All Chapters of 百合な親友と共に双子を育てる離婚妻。元夫とのすれ違い愛には裏があった: Chapter 101 - Chapter 110

113 Chapters

第101章:甘えん坊と“親殺し”*蓮

9月の週末、僕は自分の部屋でノートパソコンに向かっていた。外はまだ夏の陽射しが強いが、部屋の中はエアコンが効き、少し肌寒いくらい。菖蒲は今日も撮影で出かけてるし、遥花は買い物に出ている。悠真は、会社で忙しいみたいだ。僕はずっと『Phantom Guard』の改良に没頭していた。このアプリは、ネットの闇から大事な人を守るためのものだ。一般的なアンチウィルスソフトは、敵の攻撃から自分を守るだけ。このアプリが違うのは、攻撃してきた敵に、ごくごく小さなデータを送り返せることだ。データそのものは別に大したデータじゃない。けれど、例えるならそれは小さな植物の種のようなもので、敵が持ち帰った先で芽吹き、そこから養分を吸い取るように敵の情報を収集することができる。かつて僕が作ったアプリ『Sweets Filter AI』も、少しは役に立った。でも、それだけじゃ足りない。もっと強い武器が必要だ。だから、『Phantom Guard』を完成させた。ネットブロード社のサーバーに侵入して、証拠をつかむ。sophilaの計画を止めるんだ。「よし……これで、いけるはず」僕は深呼吸して、コードを走らせた。アプリが起動し、ネットブロード社のファイアウォールを突破する。画面に、サーバーのデータが流れ始めた。機密ファイル、内部ログ……そして、衝撃的なものを見つけた。「これは……ステアリンググループの機密情報?」反町香澄――sophilaが、悠真の会社のデータを盗み出している。株取引の内部情報、プロジェクトの詳細、社員の個人データ……全部、競合他社に売り渡そうとしてる痕跡だ。メールのログには、海外の企業とのやり取りが残ってる。「これで大道寺家を潰せる」「報酬は十分に出す」――。愕然とした。sophilaは、本気で悠真の会社を壊そうとしてる。どうしてそこまでのことを?さらに奥へ進むと、もっと恐ろしいものを見つけた。「僕と……菖蒲の、個人情報?」学校の記録、写真、住所、遥花のスケジュール……全部、詳細に収集されてる。脅迫材料だ。sophilaは、僕たちを脅して、悠真を屈服させようとしてる。「どうして……sophila、なんでこんなこと……」胸が痛くなった。sophilaは、僕の魂の父親だと思ってたのに。遥花を守ってくれた人なのに。なんで、こんなに冷酷なことを?アプリがデータを
last updateLast Updated : 2026-02-10
Read more

第102章:筆談とこじつけ*蓮

翌日。朝の陽射しが部屋に差し込んでいた。僕はベッドから起き上がり、すぐにノートパソコンを開いた。昨夜完成させた『Phantom Guard』の最終改良版。今日はこれを悠真に報告する日だ。リビングへ降りると、遥花が朝食を準備してた。菖蒲はまだ寝てるみたい。悠真は総帥として早朝から出かける日が多いが、今日は休みだと言っていた。「おはよう、蓮。今日はお父さんも一緒に朝ごはんよ」遥花の笑顔は、優しい。彼女に不倫の疑いがあることを思って胸が落ち着かないが、今はそれどころじゃない。悠真がスマホを見ながらリビングに入ってきた。「おはよう、蓮。遥花」「おはよう、悠真――父さん」僕はノートパソコンを抱え、テーブルに座った。悠真がコーヒーを飲みながら僕を見た。「蓮、どうした? 大事な話があるって、昨夜チャットで送ってきてたが」僕は、深呼吸した。「うん。『Phantom Guard』、完成した。ネットブロード社のサーバーに深く侵入できた」悠真の目が鋭くなった。「本当か? 何を見つけた?」画面を見せた。sophilaが盗み出したステアリンググループの機密情報。株取引の内部データ、プロジェクトの詳細。そして、僕と菖蒲の個人情報。学校の記録、写真、住所……全部。悠真の顔が、青ざめた。「なんてことを……お前、これもしかして……」悠真が遥花を見る。慌てて悠真の手を取ると、再び僕の方を向いた悠真に、ただ首を振った。「ん? どうしたの、今朝はすごく仲良しじゃない」そののほほんとした様子に悠真も気づいたのだろう。スマホの画面に向かい、“ママには何も伝えていないんだな?”とメッセを送ってきた。“そうだよ。このことは僕以外、誰も知らない。今、悠真に初めて打ち明けている”“お前、これは刑事事件だぞ。ネットブロード社を訴えなければ”“そう、これは事件だ。これを訴えれば、反町香澄を止めることができる”悠真は黙ったまま、スマホを持つ手を震わせていた。怒りと、決意。でも、僕は胸が痛かった。“父さん、これで本当にいいのかな”悠真が僕を見た。“どういう意味だ?”“sophilaは僕の魂の父親みたいな人だと思ってた。僕がまだ赤ん坊の頃、倉庫で僕を守ってくれた。遥花や悠真たちのことも守ってくれた。確かに今のsophilaは違う。父さんの会社を壊そうとしてる。僕たちを脅迫
last updateLast Updated : 2026-02-11
Read more

