももうすぐできる。食べてからにして。俺、残されるのは好きじゃない」有無を言わせない口調に、私は観念してダイニングテーブルに座った。心の中で必死に自分を落ち着かせる。――相手は年上だし、祖父の縁で面倒を見てくれてるだけ。何を変なこと考えてるのよ。小説書きすぎて頭おかしくなってる……そうしている間に、高司がよそった梅入りのお粥を私の前に置いた。米はとろとろになるまで柔らかく煮えていて、ほのかな梅の酸味が立っている。
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