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All Chapters of 君と風のリズム: Chapter 41 - Chapter 50

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8-6

「大会には出ていい。その代わり、上位三位までには入ってくれ。それくらいじゃないと印象が薄くて目立たないからな」「上位三位? ちょ、ちょっと待ってくれ。彼らはまだ一度も大会に出たことがない。クロスカントリーすら、練習していないんだ」「……大会に出るつもりだったのに、練習をしていないのか?」「あぁ、いや――」 トーマスさんがうっかり口を滑らせたのを、リーさんは聞き逃さずに鋭く問う。すると、それまで静観していたライルさんが言った。「彼らはあなたに承諾をもらってから、練習を開始するつもりでした。サプライズとはいえ、馬主であるあなたに秘密で、勝手にクロスカントリーを始めるなんてよくないと……これは、オリバーの気遣いです」「ほう」「参加申請には期限がありますが、辞退はいつでもできる大会ですから」「なるほど」 ライルさんの言葉に気をよくしたのか、初めてリーさんは微笑んだ。それから、深く頷いてこう続ける。「クロスカントリーには出ていい。この馬を売るのは――……その結果次第で考えようか」 これは奇跡だ。ただの口から出まかせで、思いつきだけで、こんなにもうまくいくなんて。クロスカントリーの経験はないが、ハーヴィーと一緒ならきっと上位にも入って見せる、と僕は心を躍らせる。「それじゃあ、大会の日程は追って報せてくれ。当日は用事が入っていなければ観に行くよ」「わかりました。よろしくお願いします」「期待しててくれ! 彼らはきっとやるぞ!」 トーマスさんの言葉に、リーさんは肩をすくめる。それからすぐにその場を去り、車の方へ戻っていく。彼はクロスカントリー大会にも、自分の馬にもさほど興味はなさそうだった。たぶん、興味があるのは馬主としての評判を上げることだけ。もちろん、もうハーヴィーを手放そうとしていたわけだから、そういう反応に驚きはしないが、それにしてもひどい。僕は内心、苛立ちを覚えていた。 あの人は、きっと本当に馬を自分のアクセサリーか、ただの持ち物みたいにしか思っていないんだ……。馬は、ハーヴィーは、生きているのに。心だってあるのに。 しかし、その苛立ちはただ燻らせているだけでは無意味だ。大会出場への情熱に変え、燃やしていかなければならない。なにしろ僕は、
last updateLast Updated : 2025-09-19
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9 星の指輪

 リーさんが帰ったあと、トーマスさんは勝手な嘘を吐いた僕になにも言わず、もちろん咎めることもしないで、すぐに事務所へ駆けて行って、クロスカントリー大会の運営係に連絡を取ってくれた。 とうに出場申請期間は終了していたらしいが、アマチュアの地方大会ということ、また、トーマスさんの知り合いが、偶然にもその運営係にいたことで、今回、僕とハーヴィーは特別に出場権を得た。それからはもう大忙し。今後の予定についてはトーマスさんやライルさんと綿密に話し合いをして、クロスカントリー大会の練習は明日より行われることになった。 しかし、練習といっても、このウィンダミア乗馬クラブには外乗コースと馬場、それにだだっ広い放牧地しかない。クロスカントリーの練習をするには、馬に乗って越える、障害物が必要不可欠だった。「即席でも、作るしかないか……」 たった数人で、障害物を今からこの敷地内に作る。この難関を前にして、さすがにトーマスさんも頭を抱えていた。ところが、その話を聞いた厩務員の先輩たちは、誰もが僕の考えに賛同してくれ、協力をすると申し出てくれたのだ。 ハーヴィーは言うことを聞かない気性が荒い馬ではあった。従業員の中には、いまだその体に触れない者も多い。だがみんな、馬を愛する気持ちは等しく同じだったのだ。馬は友だちであり、家族であり、仲間。たとえ、自分とは関りが薄かったとしても、守るべき存在である、と。その精神は、この乗馬クラブの従業員全員の魂に宿っていた。 そうして僕たちは一致団結し、トーマスさんの指示に従って、このウィンダミア乗馬クラブの敷地内に即席ではあるが、クロスカントリーのコースを作り上げた。水場を使用する障害物は、湖で練習することにして、障害物になる物を探しては設置していく。馬場の中には使われないまま、納屋に放置されていた障害物が引っ張り出された。 それでも、準備としてはあまりに不十分で、即席のコースは本番で使用されるものとは明らかに異なる、粗末で短いコースだった。だが、それがこのウィンダミア乗馬クラブの精一杯。本来であれば、もっと経験を積み、しっかりした練習を熟すために、設備のある馬術センターなどでの練習も必要になるだろう。それはトーマスさんをはじ
last updateLast Updated : 2025-09-20
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9-2

