以前、正修は「すべて君の意思を最優先にする」と言っていた。そして今、ちょうどその時が来たのだ。「分かった。良い日を選んで、家の者と一緒に正式に伺うよ。おばあさんとお父さんにお会いして、両家の縁組を公表する日と、俺たちの婚約の日程を相談しよう」正修が奈穂を家まで送る時も、あるいは彼女に会いに来る時も、いつも入り口のところまでで中には入らなかった。それは、まだ家族を伴って正式に挨拶に来ていなかったからだ。ここは、彼にとって将来の義実家。だからこそ、なおさら礼を尽くす必要がある。「うん」しばらくして、二人は一緒に車を降りた。正修は名残惜しそうに彼女を抱きしめ、その場から動かず、奈穂が水戸家の門をくぐるのを見送った。彼女の姿が完全に見えなくなってから、ようやく視線を引き戻す。ちょうどその時、携帯電話が震えた。着信表示を一瞥し、正修は電話に出る。「おじい様」「……」「分かった。今から向かう」……原田(はらだ)家の本家。ここは正修の母方の実家で、先ほどの電話も、夕食に来るようにという外祖父からのものだった。正修がリビングに入ると、ソファに座っていた若い女性が立ち上がり、頬を赤らめて声をかけてきた。「正修さん……」彼女が誰なのか思い出せず、外祖父の招いた客だろうと考え、軽く頷くだけにとどめた。「九条様、どうぞお掛けください」原田家の執事が満面の笑みで腰を折り、「こちらへ」と手振りで示した。「お好きなお茶もすでに用意させております。すぐにお持ちしますので」正修は女性の向かいのソファに腰を下ろし、執事に尋ねた。「おじい様は?」「ご主人様は書斎にいらっしゃいます。まだ少しお仕事が残っているようですので、先にお待ちください。こちらは斎木(さいき)様。ご主人様の長年のご友人のお孫さんでして。お二人でゆっくりお話しされて、親しくなっていただければと」斎木悦美(さいき えつみ)は恥じらうように彼を一瞥したが、正修は彼女を見ることもなく、かすかに眉をひそめ、執事へ向ける視線に不快感を滲ませた。その言い回しが婉曲であっても、意味ははっきり伝わってくる。――原田家の執事は、正気なのか?執事はその視線に射抜かれ、額に冷や汗を浮かべる。だが仕方がない。これはすべて主人の指示であり、逆らえるはずもな
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