All Chapters of 百合な親友と共に双子を育てる離婚妻。元夫とのすれ違い愛には裏があった: Chapter 51 - Chapter 60

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第51章・正夢と沈黙の秘書*悠真

【2016年1月1日(金)】実家の門をくぐる。玄関の脇には門松が立ち、扉には注連飾りが飾られていた。正月だというのに俺の心は凍てついたままだ。「遅いぞ、悠真」居間に入ると、父はもう座っていた。白髪交じりの眉をわずかに上げ、俺を見据える。俺の隣には、佐伯敏夫。いつもの無表情で、まるで意思の読めない人形のようだ。“佐伯敏夫に気をつけて”前日の夜に阿左美に言われた言葉が頭をよぎる――正確には、百合子の霊が伝えた言葉だそうだが。佐伯のセダンで運ばれている間も息が詰まりそうだった。新年の挨拶を済ませ、すぐに話題はステアリンググループの今後へ。東南アジア進出の件、株価対策、そして――俺のお見合い話。「末継阿左美という娘はどうだ? 評判は悪くない。ユナイトコーポレーションとの提携も――」「そんな話をしてる場合じゃないだろう」話を遮ると、親父の眉がピクリと動く。佐伯は微動だにしない。「いま、ステアリンググループは謎の“組織”に狙われている」俺は一気にまくし立てる。百合子に騙されていたこと。クリスマスの夜に神崎が遥花のマンションを襲撃したこと。そして襲撃の日、共犯者が神崎のレクサスで逃げたこと。それから百合子が「遭難事故」で死んだニュースも。そのすべてが“組織”の仕業に見えることを。親父はしばらく黙っていた。が、湯気の立つ茶をズズッとすすった後で、ふっと息を吐いた。「……お前は、相当面白い初夢を見たんだな」笑った。親父は俺の話を、まるで子供の空想のように笑った。「親父、これは――」「悠真」親父の声が低くなる。「昨晩、酒を飲みすぎたんじゃないか? 少し休め」隣の佐伯も、狼狽える様子もなくただ無表情で座っているだけだ。分が悪い。俺は拳を握りしめ、言葉を呑み込んだ。「……妙な話をして、悪かったな」不貞腐れるようにそう言い、その場を後にした。※重役たちの家を回り、新年の挨拶を終えた頃には、もう夜だった。佐伯が運転するセダンで、屋敷へと戻る。街は店を締めているところが多い。みんな正月休みを満喫しているのだろう。俺は後部座席で、窓に映る自分の顔を見つめていた。“佐伯敏夫に気をつけて”機械のごとくただ黙って運転を続ける佐伯に、声をかけた。「佐伯」「はい」「お前、俺が親父の前で“組織”の話をしたとき、ちゃんと聞いていたよな」「
last updateLast Updated : 2025-11-29
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第52章・壊された置時計*悠真

屋敷のリビングに佐伯を迎え入れる。部屋に入るやいなや、佐伯はふと立ち止まった。「悠真様。今から私が妙な行動に出ると思われるかもしれませんが、一旦、ソファに座ってお待ちください」言うと、暖炉のそばまで歩き、そこにあった置時計を手に取る。一体何をするのかと立ったまま見ていると、佐伯は突然、床に時計を叩きつけた。「おい、何をする!?」慌てて佐伯のそばへ向かう。佐伯は、床に散らばった時計の残骸から、何やら妙な機械を拾い上げた。「盗聴器です。悠真さまがここでされた会話は、すべて“敵”に筒抜けとなっていました。昨夜、どなたかと通話されていたことも。お相手は阿左美様でしょうか?」佐伯が機械のボタンを押すと、昨夜の俺の声が再生された。“なぁ、結局、“組織”って何なんだ。目的がわからん”冷や汗が垂れる。やはり、こいつは俺の“敵”……にしては、行動が妙すぎる。なぜ今、手の内を晒すようなことをするのか。「どうぞ、ソファへおかけください」再び俺をソファへ誘う佐伯。そんなことを言われても、また何かハメようとしてるんじゃないかと勘ぐってしまう。しかし従わねば逆に危害を加えられそうな恐怖もあり、俺は黙ってソファへ座り込んだ。その向かいに、自ら椅子を持ってきて腰かける佐伯。表情は何を考えているかまったく読めない。「このお屋敷には、他にもいたるところに時計が置いてありますね。寝室、洗面所、キッチン……そのすべてに盗聴器が仕掛けられています。他にも、私が知らない場所にも隠されているやも」ゾッとした。一体、いつからそんなものが仕掛けられていたのか。暖炉の上の置時計は、少なくとも遥花と結婚する前からそこにあったはずだ。「佐伯。お前は俺の敵なのか、味方なのか? どっちだ」たまらず問いかける。マトモに答えてくれる期待もなければ、訊くだけ無駄な気もするが。「車の中でお伝えしました通り、私はステアリンググループの人間であって、悠真様の秘書ではございますが、特別に悠真様を贔屓するような感情は持ち合わせておりません」しかし、素直に答える佐伯。そこに嘘偽りは無いように思えた。やつは続ける。「そうですね、質問への回答としてより適切にわかりやすく答えるとすれば……今は“味方”、と答えておきましょうか」今は、“味方”? 条件付きなのが気になるが、少なくとも現段階で、俺に危害
last updateLast Updated : 2025-11-30
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第53章・華麗なる血族*悠真