「うん……。でも、おかげでわかったよ。僕は君と同じなんだってこと」「ぼくと、同じって……?」 訊き返され、深く頷く。それから、一度、深呼吸をして、胸に秘めていた想いを口にした。「僕は君を、ハーヴィーを愛してる。それがはっきりわかったんだ。だから……もう少し、先へ進んでみたい。君と」「先へ――……本当に?」「うん……。僕は君と、心の奥深くで繋がったパートナーだと思ってる。でも今は、それだけじゃ物足りないんだ。もっと深く君を知って、もっといっぱい、君を感じたい。これからは、心と、体の両方で君を……」 そう言葉にすると、なんだかとても恥ずかしくなってきて、頬がかあっと火照っていく。そんな僕を見つめ、ハーヴィーは目をまん丸くした。それから、涙をいっぱい溜めて、深く息を吐き、僕を抱きしめる。これまでのどんなハグよりも、強い力で。「ぼくのものに、なってくれるんだね……」「うん……」 彼の腕の中で、こく、と頷く。だが、あまりに強く抱きしめられるせいで、まともに息ができない。僕はハーヴィーの背中をバシバシと叩く。「ハーヴィー……! ちょっ、苦しい……」「あっ、ごめん……!」 慌てて体が離される。しかし、ハーヴィーの瞳は決して僕を離そうとしなかった。じっと見つめられて、僕もまた、蒼と琥珀色の瞳の奥を見つめる。それから、ハーヴィーはくす、と笑みを見せた。僕も釣られて微笑み、そっと目を閉じる。そうして初めて、彼にキスをねだった。するとほぼ同時に、唇の上には温かくて柔らかな熱が重なった。「ん……」 互いの柔い唇が擦れるようにして何度も、何度も重なり合う。これは、おはようのキスでもなく、会えて嬉しいのキスでもなく、おやすみのキスとも違う。以前、ボウネスで交わしたときと同じ。甘くて、とろけるような、官能的なキスだった。「んっ、ふ……、あ……」 僕はキスを交わしながら、ハーヴィーのシャツにしがみつき、そのまま首の後ろに腕を伸ばして彼を抱きしめた。ハーヴィーへの想いが、体中から溢れてくる。そうして気付く。やはり、僕はずっと、こんなキスをしたかったのだ。ハーヴィーと夢中で互いを求め合うような、熱くて甘いキスを。「ハーヴィー……。たぶん僕、ずっと、こんなふうに、君とキスしたかったんだ……」「早く言ってくれたら
last updateLast Updated : 2025-09-21
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9-3

