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All Chapters of 君と風のリズム: Chapter 51 - Chapter 60

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10ー3

「……っ」 しかし、トーマスさんの言った通りだった。下りは体が前後に揺れて、上りよりも体勢を保つのが難しい。腰が浮くと、勢いあまって前へ転げ落ちてしまいそうになる。だが、僕は必死に尻をハーヴィーの背に押しつけるようにして、バランスを取った。トーマスさんに忠告された通り、重心を後方へかけ、腰が浮かないように尻を押しつける。 ――オリバー、大丈夫?「へ、平気だよ!」 半ば強がって声を出す。さっき、この丘を上っていたときには向かい風だったが、今は追い風だ。その風に、背中を押されているような心地がして、僕は懸命に尻を鞍に押しつけて、バランスを取り続けた。今、少しでも気を抜けば、ハーヴィーの背から落ちてしまいそうだ。それを想像すれば、だんだんと体が硬くなる。ところが、不意にハーヴィーの声が頭の中で響いた。 ――大丈夫。オリバー、ぼくは君を絶対に落馬なんかさせやしない。信じて……! それを聞くなり、トーマスさんに言われた言葉を思い出す。馬を信じる。ハーヴィーを信じる。そうして、彼と心の奥深くで繋がっている、自分を信じる。 大丈夫……。大丈夫だ。 すると、自然と体が柔らかくなったように感じて、余計な緊張は解けていった。体勢も安定した。そのまま丘を駆け下りて、馬場へ向かい、小道へ入る。そうしてその柵の中へ駆け込むようにして入った。「いいじゃないか、オリバー!」 トーマスさんが声を上げて、ガッツポーズをしている。僕はクールダウンをしながら、徐々にスピードを落とすようにハーヴィーを促し、トーマスさんのそばまで行って手綱を引く。ハーヴィーは動きを止めたが、まだ呼吸を荒らげて興奮しているようだ。よほど楽しかったのだと見えて、僕は頬を緩める。「やぁ、やぁ、驚いた! すごくよかったよ!」「本当ですか! でも、トーマスさんの言った通りでした。下りは難しいですね……」「そうだろう。でも、うまくバランスを取れていたじゃないか。ギャロップが初めてだなんてとても思えなかった! やはりスノーケルピーと君は素晴らしい相性なんだ!」 トーマスさんがそう言った途端、ハーヴィーはブルル……と鼻を鳴らした。ずいぶんと嬉しそうなキラキラした瞳に、僕も笑みを零す。もちろん、ギャロップは初めてではないのだが、それはトーマ
last updateLast Updated : 2025-09-29
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10ー4

「ハーヴィー、苦しくない?」 ――全然平気! ハーヴィーの楽しそうな声が頭の中で響き、僕は笑みを浮かべる。まだたった二回のコース練習だが、それでも僕はハーヴィーとの一体感を感じずにはいられなかった。互いの呼吸を合わせて、鼓動のリズムを合わせる。ハーヴィーとひとつになって風のように丘を上り、そして駆け下りる。まるで羽が生えたような気分だ。このままふたりで空へ飛び立ってしまいそうな、自由な感覚は途方もなく気持ちよかった。 そうして馬場へ戻ると、僕はさっきと同じように、ハーヴィーにその内側を大きくラウンドさせ、走らせる。ハーヴィーは徐々にスピードを落とし、トーマスさんの前で止まった。「よーし、ギャロップは問題ないな! これから少し馬場の中で障害の練習をして、お昼にしよう!」「はい」 そのあと、僕とハーヴィーはトーマスさんの指示のもと、障害の練習に入った。トーマスさんは馬場の中に設置されていた障害物のそばへ近づき、一番低い所にポールを合わせる。「オリバー、馬術は減点方式だ。君たちの信頼関係はもちろんだが、クロスカントリーではコース取りが勝敗のカギになってくる」「コース取り……」「そうだ。いいかい、選択は二つある。たくさんの障害物をクリアしながら最短距離を取って、時間短縮を狙うダイレクトルートか、障害を越えるリスクは減るが、遠回りするためにどうしても通過時間がかかるロングルートだ。君たちは二つのコースを選択できるし、どちらを取ってもいい。だが、どちらにしても、障害を必ず越えなきゃならんことに変わりはない。それが少ないか、多いか。それだけだ」「はい……」「そして上位を狙うなら、減点はなるべく少ない方がいい。通過に時間がかかるのは安全で、無難な道だが、君たちの目標は完走ではなく、上位を目指すことだ。通過時間での減点はもったいない」 僕は、トーマスさんの言葉の裏側を察した。この競技において、障害を越えないという選択肢はあり得ない。数が少ない、または簡単な障害だとしても、そこにリスクがないわけではない。どの道、リスクはあるのだ。しかも、僕らは上位三位までに入らなければならないという約束を、リーさんとしてしまった。アマチュア大会といえども、その枠に入るのは容易ではないだろう。おそらく、僕とハーヴィーはできるだけダイレクトコースを取らなければならなくなる。トーマ
last updateLast Updated : 2025-09-30
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10ー5