第103章:ザワザワとキスマーク*遥花

椿さんはいつも全力で私を愛してくれた。「遥花さん、あなたのすべてが欲しい」と、涙を流しながらキスをする。彼女の愛は、貪欲で、幼くて、痛いほど純粋だった。「あたしじゃだめですか……あたしじゃ、遥花さんを癒せませんか? かつての、あなたの恋人みたいに」椿さんの告白は突然だった。6月、悠真や子供たちが不在の大道寺家の屋敷で、彼女は私の手を握り、涙を浮かべて言った。あの瞬間、私の心は大きく揺れた。香澄のことを思い出した。あの温かさ、あの切なさ。椿さんの手は香澄の手に似ていた。それから3か月。私は罪悪感に苛まれていた。悠真は今、総帥として会社を必死に守っている。蓮と菖蒲のためにも、私が支えなきゃいけないのに。私は裏切っている。そして蓮も悠真を支えようと、アプリ開発で必死だ。今朝はどうやら、敵のネットブロード社へのアクセスに成功したようだ。それって違法行為では? と心配もしたが、先に不正アクセスしてきたのはネットブロード社らしい。ネットブロード社から反町香澄社長の動画が送られてきたときには、心臓が止まるかと思った。かつて愛した遠藤香澄の面影を持つ彼女。しかし今はまったくの別人だ。「私こそが、真の香澄よ。“過去の香澄”は戻らない。私が、完全な香澄。あなたたちの敵。そして“過去の香澄”は、私だけの物。もう誰にも渡さない、触れさせない」彼女がそう言い放つのを聞いて、悠真は逆にこう言った。「この言い方だとまるで、今でも“渡せるし、触れられる”ものであるような言い方に聞こえないか?」彼は香澄が戻ることを信じて、香澄を目覚めさせる方法を探す方向にシフトした。もしかしたら元の香澄が戻る可能性もあるのかもしれない。けれど私はいまだ半信半疑だ。もう香澄を失ってから9年も経っているのだ。何度も諦めようとしたものにいまだ「希望を持て」という方が馬鹿げている気もしている。私も歳を取った。いつまでも悠真や蓮のように、希望を持って生きることはできない。その生き方に疲れてしまった。「ママ、今日もお疲れ様!」その日の夕食の席で、菖蒲が笑顔で言う。蓮はパソコンをいじりながら、「遥花、今日の夕飯美味しいよ」と褒めてくれる。悠真は遅い帰宅だけど、帰ってくると必ず私を抱きしめてくれる。今は、変な希望に心踊らされたくない。この家族を、壊したくない。そして同時に、椿さんを傷つけたくもない。椿さ
last updateLast Updated : 2026-02-12
Read more