「なにもかも捨てて?」 訊ねられ、僕は頷く。すると、ハーヴィーは「嘘だ」と笑ってから、僕の唇に、ちゅ、とキスを落とした。「ほんとだよ」と返して、僕もキスをする。「ん……っ」 わずかに唇が触れただけの、挨拶(あいさつ)のようなキス。いくら繰り返しても、それだけではとても物足りない。僕は何度も、何度もハーヴィーと唇を重ねる。そうして、ハーヴィーと短いキスを繰り返していた。だが、やはり足りない。「ん……、ねぇ、ハーヴィー……」 「なに?」 「さっきみたいなキス、したい……。甘くて、長いの……」 もっと深く。もっと甘く。互いに唇を食むような、キスがしたい。僕がまたねだると、ハーヴィーは嬉しそうに頬を緩める。それから、僕の唇を甘く噛むようにして、キスをした。「ん……、はぁ……」 「オリバー……」 「ん……」 「大好きだよ……」 「僕も……」 強く抱きしめ合って、甘く囁き、互いに相手の唇を食む感覚に途方もない快感を得る。心臓が、ドクン、ドクン……と強く波打って、鼓動はどんどん速くなっていく。僕は火照った体をハーヴィーに密着させ、ゆっくり、ゆっくり、唇を食んだ。だんだんと呼吸が浅くなっていくのも、意識が遠のいていくのも、気持ちがいい。そのうち、ハーヴィーは唾液を含んだ舌を、僕の口の中へ侵入させた。「ん……っ、あ……」 「はあ……」 僕も負けじと、舌を彼のそれに絡ませる。時折、舌先をちゅっと吸われると、僕も同じようにして返した。ちゅ、ちゅぷ、という濃厚なキスの音と、互いの荒い呼吸が、静かな丘の上に響いている。草の上に寝転がって、夢中で唇を食み、強く強く、抱きしめ合う。じんわりと、頭の奥の方が麻痺していくような、こんな快感は初めてで、どこか恐ろしくもなる。だが、こんなにそばにいるのに、こんなに密着しているのに、それでもまだ、僕は物足りない。 もっとハーヴィーのこと、感じたい……。もっと深いとこまで……。 心の中で、そう強く願った時。腹の下が疼くような感覚に襲われる。そこへ一気に熱が集まっていく。ドクン、ドクン……と全身が脈を打って、やがて股の間が急激に熱を持ち、膨れ上がった。「ん……、ふぁ……」 どんどん|膨《ふ
last updateLast Updated : 2025-09-22
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9-4

「あ……、ふぁ、ん……」 股の間がどんどん熱くなる。さっき少し楽になったと思ったのに、もう今は一枚纏っているだけの下着もはち切れそうだ。僕は身をよじりながら、体をびくびくと震わせていたが、やがてどうにも辛抱できなくなって、腰を浮かせた。「あぁ……」 ハーヴィーの太ももの辺りに擦れるようにして、僕の股の間の突起した部分が当たる。すると、ハーヴィーはようやくそこに触れてくれた。「ここ、触るね……」「ん……、あ……」 下着の上から、膨らみを柔く握るようにして、撫でられる。何度かそうされていたが、そのうちハーヴィーの手指は下着の中へ滑り込んできて、じかに僕の肉棒を撫で始めた。「はぁ……、あ……、ん……」「オリバー、ここ……。すごい熱くなってる」「だって……、僕、早く……ハーヴィーに、触ってほしくて……」「ごめん……。我慢してるのわかってたんだけど……、君がもじもじしてるのすごく可愛くて、意地悪しちゃった……」 ハーヴィーに握られた肉棒は、先走りの体液を滲ませて、次第にぬるぬると滑りを増していく。先端の頭は手の平で撫で回され、鈴口の辺りには指の腹が押しつけられて、くるくるとなぞられる。仕舞いには茎のあたりを握られて、ゆっくり、上へ下へと扱かれる。やがて、ぐちゅ、ぐちゅと卑猥な水音が聞こえ始めると、僕はもう恥ずかしくて堪らなくなった。思わず顔を手で覆い隠すものの、その手はハーヴィーによってすぐに退けられてしまう。「あぁ……っ、や……、あ……」「オリバー……、きもちいい?」「ん……、あっ、あぁ……」「かわいい……。こんなエッチな顔するオリバー、初めて見た……」 ハーヴィーは僕をうっとりと見つめながら、扱く手を徐々に速めていく。強く握ったり、急に優しく撫でたりを繰り返しながら。僕は今、快楽のままに、かすれるような声を上げて喘ぎ、ゆっくりと、だが着実にその絶頂へ昇っていた。敏感になった肉棒を握られ、愛撫されるのは、途方もなく気持ちがいい。けれど、まだ果ててしまいたくはなくて、必死に堪える。「あぁっ、あ……っ、ん……」「オリバー……、また、我慢してるでしょ……?」「は
last updateLast Updated : 2025-09-24
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9-5