 その日、僕とハーヴィーは昼食を取ったあとも、トーマスさんの指導のもとで、引き続き障害の練習を続けた。午後のルーチンワークはほかの従業員に任せて、ひたすらに障害を飛び、その感覚を身につけたのだ。しかし、そう長く続けることはできない。障害の練習は非常にハードで、僕はもちろん、ハーヴィーにもひどく負担がかかる。そのため、練習できる時間は限られていた。「汗、いっぱい掻いたね、スノーケルピー」 夕方、練習を終えて馬房に帰る途中、僕がそう声をかけると、ハーヴィーは寄り添うように歩き、袖を甘く噛んだ。彼はじゃれているのだ。よほど、今日の練習が楽しかったに違いない。「もう。かじっちゃやだよ」 そう言っても、ハーヴィーはやめてくれない。だが、こういうなにげない時間が、僕は好きだった。こうして触れ合っていると、僕はいつだって温かな気持ちになれる。幸せを無条件に感じられる。自然と「愛してる」という言葉が浮かんで、ハーヴィーの耳元でそっと囁くと、彼は鼻を鳴らしながら、余計にじゃれついてきた。「相変わらず、ラブラブだねえ」 外乗から帰ってきたルークさんに声をかけられる。僕はハーヴィーと視線を合わせ、ふふ、と笑みを零した。まさか、恋人同士でじゃれているなんて、誰が想像するだろう。きっと誰にもわかりはしない。ハーヴィーの正体も、僕との関係も、ふたりだけの秘密。それを思えば、なんだか自然とにやけてしまう。僕たちは秘密の恋人なのだ。 そうして、ふわふわした気分で馬房へ戻ると、ライルさんが僕たちを待っていた。「やぁ、お疲れ」 「お疲れ様です」 「ちょっと見てたけど、なかなかよかったな。すっかりパートナーって感じだ」 「ありがとうございます。でも、スノーケルピーのおかげです。僕はおんぶにだっこですから」 僕はハーヴィーを連れて馬房へ入り、彼の鞍とハミを外してやった。それから体や鬣にまんべんなくブラシをかけて、ごほうびのニンジンと水をあげる。ハーヴィーはブルブル……っと鼻を鳴らし、しっぽを振っている。どうやら喜んでくれたようだ。一方で、ライルさんは馬房の外でにこにこしながらその様子を眺めていた。「彼もきっと同じことを言ってるんじゃな
last updateLast Updated : 2025-10-01
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11 声をあずけて