沈黙。そして、俺はため息を吐く。勝手な連中だが、どうすれば俺が動くのかを完全に心得てやがる。実に不愉快だ。しかしその話を無視することこそ、俺にとって一番不愉快極まりない選択だった。「隆一が百合子の仇なんだな……証拠はあるのか?」佐伯は首を振る。「残念ながら。隆一は用意周到です。彼が犯人であることは間違いないのですが、警察へ突き出すに足る証拠は何も残っていません。そればかりか、本人が現在、行方をくらませています」冷静に言うが、その内容は滅茶苦茶だ。どこからツッコミを入れるべきか。「行方をくらませている、だと? お前の話から考えるに、隆一もステアリンググループの一社員じゃないのか? 会社の社員が行方不明って……そりゃ、懲戒解雇だろう」当たり前のことを口にしたつもりだが、佐伯は、やや俯きながら返した。「懲戒解雇……それができればどんなに楽でしょう。隆一は自分の利益のために手段を選ばない人間。普通の企業であれば彼なんて、解雇してしまえば終わりです。ですが、ここはステアリンググループです」「ステアリンググループ、が何だって言うんだ……?」「悠真様、これ以上は。聞いてしまうと戻れなくなりますよ? それでも、お聞きになりたいのですか?」ゾッとするような低い声で、佐伯は言う。ふと、クリスマスの夜に“この女を殺す”と言って香澄にナイフを突き付けていた神崎を思い出した。あいつと同じだ、俺たちのような凡人とは違う、異質な世界に住む者の声だった。まだ俺の知らない、この巨大な組織の闇があるのか。額から冷や汗が垂れるのを感じながら、ゴクリと生唾を飲みつつ、うなずく。命令に対するレスポンスが遅れているという風でしばらく間が空いたが、やがて佐伯は、再び口を開いた。「隆一はステアリンググループ創業者の、直系の子孫なんですよ」直系の子孫……。昭和の時代に流行った『華麗なる一族』や『犬神家の一族』なんかよりスケールの大きな、なおかつもっと古臭い価値観である気がした。江戸時代、いや、鎌倉時代か何かの話をしているのだろうか?直系の子孫、と言われたところで、この平成においては“だからどうした?”という気分になってしまう。天皇家か何かの話をしているのか?しかしそれこそがこの巨大組織の闇だと言いたいのなら、まさしくその通りだ。自らの血統に対するこだわりこそがすべてを狂わす。俺が
last updateLast Updated : 2025-12-02
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第54章・重労働とナンパの相手*香澄