「あぁ……、や……あん、きもちい……、あぁ……っ」 こんなエッチなことを、誰かにされた経験なんてない。それなのに、ハーヴィーは僕が気持ちよくなれる場所をすでに知っているかのようだった。裏すじの辺りをしつこくさすられて、先端をしゃぶられ、何度も吸い上げられて、僕はどうすることもできない。ただ、彼のくれる快楽に身を委ねて、感じて、悶えながら、喘ぐだけ。「あぁっ、はあ……、あぁ……」 彼の愛撫はとても丁寧で優しい。それなのに、途方もない快楽をくれた。もう今にもハーヴィーの口の中で果ててしまいそうで、僕は腹の底から込み上げてくるものを必死で堪えようとする。だが、我慢しようとすると、ハーヴィーは僕を煽るように、ぎゅうっと強く僕の肉棒を握るのだ。「あぁっ、やめてハーヴィー……っ、でちゃう……」 ――出して、大丈夫だよ。 頭の中で、ハーヴィーの声が響く。いつものように優しくて、穏やかな声だ。「でも……、あぁ……っ」 ――オリバーの、全部出して。ぼく、君が欲しいんだ。「そんな……、あぁん……っ」 ハーヴィーに握られ、容赦なく扱かれ続け、僕はやがて限界を迎えてしまった。「あぁっ、あっ、ハーヴィー……っ、で、でちゃうよ……、あ……、だめ……、ああぁん……っ!」 僕は嬌声を上げながら、快楽の頂に達した。ドクン、ドクン――と全身が脈打ち、肉棒もそれに合わせて痙攣している。ハーヴィーは僕の肉棒を咥えたまま、じゅる、じゅる、と何度かそれを丁寧に吸い上げ、ごくん、と喉を鳴らした。どうやら、僕の白濁の体液を飲み込んでしまったらしい。僕は骨抜きになってぼんやりとその光景を見つめる。「ハーヴィー……、飲んじゃったの……」「うん。ごめんね、オリバー。怖かった?」「ううん、平気……。すごく、きもちよかった……」 ハーヴィーは嬉しそうに微笑み、僕に体を重ね、唇を塞ぐ。僕はもうすっかり果ててしまって脱力し、体の自由を失っている。それなのに、ハーヴィーと口づけ合っていると、再び彼が欲しくなって堪らなくなった。「ん……っ、はあ、ハーヴィー……」「オリバー……」 夢中で舌を絡ませ、口づけ合って、呼吸
last updateLast Updated : 2025-09-24
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9-6

 その言葉を聞けば、頬が緩む。自分の愛撫で、好きな人が感じてくれているのが、こんなに嬉しいことだなんて思ってもみなかった。僕は自分もハーヴィーの肉棒を舐めてあげようと下着をずり下ろす。ぶるんっと揺れて、ハーヴィーの肉棒があらわになる。 やっぱり、すごい大きい……。 一瞬、そのたくましさに怯んだが、そこへ唇を近づけ、鈴口にちゅ、と口づけた。「あ……っ」 ハーヴィーが艶やかな声を上げる。その声がもっと聞きたくて、僕は舌を出し、そのたくましい輪郭をなぞるようにして、そこをねっとりと舐め上げた。鈴口から溢れる透明な体液も逃さずに、舌先で掬って、ちゅうっと吸い上げる。「あぁ……、オリバー……」 目を潤ませて、ハーヴィーは僕の口淫を感じていた。僕はさっき彼がしてくれたのと同じように、ハーヴィーの肉棒の輪郭に舌を這わせて、そこかしこにキスを落としていく。だが、そうしているうちにだんだんと自分の異変に気が付いた。 変だ……。僕、ハーヴィーを気持ちよくさせてあげようとしてるのに……。 じゅる、じゅるとハーヴィーの肉棒をしゃぶるうちに、頭の奥が心地よく痺れていく。どこか、全身が麻痺していくような感覚に陥っていくのだ。だんだんと、意識はぼんやりとしていくのに、ハーヴィーへの欲望は強くなるばかりで、気が付けば、さっき果てたばかりの僕の肉棒は服の中で、再び膨れあがってしまっていた。「ん……、はぁ……」 僕が徐々に興奮し始めた様子に、ハーヴィーは気が付いたのだろう。「オリバー……」と艶っぽい声で名前を呼び、僕の髪をくしゃくしゃと撫でた。「オリバー……、もしかして、ぼくのを舐めながら感じてくれてるの……?」「うん……。おかしいかな、僕……」 ハーヴィーの肉棒を咥えてしゃぶりながら、少しだけ恥ずかしくなる。どうしてこんなにもドキドキしてしまうのだろう。このたくましさに、いったい僕は、なにを求めているのだろう。わからない。でも欲しい。男同士でセックスをするなんて考えたこともなかったのに、今、僕は飲み込みたくなるほどに、ハーヴィーを欲して、彼の自身を吸い上げ、舐め上げていた。「ん……っ、なんだかドキドキして……、はぁ、僕、
last updateLast Updated : 2025-09-25
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9-7

