中村秘書は眉をひそめ、腑に落ちない様子で言った。「社長のご指示ですか?」正修の秘書は、厳しい選考を何度も経て選ばれたエリートばかりだ。ところがこの女性は、人事部のマネージャーに突然連れて来られた人物で、インターンでもなければアシスタントでもない。いきなり正修の秘書にするという。しかも、最近秘書部で採用を行うという話は、自分は一切聞いていなかった。「そんなに細かいことは聞かなくていいですよ」人事部のマネージャーは意味ありげにウインクしながら言った。「とにかく、社長が反対することは絶対にありませんから」若い女性は中村秘書に向かって微笑みかけた。「中村秘書、はじめまして。これからどうぞよろしくお願いします」中村秘書は目の前の女性を見た。なかなかの美人で、雰囲気も悪くない。その笑顔には、どこか自信のようなものもにじんでいる。ふと、中村秘書の脳裏に大胆な考えがよぎった。まさか、この人が――社長の恋人なのでは?突然会社に現れたのは、社長を驚かせるため……?人事部マネージャーの表情を見ているうちに、中村秘書はますます自分の推測が正しい気がしてきた。もしそうなら、この女性は将来の社長夫人になる可能性が高い。もっとも、中村秘書も正修の下で長く働いてきた人間だ。場数は踏んでいる。表情には何も出さず、女性に丁寧に挨拶をすると、こう言った。「念のため、先に社長に確認してきます」どうであれ、まず正修本人に説明しておくべきだ。万が一何かあれば、責任を問われるのは自分だから。「中村秘書」彼が振り返ろうとしたその時、女性が呼び止めた。「私も一緒に、正修さんにお会いします」――正修さん?この呼び方は、なんとも意味深だ。しかし中村秘書は顔色一つ変えず、「それもいいでしょう」と答えた。人事部マネージャーは軽く咳払いをして、「じゃあ、私はこれで失礼します」と言い残し、立ち去った。人事部マネージャーが去った後、中村秘書は女性を連れて正修のオフィスの前まで行き、ドアをノックした。「入れ」許可を得て、中村秘書はドアを開け、女性とともに中へ入った。正修はメールに目を通しており、二人には視線を向けなかった。「しゃ、社長……」中村秘書が女性の件を説明しようと口を開いたその瞬間、女性が先に声を上げた。「正修さん」その
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