「……っ」 しかし、トーマスさんの言った通りだった。下りは体が前後に揺れて、上りよりも体勢を保つのが難しい。腰が浮くと、勢いあまって前へ転げ落ちてしまいそうになる。だが、僕は必死に尻をハーヴィーの背に押しつけるようにして、バランスを取った。トーマスさんに忠告された通り、重心を後方へかけ、腰が浮かないように尻を押しつける。 ――オリバー、大丈夫?「へ、平気だよ!」 半ば強がって声を出す。さっき、この丘を上っていたときには向かい風だったが、今は追い風だ。その風に、背中を押されているような心地がして、僕は懸命に尻を鞍に押しつけて、バランスを取り続けた。今、少しでも気を抜けば、ハーヴィーの背から落ちてしまいそうだ。それを想像すれば、だんだんと体が硬くなる。ところが、不意にハーヴィーの声が頭の中で響いた。 ――大丈夫。オリバー、ぼくは君を絶対に落馬なんかさせやしない。信じて……! それを聞くなり、トーマスさんに言われた言葉を思い出す。馬を信じる。ハーヴィーを信じる。そうして、彼と心の奥深くで繋がっている、自分を信じる。 大丈夫……。大丈夫だ。 すると、自然と体が柔らかくなったように感じて、余計な緊張は解けていった。体勢も安定した。そのまま丘を駆け下りて、馬場へ向かい、小道へ入る。そうしてその柵の中へ駆け込むようにして入った。「いいじゃないか、オリバー!」 トーマスさんが声を上げて、ガッツポーズをしている。僕はクールダウンをしながら、徐々にスピードを落とすようにハーヴィーを促し、トーマスさんのそばまで行って手綱を引く。ハーヴィーは動きを止めたが、まだ呼吸を荒らげて興奮しているようだ。よほど楽しかったのだと見えて、僕は頬を緩める。「やぁ、やぁ、驚いた! すごくよかったよ!」「本当ですか! でも、トーマスさんの言った通りでした。下りは難しいですね……」「そうだろう。でも、うまくバランスを取れていたじゃないか。ギャロップが初めてだなんてとても思えなかった! やはりスノーケルピーと君は素晴らしい相性なんだ!」 トーマスさんがそう言った途端、ハーヴィーはブルル……と鼻を鳴らした。ずいぶんと嬉しそうなキラキラした瞳に、僕も笑みを零す。もちろん、ギャロップは初めてではないのだが、それはトーマ
Last Updated : 2025-09-29 Read more