「よかった……。ぼくも、すごくきもちいよ……」「ハーヴィー……、あぁっ」 誰もいない草原の真ん中で、ハーヴィーは僕を見下ろし、呼吸を荒くして、腰を振っている。まるで、うねる波に揺られるような感覚だった。乱れた長い髪を掻き上げることもしないで、快感のままに喘ぐハーヴィーは、途方もなくエロティックで美しい。そんな彼を見つめながら、僕もまた、快楽に溺れる。さっき果てたばかりだというのに、今また、快楽の高みを昇り、もう今にも二度目の絶頂を迎えてしまいそうだ。「あぁっ、あっ、どうしよ……、また……でちゃうよ……、でちゃう……」「うん……、一緒に気持ちよくなろう……、一緒に……」 そう言って、ハーヴィーは僕の首すじに顔を埋める。そこにはいくつもキスが落とされ、時々、鈍い痛みを感じたが、それすらもひどく気持ちがいい。二人の体が、これでもかというほど密着し、擦れ合う中、気付けば僕は自ら腰を浮かせ、ハーヴィーのくれる快楽のリズムに合わせ、腰を揺らしていた。「あっ、あぁっ、あぁん……っ、も、だめぇ……」「あぁ……、ぼくも、もう、でちゃいそうだよ……、あ……、あぁ……っ、でる……、オリバー……っ」「ああぁんっ、ハーヴィー……、あ、あぁ……っ!」 ハーヴィーに名前を呼ばれた瞬間、僕は全身を震わせて、二度目の絶頂を昇り、果ててしまった。ビク、ビク……と何度も痙攣しながら、徐々に体中が脱力していく。ハーヴィーもまた、僕をぎゅうっと抱きしめながら呼吸を荒くさせて、全身を震わせていた。お腹の辺りには、互いの肉棒から吐き出された白濁の体液がべったりと付着している。「ハーヴィー……、大丈夫?」 抱き合ったまま、静かに訊ねる。すると、ハーヴィーははぁ、と深い息を吐いてから答えた。「うん……。すごくきもちよかった……」「僕も……」 そう答えたあと、僕とハーヴィーは互いに黙ったまましばらく抱き合っていた。だが、そのうちにハーヴィーは服を脱ぎ始め、それを湖の水で濡らしてきて、僕のお腹を丁寧に拭って綺麗にしてくれる。「いっぱい出たね」と少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて。 それから、再び丘の上で二人で並んで寝転がり、夜空を見つめた。ハーヴィーは腕まくらをしてくれて、僕は彼のたくま
last updateLast Updated : 2025-09-26
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10 クロスカントリー

