「スノーケルピー! 大丈夫だよ、落ち着いて……!」 「まったく……。ちょっとまともに走ったかと思えばこれだからな」 やって来たのは、案の定、デクスター・リーさんだ。彼は急に暴れ出したハーヴィーを見て、鼻で笑った。彼の態度は、自分の愛馬に対してのそれとはとても思えない。僕は苛立ったが、ここで自分まで感情的になってもどうしようもないことは理解していた。込み上げてくる苛立ちを必死にこらえる。今は堪えなければ。まだ――と。「暴れ馬は健在ということか」 「……さっきまでは大人しかったんですが、おかしいですね」 ぼそり、と。そう言ったのはライルさんだった。僕は彼の言葉に、皮肉が隠されているのを感じる。「そうか。相当な気分屋なのだろうな。あるいは私への嫌がらせか」 「デクスター、この馬はそんなことはしないよ。とても立派な馬だ。それに、さっきのレースを見ただろう? 点数を見てくれ。ほぼ満点だ!」 「もちろん。スノーケルピーには価値がある。おかげで気持ちが決まったよ」 ふと見ると、リーさんのそばには一人の見知らぬ男性が立っている。その男性の姿を見た途端、僕はたちまち不安を感じ、胸はざわざわと騒いだ。おそらく、その場にいた誰もがその嫌な胸騒ぎを感じただろう。「……彼は?」 「ブランドン・エバンス。私の友人だ。申し訳ないが、スノーケルピーは今後、彼の手に任せようと思っている」 「えぇ……っ!」 裏返った声で驚いたのはトーマスさんだった。僕はあまりのことに声が出ない。「来週末に、迎えを出すよ。彼はウェールズで農場をやっていてね、経験も豊富だし、自分の農場で面倒を見れるということだから、安心だ」 「じゃあ、来週には……」 「君らには迷惑ばかりかけてしまったが、これで安心だ。万事、丸く収まる」 「そんな……、デクスター……! この前と話が違うじゃないか。君は今回の大会の結果次第で、スノーケルピーのことは考え直すと、そう言ってただろ?」 「考え直したさ。だからこんな辺境の地まで、わざわざ時間を割いて、足を運んだんじゃないか。これは考え直した結果の答えだよ。今日、あの馬はやはり価値があるとわかった。だが今後、私にとってよりふさわしく、従順な馬にしていくためには、より厳しい調教をさせなければならない」 「だが……、だがな…
Last Updated : 2025-10-21 Read more