第104章:蘇る霊視*阿左美

【2025年10月】死産してから無くなっていた私の霊感が、最近、少しずつ回復してきた気がする。夫であるコーちゃんの支えが大きい。彼はいつもそばにいてくれる。仕事から帰ってくると、疲れた顔で笑って、「あ~ちゃん、今日も可愛いな」と言ってくれる。妊娠中は体調が悪くて、ほとんどできなかった夜の営みも少しずつ再開している。優しく、ゆっくり、私の体を気遣いながら。「無理しなくていいよ。俺は、あ~ちゃんが元気でいてくれるだけで幸せっスから」コーちゃんの言葉に、涙が出そうになる。あの死産のショックで、私は自分を責め続けた。百合子の霊を現世に引き留めてしまったせいだ。彼女の恨みが、私の子を奪ったんだと。でも、コーちゃんはそんな私を、ずっと抱きしめてくれた。「あ~ちゃんのせいじゃない。俺たちの子は、きっとまた会えるよ」と。その言葉が救いだった。霊視の感覚は、最初は、ぼんやりとしたものだった。でも百合子の霊が、まだ近くにいる気がする。成仏したと思っていた。今日も、コーちゃんが出かけた後、私はベッドで目を閉じた。霊視を試してみる。無理は禁物だけど、少しだけ。深呼吸して、集中する。部屋の空気が、重くなる。冷たい風が、頬を撫でるような感覚。「……百合子さん?」呼びかけてみる。すると、ぼんやりとした影が現れた。百合子の霊だ。彼女の目は、悲しげで、でも強い光を宿している。“阿左美……ごめんなさい。あなたの赤ちゃんを……”百合子の声が、頭の中に響く。「百合子さん、あなた、私の子供を道連れにして成仏したんじゃなかったの?」声に出して尋ねると、こう返ってきた。“ええ。恨みに満たされた魂の一部は、成仏したわ。今残っているのは、罪悪感だけ。あなたに対して申し訳なく思う気持ちだけが帰ってきてしまったの”そうだ。人間の魂は一つだけじゃない。例えばかつての香澄さんみたいに一つの体に複数の魂がある場合もあれば、感情の分散によって別れてしまう場合もある。あるいは、私のせいでそうなってしまったのかもしれない。「百合子さん、私の方こそごめんなさい。あなたの魂の一部が恨みに染まって分裂してしまったのは、きっと私があなたを現世に引き留めてしまったせいだわ」百合子の霊が、ゆっくり首を横に振ったような気がした。“私も、まさか怨霊になってしまうなんて……無理にでも成仏すべきだったわ。でもね、
last updateLast Updated : 2026-02-13
Read more

第105章:涙の告白と別れの予感*遥花

阿左美さんのマンションを訪ねたのは、秋の陽射しが少し寂しく感じられる午後だった。ドアを開けると、阿左美さんは笑顔で迎えてくれた。 「遥花さん、来てくれてありがとう。今日は、ゆっくりおしゃべりしましょう」 リビングに通され、ソファに並んで座る。阿左美さんは、紅茶を淹れてくれた。彼女のお腹はもうすっかり元に戻り、穏やかな表情だった。でも、目には少し疲れが見える。 「阿左美さん、最近どう? 体調は大丈夫?」 私が尋ねると、彼女は少し目を伏せた。 「うん、だいぶ良くなったわ。でも……遥花さんこそ、どうしたの? 顔色が悪いわよ」 私は、言葉に詰まった。椿さんのこと、悠真のこと、家族のこと……すべてが頭の中でぐるぐる回っていた。 阿左美さんは、私の手を取った。 「遥花さん、何かあったんでしょう? 話して。私、友達なんだから」 その優しい声に、胸が熱くなった。私は、ゆっくりと話し始めた。 「阿左美さん……私、椿さんと、付き合ってるの」 阿左美さんの目が、少し見開かれた。でも、すぐに真剣な表情になった。 「椿さん……円城寺椿? 松山支社出身の、あの女性?」 私はうなずいた。阿左美さんは、深呼吸した。 「遥花さん……それは、ダメよ。椿は、反町香澄が寄越してきた罠なの。大道寺家を崩壊させるための」 彼女の言葉に、私は首を振った。 「ぜんぶ知ってる。その上で、付き合っていたの」 阿左美さんは、驚いた顔をした。 「知ってて……? どうして、そんな……」 私は、涙をこぼしながら続けた。 「私、自分でも何をしたいのかよくわからなくなってしまった。蓮と菖蒲がお腹の中にいたころは、あの子たちのために頑張れた。だけどあの子たちは今、大道寺家のために頑張っている。私なんかもう必要じゃなくなったみたいに」 阿左美さんは、慌てて言った。 「何を言ってるの、遥花さん……あなたは大道寺家にとって必要な人間でしょう? 悠真さんも、蓮君も菖蒲ちゃんも、遥花さんがいないとダメよ」 その言葉に、堰を切ったように涙があふれた。私は、ワッと泣き出した。 「ううん……私、香澄のことを忘れられなくて。sophilaが体を乗っ取って、敵になってしまっても、私の中の香澄はまだ生きてる気がするの。椿さんに、香澄の面影を重ねてしまって……
last updateLast Updated : 2026-02-14
Read more

