物心ついたのはいつだったろうか。友達は3歳ぐらいだとか、4歳になって幼稚園に入ったころだとか言う。けれど僕の一番古い記憶は、まだ生まれて半年も経たないころのことだ。周りは薄暗い倉庫だった。赤ん坊の僕は、つばの広い帽子をかぶった謎の男に誘拐されてそこにいた。けれどそんな僕を、とあるヒーローが救ってくれたんだ。そのヒーローの名は、sophila――それが、母親である遥花に教えられた名だ。sophilaはかつて遥花のバディであり、僕と妹にとっては師匠だったという。僕の名前は蓮。蓮大道寺。9歳、今年の春で小学4年生になった。双子の妹である菖蒲と、母親の遥花と、父親の悠真と暮らしている。父親――か。悠真は確かに血の繋がりはあるようだけど、本当の父親じゃないと思っている。僕と菖蒲の本当の父親は、どこかにいるはずだ。それこそ、遥花の語るsophilaこそが僕の本当の父親ではないか。つまり、血の繋がりを超え、魂で繋がった存在ではないか、と。sophilaに抱かれていたときの温もりを、今でもはっきり思い出す。とても温かくて、それでいて柔らかくて……父親なら男性のはずだが、sophilaは性別にとらわれない、何か人智を超えるような、女性的な魅力も兼ねそろえた人物なのではないかと考えている。sophilaを思うと、胸がドキドキする。憧れか。ひょっとしたら恋にも似たような気持ちかもしれない。父親だと思いながら恋までしちゃうなんて冷静に考えれば気色悪いが、とにかく僕の中ではそういう特別な存在なのだ。「お兄ちゃん、見て見て! これが菖蒲のスペシャルポーズ!」と、リビングでポーズを取りながら菖蒲が言う。まだ学校から帰ってきたばかりで、ランドセルも床に放り投げたまま。目をキラキラさせながら、いつぞやネットで流行っていたI字バランスをキメている。芸能界に入ったばかりの妹は、そうやって毎日のように新しいポーズを練習しているのだ。「ああ、かわいいかわいい」僕は適当に返事をする。菖蒲は可愛いけど、毎回見せられると飽きる。「もー、お兄ちゃん、もっと本気で褒めてよ!」菖蒲が膨れる。「本気で褒める必要あるか? 菖蒲は可愛いのは事実だろ。それより、早くランドセルをしまって、宿題やったらどうだ。まぁ、僕はもう学校で済ませてきてるけどな」菖蒲はプクッと頰を膨らませて、僕を睨む。「お兄ち
Last Updated : 2026-01-08 Read more