 夕方の仕事を終え、僕は汗をシャワーで流してから、トーマスさんやライルさんたちと、みんなで夕食を取った。サマータイムの夕食は実に賑やかだ。だが、今日はそれもほどほどにして、ひとりで抜け出し、馬房へ向かう。祖父母からの手紙は、まだズボンのポケットに入ったままだ。「ハーヴィー?」 僕が馬房を覗き、声をかけると、ハーヴィーは馬房の中でたちまち人の姿に変わり、僕をぎゅうっと抱きしめた。それから、頬や鼻の頭に口づけられる。もうすっかり慣れた逢引きだが、そのやり取りは以前よりもずっと恋人らしいものになっている。「オリバー、待ってたよ!」 だが、ハーヴィーの声が馬房の中に響き渡り、僕は慌てて人差し指を彼の唇に当てた。近くにはまだディナーを楽しんでいる人もいるので、大きな声を出したら見つかってしまう。それを話すと、ハーヴィーはふふ、と笑ってから「静かにする」と約束してくれた。「もう少ししたら、みんなも部屋に帰ると思うから。それまでここで隠れていよう」「わかった。なんだかぼくたち、イタズラしてるみたいだ」 ハーヴィーは楽しそうに笑って、馬房の藁の上にあぐらを掻いて座る。藁は夕方、きれいにしたばかりで、馬房の中には香ばしい匂いがしていた。僕も「そうだね」と笑って、ハーヴィーの隣へ座る。そのまま彼の肩にもたれると、ハーヴィーはそっと僕の肩を抱いてくれた。そうしながら、手紙のことを思い出す。「ねぇ、ハーヴィー。今夜は部屋へ来ない? 君と一緒に手紙を読みたいんだ」「おじいさんとおばあさんからの? ぼくも見ていいの?」「もちろん」 まるで、恋人に大事な家族を紹介するような気分だ。僕はそのまましばらく、みんなが解散するのを馬房で待って、ハーヴィーを宿舎の部屋に招き入れた。前と同じようにオークリーさんに分けてもらった紅茶を淹れてから、ハーヴィーと並んでベッドに腰掛け、ペーパーナイフで手紙を開ける。ハーヴィーは開いた手紙を覗き込み、僕は手紙の内容を声に出して読んだ。「オリバー、元気ですか。私たちは元気でやっています。仕事が慣れてきたようでよかった。葦毛馬は性格が荒いから、仲良くなるには苦労するかもしれないね。でも
last updateLast Updated : 2025-10-01
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11ー2

「君には遠慮して話さなかったって書いてある」「ああ……。きっと僕が、いつも父さんを怒ってばかりいたから……」 なにかにつけて突っかかる僕に、父は気を遣ったのかもしれない。いや、きっとそうに違いなかった。父が生前、なにを考えていたのかなんて、幼い僕は考えようとせず、かまってくれないと、怒ってふてくされるばかりだった。感情的にならずに、もっと話をすればよかったのに、どうしてそんなことができなかったのだろう。どうして、父が自分勝手だと、仕事人間だと決めつけてしまったのだろう。 僕のせいだ……。 僕はため息を吐く。すると途端に、ハーヴィーは「オリバー」と名前を呼び、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。「違うよ。君のせいじゃない」「ハーヴィー……」「お父さんやみんなが君に遠慮したのは、君が怒っていたからじゃない。きっと――君の将来を決めつけないためさ」「決めつけないため……?」「そうだよ。君の将来は君が決めるべきだし、君にはたくさんの可能性がある。なんにでもなれる。でも、馬具屋の息子に馬術をさせて、みんなが夢を負わせたら、君の将来は自然と強制されてしまうだろ」「……だから、あえて僕には言わなかったってこと?」「ぼくはそう思うよ。君が自分で夢を見つけるまで、みんなは我慢して黙っていたんじゃないかな」 ハーヴィーの優しい言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。本当のところはわからない。祖父の書いた「遠慮」という言葉がどういう意味なのか。それを考えてみても、僕には自分のせいだとしか思えなかった。仕事に明け暮れる父に、僕はいつも不満があって、感情的になって、怒っていたからだ、と。だが、ハーヴィーのくれた言葉には、少なからず僕は救われていた。「もしかしたらさ、君のお父さんは、オリバーに馬の仕事に興味を持ってほしくて、それで仕事を頑張っていたのかもしれないよ」「僕のために……? そうなのかな……」「きっとそうだよ。ぼくは君の家族を知らない。会ったこともない。でも、今の君を見ていれば、君がすごく愛されていたんだってことはわかる。君のお父さんはきっと夢中だったんだ。いつか君が同じ世界に立つ日を夢に見て、仕事が楽しくて、しようがなかったんだよ」 ハーヴィーがそう言った。優しい声と言葉に、自然と目の周りが熱くなってくる。心がほろほろとほぐれていく感覚
last updateLast Updated : 2025-10-02
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11ー3

