9月の週末、僕は自分の部屋でノートパソコンに向かっていた。外はまだ夏の陽射しが強いが、部屋の中はエアコンが効き、少し肌寒いくらい。菖蒲は今日も撮影で出かけてるし、遥花は買い物に出ている。悠真は、会社で忙しいみたいだ。僕はずっと『Phantom Guard』の運用に没頭していた。このアプリは、ネットの闇から大事な人を守るためのものだ。一般的なアンチウィルスソフトは、敵の攻撃から自分を守るだけ。このアプリが違うのは、攻撃してきた敵に、ごくごく小さなデータを送り返せることだ。データそのものは別に大したデータじゃない。けれど、例えるならそれは小さな植物の種のようなもので、敵が持ち帰った先で芽吹き、そこから養分を吸い取るように敵の情報を収集することができる。かつて僕が作ったアプリ『Sweets Filter AI』も、少しは会社の役に立った。でも、それだけじゃ足りない。もっと強い武器が必要だ。だから、『Phantom Guard』を完成させた。ステアリンググループの機密データにアクセスを試みていたのは、女性社員である“Tsubaki Enjoji”であることはわかっていた。しかし、どうしても違和感があったのだ。彼女は果たしてハッカーなのだろうか。ハッカーであれば、わざわざ自分のフルネームを明確にしながらアクセスしてきた意味がわからなかった。ひょっとしたら他の第三者が、“Tsubaki Enjoji”の端末を経由して、完全に正体を隠しながらアクセスをしかけてきているということもあり得るのではと考えたのだ。そこで『Phantom Guard』の出番だった。一月前からそれが彼女の端末に種を落とし、芽吹いた。再び彼女がアクセスを試みたとき、にょきにょきと伸びた蔓が彼女の腕をとらえ、その手を動かす真の黒幕を探し始めた。 ようやく見つけたのが先週のこと。“Tsubaki Enjoji”の端末に外部からアクセスし、あたかも彼女自身がハッキングしているように見せかけるプログラムが動いていたのだ。このプログラムが何なのか、『Phantom Guard』はさらに追跡をしかける。 そして数日前、ようやくたどり着いたのが、別の企業のものと思われる屈強な門――ファイヤーウォールだった。 何度も突破を試みたが、なかなかガードは堅かった。じきに、敵もこっちの動向に気づいて反撃し
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