第104章:対峙の果て*sophila

ネットブロード社の社長室は、いつも通り静かだった。窓の外、東京湾の夜景が広がっている。私の会社、私の王国。ここから、すべてを支配する。ドアがノックされた。秘書が「大道寺遥花様がお見えです」と告げた。私は、微笑んだ。「通して」遥花が入ってきた。彼女は、少しやつれた顔をしていた。でも、目には強い光が宿っている。かつての恋人。私の体を共有していた“過去の香澄”が、愛した女性。「香澄……あなた、本当に香澄なの?」遥花の声は、震えていた。私は、デスクから立ち上がり、彼女に近づいた。「私は反町香澄。ネットブロード社の社長よ。過去の香澄でも、sophilaでもない。私こそが、真の私」遥花の目が、揺れた。「嘘よ。あなたの中には、まだ香澄がいる。隆一の洗脳が解けていないのよ」その言葉に、私は笑った。「隆一? あの男の洗脳? 遥花、あなたはまだそんな古い話に囚われているの? 隆一は、私を道具として作ったつもりかもしれない。でも、私はもう彼の影響なんて受けていない。すべて、私の意思よ」遥花は、一歩近づいた。「違うわ。あなたは隆一の意志を継いで、大道寺家を崩壊させようとしている。ステアリンググループを、内側から壊そうとしている。それは隆一の呪縛よ。香澄は、そんな人じゃなかった」私は、首を振った。「遥花……あなたは、私を過去の香澄としてしか見ていないのね。確かに、昔の私はあなたを愛していた。双子を守り、あなたを支えた。でも、それは弱かったからよ。私は強くなった。隆一の洗脳なんて、とうに解けている。私が大道寺家を狙うのは、私自身の復讐のため。私の人生を、歪めたすべてに」遥花の目から、涙がこぼれた。「復讐……? 香澄、あなたはそんな人じゃなかった。私を愛してくれた香澄は、優しくて、強くて……」私は、遥花の手を取った。冷たい手。でも、かつての温かさを、思い出させる。「遥花……あなたは、私の弱さを愛していた。でも、私はもう弱くない。あなたが愛した香澄は、消えたわ。私は、私として生きる」遥花は、私の手を振り払った。「違う! あなたはまだ、隆一に囚われている。香澄を、取り戻して!」その叫びに、私は静かに答えた。「取り戻す? 香澄は、もういない。彼女は、私を守るための仮面だった。でも、もう必要ない。私は一人で、十分強い」遥花は、涙をこぼしながら、私を抱きしめた
last updateLast Updated : 2026-02-15
Read more

第105章:ママを探して*菖蒲

撮影終わって帰ったら、家が静かすぎた。いつもならママの遥花が「おかえり、菖蒲。今日も可愛いわよ~」って、ぎゅーって抱きついてくるのに、今日は誰もいない。お兄ちゃんの部屋から、パソコンのカタカタ音が聞こえるだけ。 「ねえ、ざあこお兄ちゃん! ママどこよ!?」 お兄ちゃんの部屋のドアをバーンって開けて入る。お兄ちゃんはいつものようにパソコンに張り付いてて、チラッとこっち見て「知らないよ。朝起きたら、いなかった」って、超つまんなそうに言う。 「はぁ? ざあこお兄ちゃんのくせに、ママの居場所も知らないの? 菖蒲みたいに可愛くないから、ママに相手してもらえないんだー。ざあこざあこ!」 蓮はため息ついて、「菖蒲、ママは大人だよ。たまには一人で出かけたくなることだってあるさ」って、いつものマジメ顔で言う。 「違うもん! ママ、最近変だったもん。笑ってるけど、目が泣いてるみたいだった。菖蒲、気づいてたんだから! お兄ちゃんのざあこ目は気づかないんだねー。パソコンばっか見てっから目が腐ってるんだよ!」 お兄ちゃんの顔がちょっと青くなる。ふふん、当たりー! 「菖蒲も、気づいてたのか……」 「当たり前じゃん! 菖蒲は天才子役だもん。人の気持ちとか、演技でわかるんだから! お兄ちゃんみたいにパソコンにばっか張り付いてるざあこじゃないもん。ママ、きっと寂しかったんだよ。パパは仕事ばっかだし、お兄ちゃんはパソコンばっか。ママの相手をしてあげるのなんて、菖蒲しか……」 そこでハッとした。最近主演のドラマの撮影が忙しくて、ママの相手をしてあげていない。ってことは……菖蒲のせいじゃん……。涙がこぼれそうになる。 と、急に泣きそうになっているのを察してか、お兄ちゃんが私を抱きしめてくれた。 「菖蒲のせいじゃない。ママは、きっと何か悩んでたんだ。俺たち家族で、ママを迎えに行こう」 お兄ちゃんの声、強かった。でも、菖蒲も負けない。菖蒲は子役だもん。ドラマで、家族を探す役だって、いっぱいやってきた。現実でもできるはずだ。 「菖蒲も、ママを探す! マネージャーの奥野さんに連絡する! 奥野さん、いろんな人知ってるから、きっとママの居場所わかるかも!」 スマホで奥野さんに電話。奥野さんはすぐに来てくれた。 「菖蒲ちゃん、どうしたの? 遥花さんが行方不明?
last updateLast Updated : 2026-02-16
Read more

