目を開けると、白い天井と消毒液の匂い。病院のベッドだ。記憶がぼやける。タクシーの中で鋭い陣痛がきて、意識が遠のいたのだ。今、体は重く、お腹にはズキズキとした痛みもあるが、子宮の中は軽くなっている感覚がある。もう胎動も感じない。双子……生まれたんだ。肩の荷が降りたような安堵と、無事に生まれたのかという不安、そして今までずっとそこにあると思っていたものがもう無いことへの妙な喪失感が一度に押し寄せ、生ぬるい涙が自然と一筋こぼれた。病室の窓からは朝日が差し込んでいた。あれから、何時間経ったのだろう。ふとベッドの隅に、香澄が眠っていた。その柔らかい栗色の髪を撫でると、「うぅん……」と頭を数回横に揺らしたあとで、彼女は顔を上げた。「あ……遥花、良かった……意識、戻ったんだね」その笑顔にホッとする。場所も状況もまったく違うが、それだけいつもの朝と変わらぬことに安心感が湧いた。「香澄、双子は?」声がかすれる。喉がカラカラだ。「ごめん、先に赤ちゃん見てきちゃった! ほら、遥花ジュニア1号・2号!」香澄がスマホを取り出し、動画を見せてくれる。画面には、NICUの保育器にいる小さな二人が映っていた。男の子と女の子、細い腕に点滴、チューブで呼吸を助けられている。小さいけれどしっかり手足を動かし、元気な様子に、今度は熱い涙がこぼれる。「良かった……ありがとう、香澄」震える声でそう告げた。「そうだ、ちゃんと産声も録音してあるの。先生からもらったよ」と、香澄は小さなカード状のレコーダーを取り出す。ボタンを押すと、二つ、競い合うようにほぎゃぁ、ほぎゃあと泣く声が聴こえた。「8ヶ月でよく育ったって。産声を上げたのも良い兆候だって言ってたよ。男の子1,535g、女の子1,465g、ピッタリ3,000g! めっちゃ強いヒーローだよ!」いつものまぶしい笑顔で香澄は言う。「ヒーローって、またそんな呼び方……」とツッコミを入れるけど、涙が止まらない。香澄が頭を撫でる。「遥花、めっちゃ頑張ったね。偉い、偉い!」「香澄、ありがとう……」互いに手を合わせ、指を絡め合う。彼女の手の温もりに、胸が熱くなってきた。「ありがとう、なんて言われる資格あるかなぁ……遥花、帝王切開、私が決めちゃった。ごめんね、遥花が意識なかったから……」香澄の声が少し震える。「でもね、先生に『ご家族で
Last Updated : 2025-10-01 Read more