【2016年1月2日(土)】 「もう限界……俺、死ぬ……」 昼下がり、中野のT探偵事務所を訪れると、そこにいたのは目の下に死ぬほどのクマを作った吉田だった。大道寺悠真と元日に話したと言うから来てみたら……。 「一体どうしたのよ、そのザマは」 「それが、昨夜いきなり叔父貴に屋敷に呼ばれたんすよ……探偵事務所のスタッフとして、なんスけど。田中さんは奥さんの実家に行っちゃってるし、動けるの俺しかいなくて」 「見たところ、重労働でもさせられたようだな」 隣のbearが言う。私とbearはすっかりバディという感じになっている。バディと言うか、実際“友達”なんて呼んでくれたりもしたけど。慣れ合うわけではないが、少なくとも変に気を遣わなくて済むのはとても良い間柄だとは思う。 もちろん、協力報酬はシロノワール+αでキッチリ払う。 「重労働……まじそれっすわ。聞いてくださいよ、あの屋敷、盗聴器が8個もあったんすよ! 探知機持って、隅から隅まで探し回るの大変っした……」 盗聴器が、8個!? 「やっぱり大道寺悠真が言ってた、ステアリンググループが何かの“組織”に狙われてるって話、本当だったのかしら……ってか、それについて何か聞いてきたんでしょうね?」 吉田を尋問する。待ってましたと言わんばかりに、吉田は身を乗り出す。 「それがっすよ……実は……」 やたら重々しい口調だ。“実は”……何だと言うのか。 「ちょっと、勿体ぶらずに言いなさいよ……」 あまりに間が空きすぎるのでさすがにクレームを入れると、彼はニヤリとしながら堂々と述べた。 「ゼロ。完・全・に・情報ゼロ! ただの便利屋だけやらされて終了ってなっちゃいました……」 はぁ? 「おい吉田。フザけてるのか? それじゃ報酬も何も払えんぞ。気軽に聞き出せるハズじゃなかったのか」 怒りで言葉を失っている私の代わりにbearは言う。 「フザけてるわけねーっすよ! 俺だって本気で聞き出そうとしたんスけど……叔父貴、めっちゃガード固くて。『お前はまだ早い』とか『知らなくていい』とか、子供扱いばっか!」 吉田は悔しそうにテーブルをバンッと叩いた。 「で、結局何時間かかったの?」 「朝の6時までっす……正月2日なのに……」 「可哀想に」 私は、事務所で勝手に注がせてもらったコーヒーを啜りながら言う。田中だけ
last updateLast Updated : 2025-12-03
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第55章・カラオケの霊と2万円*香澄

目の前にあるのは、山盛りのポテト。「あ~ちゃんの奢りだからな! 歌いまくってくれよ!」吉田がドリンクバーから人数分のコーラを抱えて戻ってくる。そして今、マイクを持ってfripsideの「only my railgun」を歌っているのが、吉田の彼女として紹介されたあ~ちゃんだ。体のラインがよくわかる白のタートルニットを着ており、胸のサイズはかなり大きい。遥花も双子ができてからだいぶ大きくなったが、それ以上だ。女子大生が豊胸? とは考えられないから、天然ものだろうか。同性の私から見ても、なかなか立派だなと感じてしまう。後で触らせてもらえないだろうか……なんて、邪な感情を抱いている時ではない。ここは中野駅北口の、カラオケJOY SOUNDの個室。私、bear、吉田、そしてあ~ちゃんの4人、なんでこんなところに押し込まれているのか。本来なら、T探偵事務所に呼ぶ予定だったのが……。「あーっ、やっぱカラオケ、さいっこう! ごめんなさいね、初対面なのに付き合わせちゃって」と、あ~ちゃん。私はソファの端に座り、目の前に座る彼女をガン見する。普通に可愛い女子大生だが、目が違う。まるで底が見えない。"霊感ある”なんてオカルトな話を聞いたから余計そう感じてしまうだけか、とにかく独特な印象を抱いた。「あれ? まだみんな何も入れてないんだ。じゃあ連続で、次はももクロいこーかな♪」あ~ちゃんがタッチパネルを操作し、選んだのはももいろクローバーZの「行くぜっ!怪盗少女」。彼女の愛らしい声で、部屋の空気が一瞬で変わる。まったくの初対面なのに聴き惚れてしまうとは……いちいちオタク心を刺激する選曲も完璧だ。「あなたのそのハート、いただきますっっっ!!!」と、サビの歌詞で私に向かってウィンクする。そこは吉田じゃなくて、私なの……? と不思議に思うが、そもそも吉田は先ほどからポテトを頬張ったりコーラを飲んでゲップをしたりしているばかり。本当に彼氏彼女同士なのか? と疑わしいほど蚊帳の外だ。「ご清聴、ありがとうございましたー!」すでに一人で5曲以上を歌い終わったあ~ちゃんが手を上げる。「さぁ、次はお姉さんいっちゃいましょうよ! アニソン? ドラマ主題歌? みんな知らない曲でも、なんでも良いですから~!」と、急に私にマイクを押し付けてくるあ~ちゃん。「えっ、私!
last updateLast Updated : 2025-12-04
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第56章・はだけた胸とポッドキャスト*香澄

