「もしかしたら、デザートのニンジンが足りなくて……拗ねてるのかなぁ……」「ニンジン?」「なーんて、ち、違いますかね……!」 テキトーな理由でごまかそうとしたのに、自分でも呆れるほど能天気なことを口にしてしまった。慌てて見せた笑みも引きつってしまう。だが、ルークさんは頷いて、またくすくす笑い出した。「確かに……! お客さんにニンジンもらってるのは、外乗に出てる子だけだもんね。馬ってのは三才児みたいなもんだから、ヤキモチかなぁ」 そう言うと、彼は立ち上がり「だったら、いい子にしたらいいんだ」と独り言をぼやきながら去っていった。彼が暢気な性格で本当によかった――と、僕はほっと胸を撫で下ろす。それから、水筒に入れた冷たい紅茶をひと口飲んで、再びぼんやりと湖のほとりを眺めながら、昨夜、ボウネスの港まで散歩した夜を今一度、思い出した。 ハーヴィーの背に乗り、風になって湖面を駆ける夢のようなひと時。だが、寂しそうなハーヴィーの言葉と表情が再び浮かんで、ドキドキとうるさい胸の奥が、少しだけ痛む。 今夜、ハーヴィーと話をしてみなくちゃ……。 ハーヴィーが今、なにを思っているのか。どうして彼は昨夜、『恋をしたらいけないのかな?』と訊ねたのか。今は、あれが冗談だったのか、真面目な質問だったのかすら、わからない。けれど、はっきりとしていることもまたあった。僕がハーヴィーを深く信頼していること。そして彼を好いていること。恋かと問われれば、それは違っているのかもしれないが、ハーヴィーに悲しい顔をさせたくはない。僕は今、ハーヴィーがどんな気持ちでいたとしても、彼のすべてを受け入れたいと思っていた。*** 午後の調教はなんとか熟したものの、やはり僕はハーヴィーの異変を感じずにはいられなかった。ハーヴィーは昨日と変わらず従順で、僕の指示通りに動いてくれたし、一度も抵抗せず、実に大人しかった。ただし、生き生きとした瞳の輝きが、今日は少し曇っているように見えたのだ。思い当たる原因は――ひとつしかない。僕と彼は、できるだけ早く、話す必要があった。 その夜、僕は夕食を終えると、急いでハーヴィーの馬房へ走った。「ハーヴィー?」「あぁ……、オリバー……」 僕の姿を見るなり、ハーヴィーは体から光を放
Last Updated : 2025-09-12 Read more