グリージアの王家四人が庭園中央に作られた舞台へあがると、人々の視線が集まる。 国王が前に進み出て、朗々と声を張り上げた。「ようこそお越しくださいました。今年もまた、グリージアの春を存分にお楽しみください!」 その声に応じて杯が掲げられ、花の香りとともに賑わいが広がっていった。「では、この宴に華を添えるものを始めよう。わが国の誇りである音楽を、ここに披露しよう!」 王の声が響き渡ると、人々の視線が再び舞台へ注がれる。 ここからは多くの曲が披露されるが、その先陣を切るのが王太子ハロルドと、その妃マリッサだ。 遠方から招かれた客人たちは、待ちきれぬように身を乗り出して囁き合った。「まあ、王太子ご夫妻が直々に演奏を披露なさるとは! なんと贅沢な宴でしょう」「ハロルド殿下の横笛の腕前は、かねてより聞き及んでおります。妃殿下もご一緒とは……これは楽しみだ」 素直な喜びと期待がその表情にあふれている。 けれど、グリージアの貴婦人たちは別の色を宿した瞳で舞台を見つめていた。 扇で口元を隠した令嬢が、わざとらしく小声で囁く。「まあ……妃殿下が、演奏を? これまで一度としてお披露目をなさらなかった方が、ついに舞台にお立ちになるのね」 くすり、と笑う声があちこちで重なった。「さすがにこの『花見の宴』ではそのお心をお決めになるしかなかったのでしょう。……ああ、そのお覚悟が悲しい結末にならなければ良いのですけれど!」 別の貴人が、半ば面白がるように杯を傾ける。「噂では、妃殿下は楽に通じていないと……。グリージアの王太子妃ともあろう方がそれでは困りますな」「いやいや、意外と捨てたものではないかもしれませんぞ。まあ、もしも拙くともまた一興。王太子殿下の腕前でしたら問題なく取り繕われるでしょうが……いやはや、どうなさるやら」 楽師たちが静かに舞台の端へ控える。 代わって中央にはハロルドがマリッサと共に進み出た。 ハロルドの手は、磨きあげられた銀の笛が握られている。 光を受けてきらめくそれは、彼の姿をより凛としたものに見せていた。 隣に立つマリッサは、笛とよく似た色の髪を春の風になびかせている。 蜜色の肌に映える青い瞳はまるで星の光を宿したように輝き、観衆の息を呑ませた。 召使いたちがそっと椅子と譜面台を運んでくる。 ハロルドがそこに掛け、見事
Last Updated : 2025-10-03 Read more