【2016年1月4日(月) 深夜】三が日も終わった午前1時過ぎ。長いことぐずっていた蓮も菖蒲も小さな寝息を立てて、ベビーベッドで眠っている。直前まで母乳を与えていた遥花もすっかり疲れ果て、服の胸の部分をはだけたまま眠っていた。私も疲れ果ててボーッとしながらも、遥花の服を整えてあげてから、リビングの明かりをすべて落とす。そしてスマホのライトを頼りに洗面所へ向かった。洗面所の電気を点け、冷たい洗面台に両手をついて、自分の顔を真正面から見つめる。「……出てきてよ」声に出して言うと、鏡の中の私が、ほんの少しだけ笑った。昨夜と同じように。「やっと呼んでくれたね」鏡の中の私が口を開く。声は自分なのに、どこか低くて落ち着いている。不気味な感覚だ。これも昨日、つまり1月2日の昼間に、末継阿左美とかいうオカルト系女子大生に会って以来だ。その夜は気持ち悪くなってすぐに布団に逃げ込んでしまったが、今こそ確かめねば。「……あなた、誰?」「私はsophila。あなたの中の“もう一人の私”」鏡の中の私は、ゆっくりと首を傾げた。「ちょっと待ってよ……sophilaは、私のハッカーとしてのコードネームでしょ……どうしてそれが別の人格みたいに一人歩きし始めたの?」「一人歩きし始めた? 違うわ。私はずっとあなたの中にいたのよ。あなたが子供のときからずっと。もちろん、その頃にはまたsophilaなんて名前はなかったけどね」子供のときから?「……嘘でしょ。昨日、末継阿左美とかいう女子大生に会ってからじゃないの? あの子が私に、何か変なことしたんでしょ」信じられず否定するが、鏡の中の私は相変わらず笑っている。私自身の意思とは裏腹に。「阿左美が何かをしたわけじゃない。彼女の霊感……いや、香澄はオカルトなんて信じないか。あなた向けの説明の仕方をすれば、彼女の影響で、ちょっとした脳波のスイッチが切り変わったとでも言った方が伝わりやすいかしら」脳波のスイッチ?「どういうこと……脳に、変な電気信号でも送られたの?」「おおむね、そんな理解で構わないわ。もちろん故意か、事故か、それは私にもわからない。ともかくこうなってしまった以上、私もあなたにちゃんと状況を説明してあげなきゃと思って」sophilaから悪意のようなものは感じない。ただ、阿左美は彼女を"悪霊”呼ばわりしていた。そ
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第57章・松山のオルゴールと椿の棘*椿

【2016年1月11日(月・祝)】愛媛県松山市、セキ美術館内の「ロダンの部屋」。外は冷たい風が吹いてるのに、ここだけは春みたいに暖かくて、オルゴールの優しい音色が館内を包んでいた。ロダンの大理石彫刻《ファウナ(森の妖精)》の前に立つのは、あたしの好きな男の背中。じっと彫刻の顔を見つめる隆一さんだ。白い大理石の妖精は、まるで生きているみたいに艶かしく、少しエロティックでもあった。「わっ」軽く背中を押し、隆一さんを脅かそうとする。しかし隆一さんはまったく動じずにこちらを振り返った。「……円城寺椿君か。よくここに私がいることがわかったな」軽く微笑む。少しは驚いて欲しかったのに、ムッとしてしまうが、同時に洗練された大人の反応に惚れ直してしまう気がする。「隆一さん、松山に戻ってきてたんやったら、すぐ連絡してくださいよ」「そうか? 明日には松山支社に顔を出そうと思っていたんだが。そんなに私に会いたかったのか?」「会いたかったに決まっとるやん! だって隆一さん、あたしのこと、東京に連れてってくれるんやろ?」そういうことか、と言わんばかりに隆一さんはフッと笑う。「なるほどな……まだ東京転勤は決まらないんだな」「まだよ。大道寺の爺さんたちが邪魔してくるけん」隆一さんはまた、小さく笑った。「もうすぐだいぶ近づいてる。椿君も、もう少し我慢してくれ」そう言って彫刻に視線を戻す隆一さんの横に、あたしも並ぶ。彫刻の妖精が、こっちを見ているような気がした。ふと、隆一さんのショルダーバッグに、糸を巻いて人間の形にしたようなものがぶら下がっているのに気づいた。キーホルダー……というより、何かのおまじないのアイテム?「なんですか、これ」「ああ、ブードゥ人形だな。元々はアフリカに起源があるようだが。ちょっとした厄除けだよ」「オカルトアイテムですか……隆一さんにしては珍しい」「まぁ、オカルトも馬鹿にできんよ。世の中、何がどう影響を及ぼすかはわからないものだ。持っているだけで意味があるなら、持っている方が得ということだな」「そうですか……その割には、クリスマスに東京の方でちょっとトラブルがあったとか聞きましたけど。何があったんです?」先日、隆一さん寄りの"組織”メンバー間で話題になっていた件を伝える。「大道寺悠真のドライバーが、元妻
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第58章・チーム結成と隆一の影*悠真