第106章:忠誠心と自己矛盾*椿

10月の暮れ。東京の空は、秋の終わりを告げるように灰色に染まっていた。 あたしは、ネットブロード社の社長室の前に立ち、深呼吸を繰り返していた。ドアの向こうにいるのは反町香澄――あたしが「隆一様の意志を継ぐ者」として仕えてきた女。彼女の命令はいつも絶対だった。でも、今日だけは違う。 ドアをノックする手が震える。入室を許されると、香澄はデスクに座ったまま、冷たい目でこちらを見上げた。黒いスーツが、彼女の肌をより白く見せている。美人だけど、どこか壊れそうな脆さがある。 「椿。報告を」 香澄の声は、いつものように感情が薄い。あたしは、喉に詰まった言葉を無理やり押し出した。 「遥花さんとの関係……順調です。彼女は、あたしを……本気で愛してくれています」 香澄の唇が、わずかに歪んだ。笑みなのか、嘲りなのか。 「順調? それは良かったわ。でも彼女、先日、私のところに来たわよ。“過去の香澄”を取り戻そうとして。まったく、どうして人間って、そんなに過去に縋りつきたがるのかしら」 まるで自分が、人間を超越した上位の存在にでもなったように言う。いや、ある意味そうかもしれない。彼女はあらゆるところが超越している。隆一様の洗脳によって作られた存在。まるで人の心が欠落している。 「遥花との関係が順調だというのなら、彼女に離婚を迫りなさい。すでに悠真にはそれを迫って、失敗したようだけど。遥花ならうまくいくんじゃないかしら。あれだけ人から傷つけられた経験を持つ彼女なら、悠真のことも傷つけまいと、あなたに従うんじゃないかしら。今度こそ大道寺家は崩壊よ。そしてそれが、ステアリンググループの崩壊の引き金になる」 だから、平気でこんな血も涙もない提案ができるんだ。あたしは拳を握った。爪が掌に食い込む。 「……できません」 香澄の目が、細くなる。 「できない? なぜ?」 「あたし……遥花さん、本気で愛してしもうたけん。隆一様の仇取るためやのうて、あたし自身のために、遥花さん幸せにしたいって……ほうじゃけんもう、彼女惑わせるようなことはしとうないし、ええとう(言いたく)ない」 部屋に、重い沈黙が落ちた。香澄はゆっくり立ち上がり、あたしに近づいてきた。冷たい指が、あたしの顎を掴む 「椿。あなたは、私の道具よ。愛なんて幻想にすぎない」 「違う……
last updateLast Updated : 2026-02-17
Read more