 翌日――。僕はいつもより、少しだけ早く起床した。まだ夜明け前の、薄暗い部屋の中で、ベッドから起き上がり、顔を洗って、身支度をする。そうしながら、夕べのことを思い出した。 ハーヴィーとの深く甘いキス。誰もいない草原。満天の星空。抱きしめ合って感じた、彼の体温。そうして、熱を帯(お)びてしまった互いの欲望の塊を、愛撫し合ってどうしようもなく快楽に溺れたひと時。なにもかもが、まるで夢だったかのように感じてしまう。 あれも、セックスっていうんだよね……、きっと……。 自分が恋をしているということにも、妖精の恋人ができたことにも、その相手と愛し合ったことも、なんだか実感が湧かない。だが、左手の薬指にはちゃんと指輪が嵌められている。そのおかげで、僕はハーヴィーと恋人関係になったことも、互いの想いを交わし合ったことも、すべてが紛れもない現実なのだと信じることができた。 ハーヴィーの馬房へ行くと、彼はまだ眠っていた。藁の上に横になり、穏やかな寝息を立てている。今日もまた、馬になってしまった美しい恋人を、僕は見つめた。灰色の鬣も筋肉質な体も、長い睫毛もすべてが愛おしくて、だが、少しだけ切なくなる。いつか、ちゃんと彼に魔力が戻って、朝になっても人型の姿のままでいられるといいのに――と、思う反面、魔力が戻れば、ハーヴィーはこの乗馬クラブにいる理由はなくなるわけで、帰る方法も見つかるかもしれない。そうすれば、こんな朝はもう二度とやってこないのだ。 彼の幸せを願えば願うほど、愛が深まれば深まるほど、僕はハーヴィーとの時間には限りがあることを思い知らされる。いつか、別れなければいけない。そう思うと、胸が締めつけられるようだった。「ハーヴィー……」 声をかけて、そうっとハーヴィーの部屋の中へ入る。ハーヴィーはうっすらと目を開けた。僕は周囲にまだ誰もいないことを確認して、彼の頬にちゅ、とキスをする。「おはよう……」 そう言うと、ハーヴィーが起き上がった。そうして、頭を僕の体にそっと擦りつける。 ――おはよう、ハニー。ぼくの愛しい人。 頭の中に、甘くまろやかな声が響く。恋人らしい言葉はまだどこかくすぐったく感じられてしまうが、嬉しくて胸の鼓動が速くなる。その頬を指先で撫でてやると、ハーヴ
last updateLast Updated : 2025-09-27
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10ー2

「最初のコースはこの馬場を出て、小道を走って、あの丘の上――……放牧地の丘まで行って、同じ道を戻ってくるようにしよう。いいかい、スノーケルピーに全速力を出させるんだよ」「はい」「途中、障害物を置いてあるところもあるが、今のところはそれは無視していい。まずは、ただ走って行って帰ってくる。それだけだ」「はい」「ただし、無理は絶対にしないこと。ギャロップが出せそうになければ、駆歩でもいい。怖かったらすぐに馬を止めることだ。手綱をグッと引いてね」 トーマスさんはどこか心配そうに言う。しかし、僕はギャロップには自信があった。なにしろ、夜中、彼との散歩で、すでに何度もそれを経験しているし、もっと言えば、僕は鞍も手綱もない裸馬の状態の彼に乗り、湖面を駆けてボウネスまで行っているのだ。あの風になった夜を、僕は忘れない。感覚はよく覚えている。「大丈夫です。できます」 僕の返事を聞くと、トーマスさんは少し離れて一度、頷いた。僕も返すように頷いて、乗り場までハーヴィーを引く。そうして、彼の背に跨った。「少し馬場をラウンドして。常歩でいい」「はい。スノーケルピー、少し歩こう」 僕が言うと、ハーヴィーは馬場の中をゆっくりと歩き出した。ひとまずはいつものように常歩でラウンドして、馬場の中を一周する。それは体が温まってくるまでの、いわば準備運動だ。常歩と速歩を繰り返し指示すると、ハーヴィーは馬場の一番外側を従順に歩いていった。だが、早く走りたいのだろうか。彼はすぐにぶんぶんと首を振り始める。「スノーケルピー、もう少し慣らさないとだめだよ」 僕が言うと、ハーヴィーはブルル……と鼻を鳴らす。それから、すぐに大人しくなって、やはり常歩を続けた。まるで、しょうがないなぁ、とでも言っているかのようだ。だが、穏やかなその瞳には今、広大な丘が映っている。僕はそんな彼を見て、笑みを零した。「トーマスさん!」「ん?」「彼が我慢できないみたいなんで、僕たち、もう行きます。あの丘の上までギャロップで行って、帰ってきます!」「うん、よし」 そう言うと、トーマスさんは馬場の出入り口を開け、ポケットから笛を取り出した。「この笛を吹い
last updateLast Updated : 2025-09-28
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