【2016年2月】ステアリングタワーの重役室。パソコンで会社の稟議書に目を通しつつ、スマホにもチラチラ目を通す。今日はChatworkに"チームメンバー”から何も報告が上がってこないことを気にしていた。隆一については、阿左美の霊感、そして積極的に協力してくれるようになった香澄の情報から、愛媛の松山に拠点を構えていることがわかった。香澄が協力してくれるようになったのは、阿左美の働きかけがあるという。香澄と阿左美がどこで接点を持ったのかはわからないし、どう口説き落としたのかもわからないが、「彼女のハッカーの腕は必ず役に立つわよ」と、とても心強いのは確かだ。もっとも香澄自身は、「いい? 遥花や私にこれ以上危険が及ばないようにするための協力なんだから。それに、あくまでビジネスとしての契約よ。成果に応じて、金銭的な報酬を要求するわ」と、完全に心を開いてくれたわけではないらしい。それについては別に構わない。俺自身も、仲良しごっこがしたいわけではない。ただお陰で、遥花とのホットラインができたのはメリットだった。子供には会わせてもらえないし、父として接してあげることはできないが、金銭的にでも繋がりが持てるということは、やはり幸福と思うべきだろう。会えなくても、自分の血を分けた子たちがこの世に生を受け、すくすくと育っているのだという実感は、俺にも守るべきものが出来たという責任感を与えてくれる。もちろん、父親として関われない人間が調子の良いことを言っている自覚はある。どう償っていくべきかもわからないが、今はただ、遥花や子供たちのためにやれることをやるしかない。俺と香澄、そして阿左美の3人は"チーム”として動いている。チームの目的は、目下、隆一を捕らえること。そして俺たちの未来を脅威から守ること。もちろん成果に応じて、ちゃんと報酬も出す予定だ。ただ、何をもって「成果」と成すかは難しいところだ。そもそも隆一の居場所について、いまだ何もわかっていない。ステアリンググループの愛媛の支社に問い合わせても、それらしき人物に関する報告はなかった。愛媛の支社についても、あまりに非協力的すぎて俺をイラつかせている。何の仕事を依頼しても、対応してもらえるのが1週間後、2週間後とお役所並みに遅い。佐伯によれば、愛媛は大道寺家の対等によって地方に追いやられた社員たちも多く、大道寺家に恨み
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第59章・強硬策とボディガード*悠真

