「大会には出ていい。その代わり、上位三位までには入ってくれ。それくらいじゃないと印象が薄くて目立たないからな」「上位三位? ちょ、ちょっと待ってくれ。彼らはまだ一度も大会に出たことがない。クロスカントリーすら、練習していないんだ」「……大会に出るつもりだったのに、練習をしていないのか?」「あぁ、いや――」 トーマスさんがうっかり口を滑らせたのを、リーさんは聞き逃さずに鋭く問う。すると、それまで静観していたライルさんが言った。「彼らはあなたに承諾をもらってから、練習を開始するつもりでした。サプライズとはいえ、馬主であるあなたに秘密で、勝手にクロスカントリーを始めるなんてよくないと……これは、オリバーの気遣いです」「ほう」「参加申請には期限がありますが、辞退はいつでもできる大会ですから」「なるほど」 ライルさんの言葉に気をよくしたのか、初めてリーさんは微笑んだ。それから、深く頷いてこう続ける。「クロスカントリーには出ていい。この馬を売るのは――……その結果次第で考えようか」 これは奇跡だ。ただの口から出まかせで、思いつきだけで、こんなにもうまくいくなんて。クロスカントリーの経験はないが、ハーヴィーと一緒ならきっと上位にも入って見せる、と僕は心を躍らせる。「それじゃあ、大会の日程は追って報せてくれ。当日は用事が入っていなければ観に行くよ」「わかりました。よろしくお願いします」「期待しててくれ! 彼らはきっとやるぞ!」 トーマスさんの言葉に、リーさんは肩をすくめる。それからすぐにその場を去り、車の方へ戻っていく。彼はクロスカントリー大会にも、自分の馬にもさほど興味はなさそうだった。たぶん、興味があるのは馬主としての評判を上げることだけ。もちろん、もうハーヴィーを手放そうとしていたわけだから、そういう反応に驚きはしないが、それにしてもひどい。僕は内心、苛立ちを覚えていた。 あの人は、きっと本当に馬を自分のアクセサリーか、ただの持ち物みたいにしか思っていないんだ……。馬は、ハーヴィーは、生きているのに。心だってあるのに。 しかし、その苛立ちはただ燻らせているだけでは無意味だ。大会出場への情熱に変え、燃やしていかなければならない。なにしろ僕は、
Last Updated : 2025-09-19 Read more