第107章:暗闇と頭痛*sophila

オフィスの社長室はいつも通り静かで、冷たい。窓の外、東京湾の景色が広がっているけど、今日は霧がかかってぼんやりしている。私の気分みたいだ。デスクの上で、スマホが震えた。円城寺椿からの報告。開くと、予想外の言葉が並んでいた。「ごめんなさい、社長。私はもう、あなたの命令には従えません。遥花さんを愛してしまったんです。本気で。隆一様の仇を取るためじゃなく、私自身のために、彼女を幸せにしたいと思います」……裏切り? 椿が? あの忠実だった椿が、私の計画を捨てる?胸がざわついた。スマホを握る手が、わずかに震える。椿は、私の指示で悠真を誘惑するはずだった。遥花を巻き込んで、大道寺家を内側から崩壊させるための道具だったのに。彼女の愛が本物になってしまった……?「ふん……愚かな子ね」独り言のように呟く。部屋に誰もいない。秘書も、社員も、今日は呼びたくなかった。一人になりたかった。椿の裏切りで、急に孤独が押し寄せてきた。立ち上がり、窓辺に近づいた。ガラスに映る自分の顔。反町香澄。ネットブロード社の社長として、すべてを手に入れたはずなのに、何かが足りない。隆一の影はもうない。私は自分の意思で動いている。ステアリンググループを崩壊させるのも、大道寺家を潰すのも、私の復讐のため。私の人生を歪めたすべてに、報いを与えるため。デスクに戻り、パソコンを開く。ステアリンググループの株価をチェック。まだ下がり続けている。ユナイトコーポレーションの買収は着々と進んでいる。社内のハッカーたちに指示を出す。Slackで、グループチャットにメッセージを打つ。「ステアリンググループの機密データをさらに引き抜け。株価をさらに下げろ。内部の不信を煽るためのフェイクニュースも散布しなさい」 返事はすぐ来た。「了解しました、社長」。 これでいい。椿がいなくても、計画は進む。遥花……あなたも、悠真も、苦しめばいい。あなたが愛した「過去の香澄」は、もう私だけのもの。 でも、頭の奥がズキズキ痛む。鎮痛剤を飲む。最近、頭痛が激しい。医者は「脳腫瘍の可能性が高い」って言うけど、手術なんて受けない。腫瘍は、「過去の香澄」の残滓。彼女を切除すれば、私は一人になる。それが怖い。 「遥花を……傷つけないで……」 また、幻聴が聞こえた。「過去の香澄」の声。苛立つ。頭を振って、声を追い払う。 「私は
last updateLast Updated : 2026-02-19
Read more

第108章:暴走と家族会議*蓮

学校から帰ってきて、すぐに自分の部屋にこもった。ノートパソコンを開いて、『Phantom Guard』のコードをいじり始める。sophila――反町香澄社長のサーバーに侵入して、彼女の秘密を探る。最新のバージョンで、今度こそ突破してやる。「よし……ファイアウォールの抜け道、昨日見つけたやつを使って……」キーボードを叩く。画面にデータが流れ込んでくる。機密ファイル、ログ……そして、変なフォルダを見つけた。「Sealed Memory」って名前。封印された記憶? なんだこれ。パスワードがかかってるけど、僕のアプリでクラック。開くと、中に古いプログラムのコードがいっぱい。隆一の洗脳プログラム……? これ、隆一が幼い頃の香澄に使ったやつだ。僕の知識で分析してみる。「これ……洗脳プログラムの一部。でも、sophilaがこれを使って、自分で過去の香澄を封印した痕跡がある……」ログを見ると、sophilaが自分の意思でプログラムを起動して、過去の香澄の人格を封印した記録が残ってる。隆一の洗脳プログラムを、sophilaが利用したんだ。自分の弱い部分――過去の香澄を、隠すために。「香澄は、自分の意思で過去の自分を封印してた……? どうして?」さらに深く掘ってみる。プログラムのコメントに、sophilaのメモみたいなものが残ってる。「弱い自分を閉じ込めれば、私は強くなれる。遥花を傷つけないために」。……遥花? ママのこと? sophilaは、ママを傷つけないために、過去の香澄を封印した? でも、今のsophilaはママを傷つけるようなことばっかりしてる。矛盾してる。「もしかして、封印したせいで、sophila自身がおかしくなっちゃったのかも……」頭を掻く。隆一の洗脳プログラムは、元々人格を操るためのもの。sophilaがそれを使って自分をいじったら、予想外の結果になったのかも。弱い自分を封印したつもりが、逆に強すぎる人格が暴走し始めた……みたいな。「sophilaを倒すんじゃなくて、過去の香澄を解放すれば……元の香澄に戻れるかも」閃いた。アプリをさらに改良して、封印データを解除するハッキングコードを書く。隆一のプログラムの構造を解析して、逆の動作をするように。理論上は可能だ。でも、実際にやるには、香澄のスマホかパソコンに直接アクセスしないと……。「まずは、
last updateLast Updated : 2026-02-20
Read more
PREV
1
...
789101112
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status