「この男、前に調査してた、佐野百合子がホテル街で会ってた男に似てるっス!」 幸太郎の言葉に反応し、佐伯もキーボードを叩いていた手を止めた。 「もしかして、隆一を見つけたんですか?」 席を立って阿左美のスマホを見に行く。カップルの間に堂々と割り込めるのはさすがだ。“見ていいですか?”とか一言くらい言葉をかけろよとは思うが……。 「これは、確かに隆一が好んでかぶっている帽子です。それにこの高身長と、特徴的なわし鼻……隆一である可能性が極めて高いものと思われます。この映像は遠藤様が送ってこられたものですか?」 遠藤様とは、香澄のことだ。 「そうだが、本人に確認してみるか」 Chatworkの音声通話で香澄を呼び出す。待機していたのか、香澄はすぐに出た。 「どう? 重要な手掛かりでしょ。成果報酬もらうわよ」 開口一番、金の要求かよ……。 「待て。手掛かりって……こりゃ、先月の映像じゃないか」 「仕方ないでしょ。ステアリンググループの支社がある松山市じゅうの監視カメラにハッキングかけて映像解析するのにどれくらいの時間かかると思ってるの。一応、探偵事務所の田中にも手伝ってもらったけど」 松山市じゅうの監視カメラにハッキング。なかなかとんでもないことやってないか? と思うが、自称“ホワイトハッカー”様でも、それをやっても良い状況という判断なのだろう。 「他にもいくつか、つばの広い帽子かぶった高身長の男が写ってる映像がある。わりと最近ので言えば1月29日のやつもあるけど、写りが悪いのよ」 と、Chatworkで画像が送られてくる。またロングブリムハットの男が、今度はロープウェイに乗り込む映像だ。しかし周りに観光客も多く、顔も判別しづらい。 「隆一は松山市にいる。あるいは最近までいた可能性が高いわ」 香澄は言う。確かにそう結論づけて良さそうだ。 「香澄、お手柄だ。報酬は出そう。また追って連絡する」 一旦通話を切り、席を立ち上がる。 「佐伯、どう見る。隆一は今でも松山にいると思うか?」 尋ねると、佐伯は腕を組んで考え始めた。 「わりと最近のものが1月29日ということですよね。1週間ほどブランクがあるのが気になります。すでに拠点を離れていると見るのが自然かと思われますが」 確かに、それはそうだ。 「しかし、やつの拠点が松山だということの裏は取
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第60章・松山支社の危機*椿

東南アジアとの交易に関する資料の整理を任されて、もう3日目。部長から「完璧に仕上げろ」と言われたけど、何度もダメ出しを食らってる。「ここは数字が合わない」「この表は見づらい」「もっと簡潔にまとめろ」……。あたしはパソコンに向かいながら、歯を食いしばった。資料は修正コメントだらけで、もはや何から手を付けたら良いかわからない。すでに直したところも重ねて指摘が入り、一周回って「これ元の記載に戻っているだけでは?」と思うような箇所も多い。もちろん、それが大事な仕事であるなら何を言われたって直すのが私だ。しかしそのモチベーションを下げている原因が一つある。それはこの仕事が、総帥の息子である大道寺悠真の肝いり施策だから、ということだ。たまたまにしては都合が良すぎる。円城寺家の出身であるあたしに、わざとこの仕事を押し付けているのではないか。大道寺家め、絶対に許すものか。※昼休み。食堂で女性社員同士でコーヒーを飲んでいるとき、オフィスビル全体にアナウンスが鳴り響いた。「大道寺悠真だ。本日、東京の本社から、抜き打ちで社内調査に来た。これからこの松山支社内で不正な仕事の遅延行為や隠ぺい行為などがないか調査させてもらう」「え、大道寺悠真……って、誰?」「何か聞いたことあるけど……偉い人?」「大道寺ってさ、確か社長? の苗字よね……いや、違う? なんやったっけ」女性社員たちは暢気だが、あたしだけ血の気が引いている。まさか……大道寺家の人間が直々に現れるなんて! 総帥の御曹司の急な訪問に、食堂の社員たちは顔を見合わせ、ざわめき始める。あたしは、スマホを握りしめ、"組織"のグループLINEにすぐメッセージを打つ。「大道寺悠真が来た! どうする?」返事はすぐ来た。「落ち着け。まずは様子を見ろ」「隆一様に報告だ!」「それより、悠真を東京に送り返す方法を考えろ」心臓がドクドク鳴ってる。※オフィスに戻ると、悠真が部長と話していた。例の交易資料のダメ出しを食らっているのだろうか。部長の顔は青ざめている。悠真の隣には、ガタイのいいスーツ姿の男がいた。あれが、噂になっていた悠真の秘書の佐伯敏夫だろうか? あんなにマッチョなだったとは……。悠真は、冷たい目で社員たちを見回す。私はすぐに視線を下げ、PCに向かうフリをしながらLINEグループに書き込んだ。「大道寺悠真
last updateLast Updated : 2025-12-14
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