 言葉にするのはちょっと恥ずかしくて、途切れ途切れになってしまう。すると、ハーヴィーはそれを聞くなり、深いため息を吐いた。「そんなこと言われたら……、ぼくは今夜、無理やりにでも君を抱いてしまうよ……」 「大丈夫だよ。ハーヴィーがしたいって思ってること、してみて」 「本当にいいの?」 「うん……」 頷いたあと、僕はハーヴィーにちゅ、と口づけた。彼に我慢をさせたくない。したいと思うことを、なんだってしてほしい。それがたとえ、ちょっと苦しいことだったとしても、僕はハーヴィーが望むことならなんだって堪えることができる。「僕は今まで、男の人に抱かれるなんて、考えたこともなかった。男の人を好きになることだって……。でもハーヴィーは……」 ハーヴィーになら、無理やりだとしたって抱かれても構わない。彼がそれを望むなら、むしろ喜んでこの身を差し出せる。そう思った。ハーヴィーとこの先へ進みたい。深く結ばれたい。以前そう思ったのは、一時の感情ではない。「君だけは……特別なんだ」 「オリバー、君を傷つけたくない。でも、君が望んでくれるなら――……」 「うん……」 抱いてほしい。君に。そう言いかけた時、コンコン、とドアがノックされた。「おおい、オリバーいるか?」 僕は慌てて立ち上がる。聞こえてきたのは、ライルさんの声だ。焦るあまり、僕は真っ青になって扉の向こうを見つめ、だが、ひとまず返事をする。「は、はい……ッ?」 「休んでるとこ悪いな。ちょっと渡す物があるんだ」 「ま、待ってください! い、今は、ちょっ、今――……」 「なんだよ、その声。もしかして素っ裸なのか? タオルでも巻いてくれよ。開けるぞ」 「や……、だめ! 待って……!」 今、恋人を連れこんでいるので――なんて言えるはずもなく、僕は途方に暮れた。ハーヴィーの姿はぱっと見ても、明らかに不思議な容姿だ。長い銀髪で、両方の目は蒼と琥珀色。まるで宝石。耳介は尖っているし、おまけに尻にはふさふさとしたしっぽがついている。人の形をしていても、普通ではないことぐらいすぐにわかるだろう。それでなくても、ライルさんは冷静で賢く、咄嗟の嘘に騙されてくれるような人ではない。「どうしよう……。ライルさんだよ……」 「ぼく、隠れなくちゃ」 「うん。でも、どこに――」 どうにかしてハーヴィーを隠さ
last updateLast Updated : 2025-10-03
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11ー4

「オリバーは変わった奴に好かれる体質なのかもな」「そう……かもしれません」「それじゃ、良かったら晩酌楽しんで。おやすみ」「おやすみなさい」 そう言って、扉を閉め、ふうっと息を吐く。 よかった……。なんとかなった……。「オリバー……」 弱々しい声でハーヴィーが僕を呼ぶ。振り返ると、彼はシャワールームからひょっこり顔を出していた。だが、その髪はびしょびしょに濡れている。僕は慌ててシャワールームに駆け込んで、シャワーの栓を締めた。「オリバー、ごめんよ。ぼく、静かにしようとしたのに、ちょっとさわったら栓がくるんって回っちゃったんだ……」「ううん、いいんだよ。ごめんね、僕こそシャワールームに押し込んじゃって……あぁ、服がびしょびしょだ……」 僕はハーヴィーのシャツを脱がせて、バスタブの中でぎゅっと絞ると、それを広げて部屋の中へ干した。それから、急いでバスタオルを取ってきて、彼をベッドに座らせて、髪を拭いてやった。だが、そのうちにハーヴィーはくすくす笑い出す。「ハーヴィー? どうしたの?」「前もさ、突然の雨でここへ来たよね。あの夜も、びしょびしょに濡れちゃって、君はこんなふうに髪を拭いてくれた」「そうだったね」 雷雨の夜――。僕はハーヴィーとふたりきりで夜を過ごした。それからベッドでじゃれ合って、彼の体温を感じながら眠りに落ちた。穏やかで、温かな夜だった。「君の匂いのするベッドで、君に寄り添って眠った。幸せだったな……」「僕も、ハーヴィーと一緒に眠れて、すごく幸せだった……」「本当に?」「うん……。ねぇ、ハーヴィー。今夜もここで、僕と一緒にいて……」 僕がそうねだると、ハーヴィーは顔を上げる。僕は彼の髪に掛けられたバスタオルを退けて、彼の瞳をうっとりと見つめた。すると、ほどなくして、ハーヴィーは僕を優しく抱き寄せる。距離が一気に近くなって、トクトクトク……と、心臓が高鳴っていく。そうして、彼の唇に誘われるように、そっとそこへ口づけた。「ん……、んぅ……」 優しいキス。だが、触れるだけのキスでは終わらない。そのまま僕たちは、どちらともなく、柔らかな感触を丁寧に味わうように唇を食んだ。ぎゅっと腰を抱かれ、重なり合う唇からは、ちゅ、ちゅ……と音が鳴る。だんだんとふたつの唇は甘く、深く、触れ合
last updateLast Updated : 2025-10-04
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11ー5

