【2016年1月1日(金)】実家の門をくぐる。玄関の脇には門松が立ち、扉には注連飾りが飾られていた。正月だというのに俺の心は凍てついたままだ。「遅いぞ、悠真」居間に入ると、父はもう座っていた。白髪交じりの眉をわずかに上げ、俺を見据える。俺の隣には、佐伯敏夫。いつもの無表情で、まるで意思の読めない人形のようだ。“佐伯敏夫に気をつけて”前日の夜に阿左美に言われた言葉が頭をよぎる――正確には、百合子の霊が伝えた言葉だそうだが。佐伯のセダンで運ばれている間も息が詰まりそうだった。新年の挨拶を済ませ、すぐに話題はステアリンググループの今後へ。東南アジア進出の件、株価対策、そして――俺のお見合い話。「末継阿左美という娘はどうだ? 評判は悪くない。ユナイトコーポレーションとの提携も――」「そんな話をしてる場合じゃないだろう」話を遮ると、親父の眉がピクリと動く。佐伯は微動だにしない。「いま、ステアリンググループは謎の“組織”に狙われている」俺は一気にまくし立てる。百合子に騙されていたこと。クリスマスの夜に神崎が遥花のマンションを襲撃したこと。そして襲撃の日、共犯者が神崎のレクサスで逃げたこと。それから百合子が「遭難事故」で死んだニュースも。そのすべてが“組織”の仕業に見えることを。親父はしばらく黙っていた。が、湯気の立つ茶をズズッとすすった後で、ふっと息を吐いた。「……お前は、相当面白い初夢を見たんだな」笑った。親父は俺の話を、まるで子供の空想のように笑った。「親父、これは――」「悠真」親父の声が低くなる。「昨晩、酒を飲みすぎたんじゃないか? 少し休め」隣の佐伯も、狼狽える様子もなくただ無表情で座っているだけだ。分が悪い。俺は拳を握りしめ、言葉を呑み込んだ。「……妙な話をして、悪かったな」不貞腐れるようにそう言い、その場を後にした。※重役たちの家を回り、新年の挨拶を終えた頃には、もう夜だった。佐伯が運転するセダンで、屋敷へと戻る。街は店を締めているところが多い。みんな正月休みを満喫しているのだろう。俺は後部座席で、窓に映る自分の顔を見つめていた。“佐伯敏夫に気をつけて”機械のごとくただ黙って運転を続ける佐伯に、声をかけた。「佐伯」「はい」「お前、俺が親父の前で“組織”の話をしたとき、ちゃんと聞いていたよな」「
Last Updated : 2025-11-29 Read more