オフィスのデスクに座り、パソコンの画面を睨みつけながらため息をついた。ステアリンググループの株価チャートは、まるで心電図のように不規則に揺れ、ジリジリと下降し始めている。原因は明らかだ。傘下であるユナイトコーポレーションの株価低迷。ネットブロード社が買収に名乗りを上げてから約2ヶ月、いよいよ大元のステアリンググループの信頼まで揺らぎ始めている。俺は総帥の息子として、対策会議を連日主宰している。社内の優秀なブレインを集め、AIやアプリ開発の新プロジェクトを推進し、株価回復の道筋を探っていた。蓮がユナイトに提案してリリースに至ったアプリも成果は上がったが、それだけでは足りない。市場は冷徹だ。小さな成功がいくつ積みあがっても、たった一度の失態が負の連鎖反応を引き起こす。投資家たちはもちろん、社内からも、「ユナイトをさっさと切り捨てろ」との声が上がってきている。だが、その判断は正しいのか。捨てるにしても、いつどのタイミングで買収を進めるべきなのかでもグループへの影響は大きく変わってくる。そんな中、遥花のことも頭から離れない。数日前、彼女が香澄――反町香澄に会いたいと申し出たとき、俺は断った。香澄は今、ユナイトの買収を公言したネットブロード社の社長で、俺たちの敵だ。そして、もう俺たちの知る香澄でも、sophilaですらもないかもしれない。俺は“第三の人格かもしれない”と言った。確信があるわけではないが、冗談で言ったつもりもない。言われた遥花も、思いもよらなかったという表情をしていた。ただ人格がどうであるかに関わらず、単純な話、かつて愛した相手と対面して、昔とはまったく正反対の態度を取られたらどうする。そんなことになれば、遥花をさらに傷つけるだけだと思った。それでも遥花の目には、諦めきれない何かがあった。あれから彼女は、俺の前で香澄の話をしなくなった。蓮や菖蒲の成長を喜ぶ姿は変わらないが、時折、遠くを見つめる目が俺を不安にさせる。「叔父貴、株価はまだ下がりっぱなしっス……市場の反応を予測すれば、このままでは来月には底値に……」秘書の幸太郎がデータシートを差し出してくる。こいつはまだまだ未熟だが、最近は少しずつ頼れるようになってきた。こいつも待望の第一子が死産となったショックを抱えているだろうに、今は傷ついた阿左美を支えるために必死なのかもしれない。
Last Updated : 2026-02-24 Read more