「あ……、ふぁ……」 しかし、そうされながら思い出す。昨夜も僕は、こうして意地悪をされたのだ。「あん……、ハーヴィー……」「ん?」「もっと……ちゃんと、触ってくんなきゃやだ……」 自然と身をよじってしまうのも、ねだるのもちょっと恥ずかしい。けれど、もっと強い快感が欲しくて、僕は催促を我慢できなかった。ハーヴィーは目を細くして微笑み、「ごめん」と言ってから、やっと敏感になった胸の尖りに触れてくれる。「ん……ッ、んぅ……」 指先で掻くような愛撫に快感を得ながら、僕は夢中でハーヴィーに口づけていた。ハーヴィーは僕の胸の尖りを指の腹で撫でては、腫れあがるように首を上げた先端をきゅっと摘まんで、また撫でる。その感覚がひどく気持ちよくて、全身が火照っていく。だが、その熱は徐々に、下半身に集まって、僕の股の間に膨らみを作っていく。「ハーヴィー……、それ、きもちい……」「好き?」「ん、好き……」 ハーヴィーの愛撫も、ハーヴィーのキスも。全部好きだ……。 まるで興奮を煽られているような気分だった。ふたつの胸の尖りを同時にいじられて、舌を絡ませ合い、キスは激しさを増していく。だが、不意に唇が離れ、Tシャツを脱がされた。ハーヴィーの前で上半身をあらわにするのは初めてだ。しかし、恥ずかしがる余裕も与えられず、すぐに彼は首を持ち上げている胸の尖りに唇を押しつけた。「あん……ッ」 胸の尖りを、ちゅ……と吸い上げられ、唾液を含んだ舌が這う。何度も何度も、ねっとりと押しつけられる舌の感触は、ゾクゾクとした快感をくれる。しまいにはそれを飴玉のように舌で転がされ、甘噛みをされ、僕の股の間はさらに膨らんでいった。「あぁ……、あぁん……」「オリバー、声……我慢しないと。みんなに聞こえちゃうよ……」「わかってるけど……、ハーヴィーのキス、すごくきもちいから……」「我慢できない?」 ハーヴィーは目を細めて、ちゅ、と僕に口づける。こく、と頷くと、ハーヴィーは「じゃあ、いいことがあるよ」と囁いて、僕の唇に、もう一度キスをした。「いいこと?」「そう。今夜だけ、君の声をぼくが食べてあげる」「声を?」「うん。
last updateLast Updated : 2025-10-06
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11ー6

「ごちそうさま。どう? 声、出ないでしょ?」 こく、こくと頷く。だが、これでは会話ができない。僕の気持ちも伝えられない。気持ちいいも、おねだりも、わがままも、甘い言葉も、なにも。だがハーヴィーはそんな僕の心を読んでいるかのように答えた。「大丈夫。君の声はぼくにちゃんと届くから。心の中で話すときみたいに、ぼくに話しかけてみて」 不安を感じながらも、僕は頷く。それから心の中で、ハーヴィーを呼んだ。 ――ハーヴィー、僕の声が聞こえる? おそるおそる、訊ねると、ハーヴィーは僕の髪を撫でて、「聞こえるよ。ちゃんと、聞こえてる」と答えてくれた。僕はたちまち安心して、ハーヴィーをぎゅっと抱きしめる。 ――よかった。「これでもう、ぼくたちに不安なことはなにもない。ぼくは君を、思いきり愛せるよ」 ――うん……。いっぱい愛して、ハーヴィー……。 ハーヴィーへの想いが一気に溢れ、胸が苦しくなる。僕とハーヴィーはどちらともなく、唇を塞ぎ、再び夢中でキスをした。 ――あぁ、ハーヴィー……。君を愛してる。こんなに、こんなに……。 声を出せない分、心の中でハーヴィーの名前を呼び、彼を求める。呼吸をする暇がないほど深く口づけ合う中で、ハーヴィーは再び僕の体を撫で始め、胸の尖りをいじり始めた。 ――君を、愛してるよ……。「はぁ……、オリバー……。ぼくだって君を愛してる……。いつも、なにをしていても君のことを考えてばかりで……、ぼくはいつだって君が欲しくて堪(たま)らない……。君はぼくをおかしくさせる人だ……」 甘くまろやかな声で囁かれ、ゾクゾクと全身が粟立った。ズボンの下はすでにひどく窮屈だ。そこを少し楽にしたくて、だが、キスをするのも止められず、僕は身をよじった。すると、ハーヴィーは散々、胸の尖りをいじった手をゆっくりと下へ移して、僕のズボンのボタンを外してくれ、ファスナーを下ろしてくれた。その中から現れたのは、下着一枚を纏った膨らみだ。そこには小さな染みができている。 ――ああ……。「オリバー、大きくなってる。苦しい?」 ――うん……。お願い、触って。ハーヴィー……。 僕が心の中で必死にねだると、ハーヴィーは下着の中へ手を滑り込ませ、僕の硬
last updateLast Updated : 2025-10-07
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11ー7

 ハーヴィーはうっとりと僕を見つめ、そう言った。それから、僕をベッドのそばへ誘い、そこへ座らせると、僕の目の前で、まるでひざまずくようにしてしゃがみ、僕を見上げ、妖艶な微笑みを向ける。その表情に、苦しくなるほどドキドキと心臓が高鳴った。 そそり立った肉棒には、ハーヴィーの手がそっと添えられ、ゆっくりと唇が近づいていく。僕はそれが自分の肉棒の先に触れるのを見つめ、その瞬間に目を瞑った。 ――あぁ……! 肉棒に纏う体液を舌で掬うように、ハーヴィーの舌が丁寧にその輪郭を這う。同時に、ゾクゾクと全身が粟立って、たまらずに僕は身を反らした。股の間の肉棒は、ハーヴィーの舌が這うたびに反応してしまって、ビク、ビク……と震えながら、揺れた。 ――あっ、あ……、ん……。 刺激的な快感に、僕は目を開ける。ハーヴィーはそれの先端の、鈴口の辺りを、ちゅう、と吸い上げ、すじの上からなぞるようにして舌を押しつけていた。そのまま茎を伝うように下へ向かい、根元に何度もキスを落とす。そうかと思うと、また茎を丁寧に舐め上げて、先端へ向かうのだ。 ――あぁん……、きもちい……。 僕の心の声が、ハーヴィーには聞こえているのだろう。彼は嬉しそうに目を細めながら、何度も何度も、僕の顔を見上げ、口淫を続けていた。そんな彼の姿を、僕は見つめる。心臓を高鳴らせ、呼吸を荒らげ、快楽に浸る。だが、もっと強い快楽を知っている体は、それだけではとても満足できないようだ。腰が催促をするように自然と揺れ始めると、ハーヴィーは口を開けて、僕の肉棒の先端をすっぽりと咥え込んでしまった。 ――あぁ……っ! じゅる、じゅる……と肉棒を丸ごと吸い上げられる。その下の茂みはハーヴィーの唾液(だえき)と自らの体液でぐっしょりと濡れていく。 ――あぁっ、あ……、ハーヴィー……、もっと……。 僕が催促をすると、ハーヴィーは茎の辺りを手で握り、上へ下へと扱き始める。一方で先端は咥えられたまま、執拗に吸い上げられた。僕は彼のくれる快楽に溺れて仰け反り、支えきれなくなった体を後方へ倒す。しかし、その時だ。ハーヴィーは僕のそれから突然
last updateLast Updated : 2025-10-08
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